真美の彼女心1
最近、匠の様子がおかしい…。
クリスマスにはデートをした。また駅前からバスに乗りショッピングモールに映画を見に行った。
その時には、前と同じツリーもとても大きく綺麗に見えた。匠も楽しそうだった。
クリスマスプレゼントにあげたマフラーも、匠はこっちが恥ずかしくなる程に喜んでくれて毎日使ってくれている。
私には、四つ葉のクローバーが可愛く揺れるネックレスをくれた。
お正月には初詣でに一緒に行き
「どこでも希望する大学に受かりますように」
と、今年受験する訳でもないのに絵馬まで匠は書いていた。
どこでもって何だよ。お願いされる神様も迷惑だろうに。
遠くない未来の受験を不安に思ったけれど、今から真剣に書いていた匠の意図がわからなかった。
書き上げかけられた絵馬を眺めてみても匠の壮大すぎる願いにはついていけず、私は家内安全とゆう穏やかな生活になりそうなお守りを買った。
そんな匠が最近、やっぱりおかしい…。
妙に疲れている。そして、学校で更にベタベタしてくる。
なんて事をお昼休みの教室で机に頬づえをついて考えていた。
お昼を一緒に食べたみんなは、ジュースを買いに行った。私は、お茶持参なので待つ事にしていた。
「まぁちゃん。」
突然、後ろから甘い声と共に長い腕に軽く抱き締められる。
こんな事するのは匠くらいだ。振り返ると、やっぱり正確。
げっ…。近い近い。顔も身体も近すぎる。腕なんか胸に当たってるし。
「離して離して。やめようよ。」
ほらほら、ミキさん睨んでる…。ごめんなさい。
そこの青井、柳、松山の三人も生暖かい目で見てないで止めようよ…。天使になって下さい。
「やめてってば。」
匠の腕の中ジタバタして腕をペシペシ叩くと、やっと解放された。嫌じゃないけど嫌な物は嫌だ。
「びっくりした?」
匠はからかうようにニヤニヤしている。
そんな顔も綺麗な顔立ちだけにかっこいいはずだけど、私には意地悪くにしか見えない。
「びっくりした?じゃないでしょ。人前でやめようよ。」
「それ位いいじゃない別に。けど、中途半端に見せ付けないでよ。」
私の言葉にミキさんから返事がきた。
それ位ですか…?
私には無理です。
中途半端じゃないの見せたら三日は学校休む自信あります。
だから、ジュース飲みながら睨むのは、やめて下さい。
見せ付けてるんじゃないんです。
私は恥ずかしいんです。
けど、中途半端じゃないって…。
だんだん顔が赤くなってきてしまう。
「二人、仲良いよなぁ。まぁちゃん照れてるし。」
「照れられると、余計かまいたくなるよな。」
「いいなぁ。僕も困らせてみたい。」
「まぁちゃん。じゃあ、今度は二人きりで…。」
三人の匠友達の言葉のとどめに、匠に手を握られ肩を抱かれた。
いつかは天使だった三人も変わってしまったのね…。
あの時の廊下でのトキメキを返して欲しい…。
めげずに、やんわり匠の手を振り払い立ち上がる。
「では、皆さんご機嫌よう。明日のお弁当は無かった事でお願いします。桜ちゃん達を迎えに行ってきます。」
言い切ってすたすた逃走した。
けどきっと、お弁当作ってくるのは分かってくれてるだろう。
扉を開け廊下に出た所で呼び止められた。
「佐藤。」
隣のクラスの谷沢くんだ。同じ図書委員で話しやすい良い人だ。
「この前の新刊入るって。」
「うそ。嬉しい。」
読みたかった本の話に楽しく話がはずんみ始めた。
教室で匠がそんな私達を見ていた事なんて知らなかった。
青井が見つけて匠にからかうように聞いた。
「匠、あの谷沢ってまぁちゃん好きそうだぞ。いいのか?」
「よくは無いけど、そこまで口出しできないだろ?」
つまらなそうに匠が答えると、松山が珍しく言う。
「匠も、問題あるもんね。結構、ハッキリしてるはずなのにね。」
そして、その日の帰り校門に問題がきた。
匠の後ろを桜ちゃんと二人歩く下校中に校門を通りすぎながら皆が一方向を見ていた。
私達も釣られて見ると。
小さな顔にパッチリ二重でモデルみたいな可愛い女子高の女の子がいた。
こちらを見てパアッと花が咲くような笑顔で駆け寄ってくる。
「谷沢さん。一緒に帰りましょう。」
匠だけを見つめ話かけている。
初めての事に足が止まり、二人を見ていると匠がそっけなく答えた。
「いや、無理。彼女いるし付き合えないってずっと言ってるよね。こんな所まで迷惑だよ。」
匠達の斜め後に野次馬のように立ち止まり聞こえた会話。
「一緒に帰るくらいいいじゃないですか。」
匠は、あの人にずっと告白されてたの?
