真美の彼女心2
「谷沢と図書友達なのは良いけど、まぁちゃんと付き合ってるのは俺だ。
彼女として好きなのもまぁちゃんだけだ。」
匠は微妙な空気の中、嬉しい事を言いのこして帰って行った。
それから、自室に戻って着替えてみても高田さんの事が頭から離れなかった。
高田さんに残る印象は可愛い人だけ。
卑屈になりそうな事を考えていたら、CMの目力アップのキャッチコピーが頭に浮んできた。
私も、マスカラとかしたら少しは可愛くなれるかもしれない…。
そんな風に思ってしまうと、じっと落ち着かれず財布の中身を確認してドラッグストアに向かった。
ドラッグストアに着いて「イチ押し!」の指が1のポップのついたマスカラを手にして見ていたらミキさんに、また会ってしまった。
「また会ったわね。今度はマスカラ?」
「…見てただけ。」
つい見つめてしまったミキさんの目力は強かった。
そして、元々の目の形から違う事に気が付いてしまい、マスカラを棚に戻そうとした。
「私もそれ使ってるわよ。」
嬉しい情報に希望を持ってしまい、またミキさんの目元と長い睫毛をまじまじ観察してしまう単純な私。
「匠には、そのままの方が良いと思うけど…。」
ため息まじりに言った後、マスカラとアイラインのコツをミキさんは教えてくれた。
家に帰り落ち着いた頃、買ったマスカラとの練習をはじめてみる。
桜ちゃんが教えてくれたアイラインを引き、マスカラを使うと睫毛だけでなく手や顔のあちこちに黒い点々が付いてしまい、上手くいかず情けなくなってしまった。
マスカラを綺麗に落とし、鏡に映るノーメイクの自分の顔。。地味だ…。
公園で付き合う事になった翌日に、ノーメイクで色気のないセーターにジーンズで匠と会っても、あの手紙で笑う丁寧なエロ悪魔になった匠だ。
このままで、大丈夫と思う事にした。
高田さんの事は匠は断ってると言っていたし、私の目の前でも断っていた。
もし、私と別れると匠に言われたら、その時に考えよう。
高田さんの事で悩んでバイトでも疲れていたから私に、いつもよりベタベタ甘えてくれてたんだろう。
マスカラはゆっくり練習しよう。
無理矢理、前向きな答えを決めてお風呂に向かった。
それから何回も高田さんのお迎えがあった。
教室の窓から校門が見えるので、高田さんが居たら匠が
「今日も、ちゃんと断ってくる。」
そう言って一人校門に向かい、高田さんに何か一言言ってスタスタ匠は帰る。
その姿を教室の窓や校庭から見送る日が増えて、匠と手を繋ぎ一緒に帰る穏やかな日は減っていっていた。
二人だけの時も高田さんの話題は匠から断った報告以外はなくて、私が高田さんと顔を合わす事も話す事も無かった。
いくら一人、もやもや、いらいらしても匠を責められもせず、後ろ向きになったり前向きになったり気持ちだけが忙しい時間は増えていく。
たまに桜ちゃんに愚痴り、少し気持ちを軽くするだけの私だった。
そんな日々が一ヶ月程は経ったある日の放課後。
席に座ったまま帰り支度をしていた私の前にミキさんがツカツカやってきた。
つい、身構えてしまう。
「あのマスカラはしないの?」
今日もミキさんの目力は強く、睫毛もピンと長かった。
「上手く出来ないの…。」
また教えて欲しくなったけれで言えなくて、ごまかすように帰り支度を再開して小さな声になってしまった。
高田さんと会ったあの日から匠に少しでも可愛く見られたくて、夜に一人メイクを試していた。
けれど、すればするする程おかしくなり、上手く出来たとしても何だか似合わない様に思えて仕方なかった。
何もしないよりマシだろうと、基礎と眉を整え唇メイクだけは毎日続けてしていた。
「軽くで良いから付けて来てみたらいいのに。そのうち、やり方が分かるわよ。変ならすぐに笑ってあげるから。」
珍しく教室でミキさんと話をしていたからか、匠が来た。
「何してる?」
なんでもない。と私が答える前にミキさんが匠に言った。
「匠…。ちょっと、まぁちゃん借りるから待っててよ。先に一人で帰たりするんじゃないわよ。」
そしてミキさんは自分の席に向かい、鞄から可愛いポーチを取り出しミキさんの友達二人に何かを言って三人一緒に私の所にきた。
