勇者の陰に
勇者と言われる人が、王から任命を受けてお姫様を助けにいく。
そんなよくあるような感じの話の裏では、俺らみたいな、ゲームなら名前も無いような雑兵の働きが不可欠だ。
「なあ」
「あ?」
俺たちは、そんな王から一緒に行くようにと命じられた、単なる付添人AとB。
勇者はすでに一足先に城へ到着していて、巨龍と戦っていた。
俺たちは、勇者が帰ってくるのを待ち、それから一緒に凱旋するという手筈になっていた。
そんなわけで、先日野営した場所で、勇者の帰りを待っている。
「そういや、あの巨龍、どんな伝説があるんだっけな」
「忘れたのかよ。あいつは、この数百年間、辺り一帯のお姫様を捕らえては妾にしているっていう、呪われた巨龍だぞ。かわいそうに、我らがプリンセスもその対象になってしまい、ある朝、巨龍が来て王女様をさらって行ったんだ。そして、王はそのことで巨龍を退治する勇者を募り、選ばれたのが、今戦っているあいつさ。それまでに何人も行っているのに、誰一人として帰ってきていない場所さ」
「そういや、そんな話だったな。まあ、俺たちには関係ない話か」
そう言って、笑い飛ばしていた。
ときどき、ドシンズバーンといった感じの音が1kmほど離れた俺たちのところまで響いてくる。
「…なあ、俺たちもちょっと見にいってみようぜ」
「何言ってんだよ。あんな魔法と武力、俺たちにはないんだ」
「ちょっとだけ見るんだったら、問題ないだろうさ」
俺は半ば強引に、野営地から仲間を引きずり出し、勇者のところへ近づいた。
こそこそと近づいて行くと、巨龍が吐く炎で熱く感じた。
「やっぱしあちいな。よくこんなところで戦っていられるな」
「それが、Lv.99の力なんだろ。Lv.1の俺たちにはこれが限度か」
そう言っていたら、何かに蹴躓いた。
前のめりになって、転びそうになるのをどうにか踏んばる。
「ったく、何なんだよ。せっかくいいところなのに…って」
俺はそのつまずいたものを見た。
なにかの扉の取っ手のようだ。
「開けてみようか」
「おう」
俺たちは、観音開きになっている扉を、上に積もっている土ごと開けた。
「階段か」
「どうやらそのようだな」
俺たちを待っていたのは、ずっと奥まで続いている階段だ。
奥は暗くて見えない。
「進んでみようか」
「ここまで来たんだ、ついて行くさ」
俺たちは、腰につけていた火付け石で近くの木の枝に火をつけると、階段の中へ下りて行った。
コツンコツンと、俺たち2人だけが階段を下りる音が、俺たちの周りを取り囲む。
「なんか敵とかが出てきても、俺たちは対処できないぜ」
「あきらめろ」
俺は言い切った。
Lv.99の奴でどうにかできるようなところでは、Lv.1の奴は即死だろうからだ。
だが、運よく敵に出会うことなく、水平なところへ下りた。
「ここは…」
仲間が言わなくても、周りを見渡せばすぐに察しがついた。
「牢のようだな。何を閉じ込めさせておく部屋なんだろうか…」
左右に鉄格子が続いている。
ときどき煉瓦のようなもので作られた壁が、それらを小部屋へと区切っていた。
「私ですよ」
その声は、俺たちが通り過ぎようとしている牢の中から聞こえてきた。
「王女様、助けに参りました」
「まあ、ありがとう。でも、まだ巨龍は上で戦っているのでは?」
その指摘は当たっていた。
わずかだが、巨龍が地を踏みつける振動が伝わってきていた。
「巨龍は勇者様が倒すことになっています。我々は、その間に王女様を助けるのです。おい、扉はどこだ」
俺は部屋の端から端までを探したが、扉らしい隙間は見つからなかった。
「この木の枝も、もうすぐ燃え尽きるな…」
俺たちは、まず松明を探した。
それは、壁にかかっていて簡単に手に入った。
「ここにはあるんだな」
「階段のところには無かったがな」
「鍵もついてなさそうだし…仕方ない、火だけでどうにかするしかないな」
そう言って、俺は王女を部屋の後ろへ下がらせて、格子の適当なところに火をかざした。
「足りないな」
格子の部分は赤くはなったが、融けるようなことはなかった。
「これはどう」
王女は、牢の中から棒を渡してきた。
1mぐらいの鉄の棒だ。
「これで変形させながら、できるだけ急いで脱出しましょう」
俺は仲間Bとともに、ゆっくりと格子を変形させながら出口を作った。
不意に、振動が止んだ。
「…どっちが勝ったんだ」
「知らんが、もうすぐとれるぞ」
身を屈んで出られる程度の隙間を作ることに成功した。
熱くなっている格子のところは、近くにあった水をかけて冷ました。
さわっても大丈夫な温度にまで下がると、俺たちはすぐに王女を外へ連れ出した。
「こちらです」
「ありがとうね」
俺たちは、来た道をたどりながら、地上へと出た。
地上では、巨龍が雄たけびを上げているところだった。
「勇者は帰らぬ人となってしまったようだ…」
「でも、王女様を助けることには成功したんだ。王様も、きっとお喜びになるだろう」
俺たちは、王女を龍に見つからないように、低い姿勢をさせながら、いったん野営地まで戻った。
「ありがとう、本当にありがとう」
野営地につないでいた馬は既に逃げており、俺たちは、歩きで帰っていた。
その道中で、王女は俺たちに聞いてきた。
「ねえ、あなたたちの名前をまだ聞いてなかったわね」
「俺たち、名前なんてないですよ。単なるしがない付添人Aとその同僚Bっていうだけなんで」
「それだけじゃさみしいでしょ」
王女は、顔を明るくさせながら、俺たちに提案した。
「じゃあ、私が名付け親になってあげる。付添人Aはアルフォンド、同僚Bはブロームスっていうのはどうかしら」
「いいですね。王様に紹介する時には、その名前で行きましょう」
俺は、そう言って、王女と歩き続けた。
1か月ほどして、ようやく王様の元へとたどり着いた。
謁見の間の赤じゅうたんの上で、俺たちはひざまずいて王と会っていた。
王女は、ベールを着て、俺たちの後ろで同じ姿勢を取っていた。
「おお、付添人よ。勇者はどうした」
「王様、勇者は巨龍により殺されました」
「なんと!」
「しかしながら…」
驚く王に俺は後ろにいた王女を見せた。
「王女は、この通り、無事に救うことができました」
「なんと!!」
さらに驚いたように言った。
「これはでかした。お前たちの名前は何という」
「アルフォンドとブロームスです」
「お前たちには褒美を取らす。豪華な財宝、美しい妻、そして騎士として認めよう」
「ありがたき幸せ」
俺たちは、再び平頭した。
勇者は死んだ。
ゲームでいうとGAME OVERなわけだ。
だが、そんな勇者に付き添っていた俺たちが、逆に勇者となって凱旋した。
これって、素晴らしいことじゃないか。




