真美の彼女心5
扉の前で丸くなっていると、人が走る早さの足音が聞こえた気がした。
顔をあげて立ち、扉の方に体を向けると慌てるガチャガチャと音も聞こえる。
勢い良く扉が開き倉庫に月明かりが差し込む。扉を開けたのは、やっぱり匠だった。
「良かったぁ。」
思わず言葉が出た。
それまで険しかった顔が、とたんに泣きそうに変わったのでヘラリと私は笑った。
「まぁちゃん…。」
私を抱きしめた匠は、髪も息も乱れていた。こんなに寒いのに匠の体もポカポカと暖かいくらいだから、随分あちこち急いで探してくれたんだろう。
「やっぱり、たっくんが見つけてくれた。良かったぁ。ありがとう。」
そうして私は外に出られた。
「まずは暖まろう。お前もこいよ。
匠が見た後ろには、息を切らせた小柄な可愛らしい同級生が安心した顔をしていた。顔だけ知っている彼女。
何故ここにいて一緒になのか分からなかった。
三人で、いつもの帰り道とは逆に方向にあるすぐ近くのコーヒーショップまで私は匠に肩や腰を抱かれて入った。
すぐに私がトイレに行くと匠が、入口近くで携帯を触りながら待っていてくれている。
店の時計を探してみると、8時だった。
もっと遅い時間かと思ってた…。
「大丈夫?何のむ?」
そんな私に匠が、労るような声と情けない顔で頼んだ暖かい飲み物を買ってくれ、一つのテーブル席に向かう。
その、テーブルの上には何も無く、さっきの同級生がうなだれて小さくなって席に座っている。
何が良いか聞く事はためらわれ、私と同じ物を買うよう頼むと、匠は嫌そうな顔をしたけれど行ってもらった。
「ごめんなさい。…私が閉じ込めたの。大丈夫だった…?ごめんなさい。」
私が席に座り飲み物を「どうぞ」と差し出しとすぐに、伺うように見て小さく言った。同級生の隣の席には、私の荷物がある。
一瞬、それなら飲み物まで気にしなくて良かったと思った。
閉じ込めたのに、あんなに息を切らせて匠と倉庫まできて素直に謝り、私を心配する同級生。複雑な気持ちになる。
「もう少し早く来て欲しかった…。」
そうとしか言えなかった。
匠も席につき、飲み物を私を軽く睨んで前に置いた。
「ありがとう。」
今、飲み物あげて何してんだコイツって絶対思ったな。
この人が、閉じ込めたなんて知らなかったんだもん。睨まないでよ。
心の中でぶつぶつ文句を言って、私が暖かい飲み物を少し飲んで安心の大きなため息をついた所で、匠に低い声で促した。
「おい…。」
「本当にごめんなさい。」
涙声の同級生。泣かれても私が困る。
オロオロしていたら、匠が教えてくれた。
倉庫は、高田さんの企みだった。
「で、なんでお前が真美にあんな事をした。」
「高田さんとは中学が同じだったの。」
彼女と私達は、違う中学だ。
彼女は中学三年の時に、高田さんと同じクラスになった。クラスに慣れた頃から高田さんが中心となって、無視や嫌がらせや噂が始まったそうだ。
中学でも可愛い高田さんと目立つタイプではない同級生は、それまで親しくもなく心当たりもなかった。一時は学年に広まった事もあったが、受験もあり高田さん達だけになり友人もいた。
けれどそれは執拗で、自分の受験もあり精神的にとても辛いものだったらしい。
高校で高田さんと離れた、高校は平穏な日々だった。高田さんに、会えば嫌味を言われビクビクしてしまうから、会わないよう願いながらも高校生活は楽しかったみたいだ。
それが突然高田さんからメールが来た。
「ちゃんと断れば良かった。本当にごめんなさい。いつ見つかるか気になってばかりだった。」
そう、泣く彼女に匠は高田さんからのメールとアドレスを自分に送らせ彼女のメール受信画面の写真もとり、二人で保護をかけた。
高田さんからは
「このメールは読んで覚えたら、すぐに消しなさい。
あんたも見たかもしれない谷沢さんの事だけど、遊びのターゲットだったの。それだけだから、もういいの。
それより私、あの彼女の佐藤ってのが気に入らないの。地味で可愛くもないくせに私に偉そうな言い方や態度するのよ。気に入らないの。
あんた、同じ学校で佐藤でしょ?だから都合がいいのよ。
中学でイジメられてたわよね?高校でバラしたらどうなるかしら?色々、付け足して、そうなるようにするのも面白そうね。
されたくなかったら協力しなさいよ。
佐藤って奴を、昼休みに誰か使って呼び出して体育館の倉庫にでも閉じ込めて。
あんたの上靴を佐藤の下駄箱に入れて、誰にも見つからずに靴と荷物を持って佐藤がサボって早退したように見せかけなさい。
ついでに、あんたも早退したらいいわ。
自分の荷物は怪しまれないように何とかしなさいよ。
あんたも、楽しく高校生活送りたいでしょ?
