10
昨日、あれから少しして「まだ居たい。」顔を近づけながらそう言う匠を押し出すように帰ってもらった。
その夜は、泣いたせいか強く眠気が押し寄せてきて、いつもより早くよく眠れ夜中にも目がさめなった。
朝になり時間になったので家を出ると匠がいる。
「まぁちゃん。おはよう。」
途端に昨日の記憶が浮かび自分の顔が赤くなっていくのがわかる。心の弱さをさらけ出して泣きまくっただけでも恥ずかしいのに、抱きしめられて頬に寄せられた唇。
「おまじない効いた?」
だから近いって。顔近いです。
「お試し期間中だしもっと軽いおまじないにして下さい…。」
恥ずかしさをごまかすように出た自分の言葉で思い出す。
賭けがあるからのお試し期間。疑う気持ちはまだ取れない。
けれど、小さな頃のたっくんが大きくなったと思うと全てがその手段だとは思えなかった。
ぐるぐる回る頭で隣を歩く匠を見上げると手を繋がれ、顔が赤くなり俯く。
「昨日はありがとう。遅くまでごめんなさい。」
「ん?当たり前だよ。まぁちゃんなら、いつでも大歓迎。」
にっこり指で繋いだ手の甲を撫でる匠。
言葉に詰まるがちゃんと言わなきゃ。
「谷沢さま。お願いがございます。」
「は?」
「宿題を見せて下さい。谷沢さまが頼りなんです。お願いします。谷沢さま。」
手を振り解き深くお願いする。
昨日、匠を追い出した私はそのまま着替えて寝しまった。
朝がくるまで一度も鞄を開ける事なく…。
そんな時に限って量はあるし、厳しい先生からの宿題…。
友達達と谷沢さまのノートだけが頼りです。
学校での周りを巻きこんだ宿題騒ぎで、私の友達達も匠に少し打ち解けた様子で話している。
そんな慌ただしかったその日、とうとう来てしまった。
「ちょっといいかな?」
昼休みに一人トイレを出た所で呼び止められる。顔だけ知ってる綺麗な可愛い同級生の女の子三人だ。
「着いてきて。」
返事もしていないのに、腕をとられ足を進める。
嫌だなぁ…。絶対嫌な事を言われる。
私は、傷を少なくするため壁を厚く高く作る事にした。
人気のない体育館裏で
「最近よく匠といるけど、どうゆう事?」
「あんたが周りチョロチョロするから目障りなのよ!手なんか繋いで!」
「デブで可愛くもないくせに!図々しい!」
等、口を挟む間もなくさんざん言われ続ける。
ドンッと肩を押され尻餅をつく私を腕を組み見下ろし
「わかったわね!」
気が済んだのか立ち去った。
言われなくても分かってる事ばかり。
そのまま膝に顔を埋めているとチャイムの音が聞こえる。
しばらくして目元を袖でグイと拭き、保健室にサボりに向かった。
私の事は言われても仕方ないけど
「匠がいつまでもあんたの相手してる訳ないだろうけどね!」
この一言が耳から離れなかった。