知らなかった出来事の、突然の展開に私は何も言えず立ち尽くすだけでいた。
後ろからミキさん集団もきてたみたいで、その間に追い越され行かれたらしく
「匠。どうしたの?」
ミキさんが声をかけ驚く匠の腕に自然に腕を絡め、その二人を友達達が囲んだ。
真美、あれはただのミキさんのスキンシップよ。
だって、絶対私達に気付かず通りすぎたもの。
証拠に、ほら友達の一人が私に気が付いてミキさんに耳打ちしたでしょ。
それで初めてミキさんが私達を見たから。今日は匠が一人で帰ってると思っていたんだろう。
私の中の冷静な私が語りかけてくる。
けれど、もやもやして仕方ない。
ミキさんに離れて欲しい。匠もなんで何も言わないんだろう。
そんな私の気持ちも匠との関係も知らないらしい、女子高の子の視線はミキさんに釘付けだった。
「あなた、谷沢さんの彼女さんですか?」
「匠に彼女がいたら不思議?」
「もう、やめろよ。俺は、断ったろ。彼女がいるから付き合えないって。」
女子高の子に言った後、匠の強い視線が私に向いてくる。
匠は、私に言ってるのかな?
こっそり隣の桜ちゃんに確認のため聞くと。頷く桜ちゃん。
女子高の子は匠の視線の先の私には目もくれず、ミキさんとの間にバチバチと火花が散らしているように見えた気がした。
「私、高田里美といいます。谷沢さんが好きなんです。」
ハッキリいった高田さん。
「悪いけど、匠は彼女だけの人だから。よそ見はしないわよ。」
ミキさんも応戦してる。桜ちゃん。私どうしよう。
視線を投げたら、桜ちゃんも困り顔だ。
目の前で彼女であるはずの私に関係無く、三角関係が出来ている。
私が彼女だし対応しようと口を挟もうとしたら、ミキさんの友達達に睨まれ制された。
「彼女さんも私が谷沢さんを好きだと知ってくれてる方がいいです。よそ見じゃなくて谷沢さんに本気になって欲しいから。」
「何それ?匠が別れて、あんたと付き合うとでも言うの?」
高田さんの気持ちがストレートにぶつかってきて、ミキさんが私の言いたい事を言ってくれている。
「そうなりたいんです。私、そうなるように頑張ります。谷沢さん、かっこいいですもん。」
「やっと付き合えるようになったのに別れる訳がない。待つだけ無駄だ。あんたと付き合う事は無い。」
「匠もこう言ってるし諦めなさいよ。」
高田さんの言葉を理解する前に二人が拒否していた。
なのに、高田さんは強いのか二人の言葉を気にしないようだった。
「じゃあ、谷沢さんまた後で。」
クルリと向きを変え花咲く笑顔で匠に手を振って帰る。
「あの子なの?」
「そう…。」
その二人だけが意味のわかる会話にまた傷ついた。
私の知らない事をミキさんは知っている。けど、匠は私に何も言っていなかった。
今の現場に口を挟めなかった自分にも、もやもやしてきた。
もし、私がミキさんの位置にいたとしても、オロオロして何も言えなかっただろう。匠が言いたい事を言って、手を引かれて帰るだけだろうけど…。
後でってのも何?
