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保健室で気分が悪いとベッドを借り布団に包まる。
人から匠が離れて行くと言われたら、余計にそうなるような気がしてくる。
ここ数日で急接近して辛い時に優しく泣かせてくれた匠。
昔の様に楽しく話も出来る。
噂話や呼び出しは嫌だけど、もう以前みたいに距離が出来るのが寂しい。
昔は、仲が良く大好きだった匠。
疎遠な時には、たまに言葉少なく話しをしてもドキドキしたりしなかった。
私、単純かな。
好きが大きくなってるなぁ。
カーテンの隙間から見える空は綺麗な青空。
もういいや。賭けでも何でも。
残りの期間が終わり、匠が離れても立ち直れるように過ごそう。
後ろ向きに元気になり目を閉じた。
「まぁちゃん。」
…うるさい。まだ寝る。
「まぁちゃん。起きよう。」
柔らかな匠の声に薄く目を開け
「…ちゃんと起きてる。」
「いや。寝てたし。もう下校時間。」
「…なんでここに?」
ゆっくり座りながら、人事の様にぼんやりと聞く
「5時間目の休憩に見つけたけど、よく寝てたから。帰ろう。」
…ふ〜ん。
寝起きが悪いので、しばしお待ちを…。
ベッドを軋ませ匠が私の背中の後ろに手をつき隣に座る。
身体を近付け手を伸ばしオデコに当てられ
「熱はないね。」
…あ〜。はい。ただのサボりですから。
ポンと寝ぼけた私の肩に匠の手が乗る。
耳元に低い声。
「おはようのチュウしなきゃ目が覚めない?」
顔を向けると、すぐにも触れそうな距離まで匠の顔も来ている。
「起きます!帰ります!」
赤い顔がばれないように、素早い動きでベッドから降りた。
その帰り道。
寝ぼけてたからと笑いながら、指を絡ませギュッと繋がれ重いバックも持ってくれる。
昼休みに戻らないから、桜ちゃんがメールをしたら鞄の中から着信音がしたと教えてくれたらしい。
保健室に居る事も5時間目に少し遅れて来た匠の友達が、見かけて教えてくれたらしい。
「痛む所ない?何があったか、ちゃんと話せよ。」
「何もないよ。お腹痛くなっただけ。もう治ったよ。それより谷沢さま。そこのコンビニでノートコピーさせて下さい。」
寝起きでスッキリ嘘をつき、コンビニを指さしながら言う私は気が付かなかった。
保健室に居た私に「痛む所ない?何があったか、ちゃんと話せよ。」何も知らないはずの匠のおかしな心配の問いも。
スゥと目を細めた匠も。
それからの私は、更に自分からは匠に近付かず、賭けの事ばかり考えないように気をつけた。
登下校は用事のない限り一緒にして、お弁当は友達達と食べ、たまに匠と友達の青井、柳、松山の三人組も一緒に食べたりもする。
三人組には、いつもお弁当のオカズをとられた…。仕方なくオカズを増やした。
泣きまくった翌日には、匠情報で匠母から入院を隠していたなんてとお叱りの電話をもらい、誘われていた夕食を匠家に食べに行ったりした。
母も、その一週間後くらいに退院できて安心した。
匠が母が退院するまで毎晩家に電話をくれるようになり、寂しさの少ない連夜。
退院してからも
「おばさんが居ると何だかな…。」
とか言いながら何回も電話をくれている。
オシメも変えてもらって、小さな頃から知ってるのになんだそれ?今更じゃん。
そんな毎日を過ごすうちに、お試し期間も残り少なくなっていた。
噂話には少し慣れ、あれから呼び出しはなかった。
匠の隣がとても居心地がよくなり、お試し期間が終わると考えたら悲しくなってくる。
延長も本当の付き合いもどう言えば良いかわからない。そもそも、そんな話を出すきっかけも掴めず度胸も出なかった。
開き直りも長くは続かず、聞ずにいて余計に賭けの疑惑がすっきりしないながら
「この付き合いが本当ならいいのに。賭けじゃなけりゃいいのに。」
と時間と共に欲と願いが増え続けてしまっていた。
そんな帰り道。
「まぁちゃん。この土曜にデートしよう。」
「は?」
「おばさんも元気になったし。どこがいい?」
匠は楽しそうに言うけれど、その日はお試し期間最終日。
そんな急に言われても…。
気付いてないのか?
それとも余裕か?
「映画でも見る?」
「そうだね。」
人生初で、オマケに好きな人との初デートなのに考えるだけで、なんだか気が重くなる約束になった。
ここまで読んで下さりありがとうございますo(^-^)oこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m感想頂けたら踊れるくらい嬉しいです(´・ω・`)