怪我をさせるとか、襲わせるとか酷い事じゃないわ。
そんな事した事ないし、したい訳じゃない。
ただ、閉じ込めるだけ。すぐに誰か見つけるわ。」
その後、電話で言葉たくみに学校の様子を聞き出したらしい。
そして、あまり使われない倉庫なら鍵が失くなっても気が付かれにくいとか、荷物を持ち出すタイミング等細かい指示を出されたそうだ。
「高校は中三の時より酷くなりそうよね。卒業まで一年ちょっとあるし。
嫌なら絶対に明日やりなさいよね。
誰も怪我も傷つきもしない。閉じ込めるだけだし、すぐに出されるから大丈夫よ。」
そう電話を切られたらしい。
どう見ても、すぐに私を見つけさせる気は高田さんに無かったと思う。それを隠した高田さんが怖かった。
当たったのは、寒くて寂しくてトイレに困っただけで、私が傷つかなかっただけ。
傷つけられ悔やみ悩んだのは、匠と同級生の同級生の佐藤さんだ。
可愛いけれど、頭も変に賢くて余計に怖い本当の高田さんをそのメールと話で知る。
しかも、それが同じ二年だ。平凡で単純に閉じ込められた私との余りにの作りの違いに少し落ち込んだ。
そうして同級生の佐藤さんは、あまりにの指示にメールを読んでも覚える気にもなれず消さないまま、一晩悩んだそうだ。
そして、賭けのように翌日の今日の昼休みに見かけた同じ部活の三年生に呼び出しの伝言を頼んだそうだ。
学年も違うし来なかったら、それで良いと思ったかららしい。それでも来たので、高田さんのすぐに見つかるを信じて鍵を閉めたらしい。
高田さんの細かい指示は無視したらしい。
誰もいない今日からわざと、机の中はそのままにして机の中身のない鞄と荷物だけを持ち帰り早退した。高田さんに言われた靴箱までは、出来ずにそのままに。
机の中身もそのまま、靴も残っていたら高田さんが言うより早く見つかるだろうと言っていた。
匠が私が居ない事に気が付いたのは、5時間目の体育の時の終り頃だったらしい。今日は、学校の外周を走る遠距離走だった。
いつまでも見えない私を探してくれた匠。
授業が終わると匠は急いで着替えて、いつもより短い休憩時間に
「また何かあったのか」
と、急いで行った保健室には誰もいない。
また、教室に走り戻ると私の机には荷物も無い、続いて走り開けた靴箱には上靴がある。
誰に聞いてもお昼休みから私の姿は知らないまま六時間目が始まった。
嫌な予感にメールを打ったり、電話をして待っても何もなく、じれじれして終わり間際に保健室にまた走ったそうだ。
今度はいた先生に聞いても、私は来なかったと聞いた。
放課後、担任に聞いても何も知らないし、逆に聞かれたらしい。
桜ちゃんに聞いても
「真美ちゃんが、誰にも何も言わずに帰るって何かおかしいと思う。初めてじゃないかな。家で携帯も気が付かないくらい調子悪いのかな。」
中学からの桜ちゃんの言葉に、心配が深まるばかりだった匠。
調子が悪く無断で早退かと思って、探しながら家に行っても帰っていない。学校に戻りながら、また探してみてもいない。
携帯も繋がらない。
嫌な予感しかしてこなかった匠。
それから、私を探し始めてくれた。
家に居なかったら、戻って学校を探すとと匠が言っていたので三人組も教室に残っていてくれたそうだ。
四人で、校内の怪しい所をくまなく探しても反応も無くいない。
もうすぐ先生の見回りがあり校舎の鍵は閉められる。
校外で何かあったのか?