彼女のはずなのに匠の知らない事だらけ。
なのに他の人は知っている事が沢山ある。
私ってなんなんだろう…。
微妙な空気のまま大人数で駅前まで帰った。私の隣には、匠がいたけれど何も聞けずにいた。
二人になってからの帰り道になって、匠が話はじめた。
高田さんは、同じバイト先の子で懐かれていたらしい。寒くなる頃から何回か告白されて、断り続けて突き放しても諦めてくれないそうだ。
「じゃあ、なんでミキさんは知ってるの?私は、バイトも告白されてた事も知らなかった。」
匠を責める様に言ってしまう。
昔から知っているとはいえ、つい最近濃くなった繋がり。知らない事の方が多くて当然なのに…。
俯く私の頭を匠は優しく撫でて教えてくれた。
「バイトは一年の時から、宅配の仕分けをしてる。毎日じゃないけど…。
年末の忙しい時期も終わったし、三年になるまでに辞めるつもりだったんだ。けど、最近もまだ少し忙しくてさ。
そんな事や高田の事を、いつもの三人に話してた時にミキもいただけなんだ。」
そう言いながら手を繋がれる。
「まぁちゃんが心配して余計な事を考えそうで言えなかった。」
匠の顔を見上げると、しゅるっと眉が下りて情けない顔になっていた。
そんな顔を見てしまい、何も言えなくなってしまう。
「バイトは好きなだけ続けたら良いんじゃない?高田さんの事もわかったから、もういいよ。」
ホントは、匠がミキさんをミキと呼んでる事も嫌だった。
あんなに可愛い高田さんに、匠が行ってしまうんじゃないかと心配だった。
「まぁちゃん…。」
「たっくん。ありがとう。私は大丈夫だから気をつけて帰ってね。」
家の前で手を離し、無理ににこやかに別れようとしたら匠が目を細め聞いてきた。
なぜに不機嫌…。
私、わかったって言ったのに。
「まぁちゃんだって、何であんなに楽しそうに谷沢と話てるんだ?」
は?谷沢くん?
「隣のクラスの谷沢。よく楽しそうに話てるだろ?」
なんだ?
「図書の新刊の事とか話てるだけだよ。」
匠の顔がだんだん不機嫌丸出しになって、目を逸らされた。
もしかして、やきもちかな?
「それにしても仲良すぎじゃない?」
正解らしい…。
どうしよう。さっきまでのモヤモヤが飛んで嬉しくなってきた。
「だって…ただの友達だし、谷沢くんも好きな子いるって言ってたし。」
「はぁ?」
不機嫌なまま匠に軽く睨まれたけど、更に言う。
「あ。内緒よ。誰かは知らないし、人の事だから。」
「でも…。」
「たっくんとミキさんも異性でも仲良いじゃん。なんでそんな事を言うの?」
「ミキは友達だよ。」
その言葉に嬉しさは飛んで行った。
匠は勝手だ。
自分は良くて私は駄目なのか。
知らないふりをして言ったけど、私にキツイ言葉を投げつけてきたミキさんが、匠が好きなのは明らかだ。
なのに、匠はそんなミキさんの気持ちを知ってか知らずか分からないけど、友達として見てるらしい。
なら、私なんか谷沢くんはただの友達なんだから、友達として付き合うくらい良いじゃん。
匠達以外で話す唯一の男友達だし。
「ごめん。ただのヤキモチ。」
俯いて黙りこんだ私に匠が謝ってきた。
そのまま横に首を振って、見上げると匠の不機嫌は無くなっていた。
「ミキさんは友達なの?」
「そう。」
「高田さんは?」
「バイト仲間だったけど、今はただの疲れる奴。諦めてくれないかなぁ。」
匠も本当に疲れるのか大きなため息をついた。
「わかった。私も谷沢くんは図書友達だから。」
そういうと匠は何かを諦めたように笑って、頭にポンポンと軽く手を乗せてきたのだった。