「さてと…。」
ミキさんの言葉を皮切りに、ミキさんの友達と桜ちゃん達にまでかこまれて私は化ける事になった…らしい。
まず、ミキさんか前髪を留め額をだして、私の前髪を留めはじめた手も動かしながらミキさんが話してくれた。
「何回かあの高田って子と校門で会ったわ。勝手に頑張るのはいいけど、匠の気持ちを無視してるから気に入らないのよね。」
「匠、ちょろちょろ邪魔。向こうにいてよ。」
目をつむるように言われていた私にミキさんの友達の声も聞こえた。
「あの時、私が彼女面して悪かったわね。もとからあんたを、視界に入れないようには気を付けてたのよ。ただの癖よ。癖。あんたがいるの分からなかっただけ。
それで、あの子が彼女がいるの知ってて言った事を聞いて、つい言い返えしちゃってたわ。
私がでしゃばってたから出られなかった?ごめんね。私が言い返した事は悪いとは思わないけど、今日はさっさとあんたが行ってきなさいよね。」
ミキさんのあの時あの子は、高田さんが初めて校門に来た日の事とはわかった。
されるがままに顔をあちこち誰かに引っ張られたり、弄られたりして相槌みたいな返事しか出来なかったけれど聞けた矛盾だらけの言葉に嬉くなった。
やっぱり、気づかなかっただけなんだ。
今も背中を押してくれようとしているミキさんを、更にグングン好きになりはじめていた私にグサリときた。
「あんたも気にしてるはずなのに、何もしないでコソコソ頑張るだけなのも気に入らないのよ。
諦めの悪すぎる高田も、私が匠の彼女じゃない事は知っているわ。
なのに、自分の彼女を隠してばかりの匠にもいい加減イライラしてきたわ。」
ミキさんの言葉に気持ちがじんわり解されていく。
ミキさんが高田さんに嫌な思いをさられていたかもしれない。
「ミキさん、ごめんね。大丈夫?」
「あんたに心配されるような事は何もないわよ。大きなお世話。」
すぐに黙るように言われた。
私と友達と話をしながら、私にメイクをするミキさんの器用さも良くわかった短い時間だった。
「こんなもんかしら。どうかな?」
「いいんじゃない。すごい可愛くなったよ。」
ミキさんに聞かれたミキさんの友達が鏡を貸してくれて見てたら、朝と全然違う私がいた。
「メイクで少しは自信がつくなら、安いもんじゃない。
まぁちゃんが匠の彼女なんだから。いつもここで、そんな顔してないで堂々としてりゃいいのよ。」
「なんか、ごめんね…。ありがとう。」
きつくも嬉しかった時間からでた素直な言葉に、ミキさんは頷き
「いいよ〜。」
「いつでもいって。」
と、返事をくれるミキさんの友達達。
「勉強になりました。」
ミキさんは、桜ちゃんにメイクの何かを聞かれていた。
「さっきまで居たけど、もういないよ」
タイミングが良いはずなのに、間の抜けたような声がした方を見れば窓を覗く、柳がいた。
いたのか…。
女子に囲まれ見えなかったよ。
「居なきゃ居ないでいいじゃない。まぁちゃんが可愛くなっただけでいいじゃん。」
なぜか優しい女子達。
「じゃあね。桜ちゃん達も一緒に帰ろう。あんた達も一緒に帰る?」
用は済んだとばかりに、男らしく帰ろうとするミキさん。そんな姿に師匠と呼びたくなってしまう。
「いつもとは、また違う可愛さがあるな。」
私をしげしげ見つめる青井。君もいたの?
「まぁちゃん。泣くなら、根性無しの匠じゃなくて僕の胸で泣いてね。」
嬉しくてウルウルしてるだけだ。松山、勝手に泣くと決め付けるな。
せっかくのメイクが崩れちゃうだろう。
泣くもんか。
色々な人に心配されていたらしい…。
ふと視線の先にポカンとしてる匠。
目の前の二人に割り込み私の両手を両手で握った。
「まぁちゃん。好きだ。俺と付き合って欲しい。」
「…もう、付き合ってるつもりでしたが、違ったんでしょうか。」
大笑いしながら、ガヤガヤ皆は先に帰っていった。
少し遅れて匠と手を繋ぎ校門に行く。
そこに高田さんは居なかったけれど、出て少し歩いた所にいた。
「谷沢さん。」
やっぱり可愛い高田さん。
繋いだ手と私を見て、鼻で笑われたけどなんとも思わなかった。