けれど校内にいたら?
どちらか分からない。
もし校内にいたら今、見つけないと真美は翌日まで見つからないかもしれない。
一晩、暗く寂しい場所で一人過ごすかもしれない。泣いてるかもしれない。
学校や先生にも知られたら大きな騒ぎにもなり、真美が嫌がり余計な事で悩みそうだ。
気持ちばかりが焦っていく。
三人には、帰りに見かけたら教えてくれるように言って帰ってもらった。
桜ちゃんと匠が電話を何回もかけるが繋がらない。
そう匠は、動き探し続けてくれたそうだ。
そんな頃に、同級生の佐藤さんは早退したものの私が気になり家に居る気にもならず、制服のまま外に出ていたそうだ。
暗くなってから家に帰りやっと部屋にもどった同級生の佐藤さんに高田さんから電話があった。
「どう?上手く行った?荷物や上靴もちゃんと持って帰った?」
全部、言われた通りしたと嘘を答えると
「そう。後の事はあんたがした事なんだから、あんたが一人でなんとかしなさいね。私は知らないし何もしていない事だから。」
そこで、初めて高田さんのずる賢さと自分がした事の大きさに同級生の佐藤さんは気が付いた。
机の中身も上靴も残っている。鞄と荷物だけない怪しい早退に、校内を探すだろう。高田さんの言葉の通りに見つかっているはずだ。
同級生の佐藤さんが私の荷物を見ると微かにバイブの音がする。ごめんと謝りながら携帯を探して、開くとズラリと並ぶ匠と桜ちゃんからの着信履歴。
見つかっていないと思って、慌てて私の荷物と鍵を持ち、学校に向かって走りはじめたらしい。
私は、地面が雨で濡れていたので靴を履いて倉庫に向かった。
匠達は、靴箱は見たけれど机の中までは、誰も見なかった。
匠達には、私が校外か校内かどちらにいるかわからないまま、私は倉庫にいた。
同級生の佐藤さんが走っている頃。
匠は、教室の鍵を閉めて担任に返し、職員室の鍵の返却のボードを観察した。
いくつか無かったが、ボードの一番下の端にある体育館倉庫の鍵が一つない。
そこか?
とりあえず向かおうとしたら、校庭の端を小走りする鞄と荷物を持ち同級生が見えた。
おかしく思い走り寄って行く匠。同級生の佐藤さんが私のキーホルダーのついた鞄と荷物を持っている。
「高田さんに頼まれたの。本当にごめんなさい。これ鍵。先に行ってあげて。」
何も言わずに匠は鍵を受け取り全力で体育館に走ってくれた。
一通り話が終わると
「佐藤さんも谷沢くんも本当にごめんなさい。」
同級生の佐藤さんが謝ってくれるけれど、言葉がでない。
「俺に謝られても困る。」
匠が困った顔で言って私を見る。
「私は寒かっただけで大丈夫だから。嫌がらせや噂が嫌なのもわかるけど…。来るなら、明るいうちに来て欲しかっただけ。」
私も困り微妙な返事しか返せない。
高田さんと同じ中学で同じ佐藤なばっかりに、脅され捨て駒のように使われた佐藤さん。
許す言葉は出ないけれど、怒って責める気にもなれなかった。
私達の返事に、また泣きはじめた佐藤さんに何て声をかけて良いかも分からなかった。
「今日は、もう帰ろう。話するなら明日にしよう。それでいいか?」
次に出た匠の言葉で帰る事にした。
匠に送られ家に帰ると、どうしたのか聞かれたけれど匠達と遊んでいた。と答えて部屋に向かった。
携帯を開くと電話もメールも沢山履歴があって、桜ちゃんと青井、柳、松山に少し電話して匠にメールを送りお風呂に入った。
身体の芯からゆっくり暖まるお風呂が極楽に思えて、嫌な気持ちも一緒に流れていくようでサッパリできた。
明日ゆっくり話をするって何を話すんだろう。
少し身体を怠く感じながら、そう思って寝た私は翌日に発熱してしまった。




