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勇者の陰に

作者: 尚文産商堂
掲載日:2011/01/04

勇者と言われる人が、王から任命を受けてお姫様を助けにいく。

そんなよくあるような感じの話の裏では、俺らみたいな、ゲームなら名前も無いような雑兵の働きが不可欠だ。

「なあ」

「あ?」

俺たちは、そんな王から一緒に行くようにと命じられた、単なる付添人AとB。

勇者はすでに一足先に城へ到着していて、巨龍と戦っていた。

俺たちは、勇者が帰ってくるのを待ち、それから一緒に凱旋するという手筈になっていた。

そんなわけで、先日野営した場所で、勇者の帰りを待っている。

「そういや、あの巨龍、どんな伝説があるんだっけな」

「忘れたのかよ。あいつは、この数百年間、辺り一帯のお姫様を捕らえては妾にしているっていう、呪われた巨龍だぞ。かわいそうに、我らがプリンセスもその対象になってしまい、ある朝、巨龍が来て王女様をさらって行ったんだ。そして、王はそのことで巨龍を退治する勇者を募り、選ばれたのが、今戦っているあいつさ。それまでに何人も行っているのに、誰一人として帰ってきていない場所さ」

「そういや、そんな話だったな。まあ、俺たちには関係ない話か」

そう言って、笑い飛ばしていた。


ときどき、ドシンズバーンといった感じの音が1kmほど離れた俺たちのところまで響いてくる。

「…なあ、俺たちもちょっと見にいってみようぜ」

「何言ってんだよ。あんな魔法と武力、俺たちにはないんだ」

「ちょっとだけ見るんだったら、問題ないだろうさ」

俺は半ば強引に、野営地から仲間を引きずり出し、勇者のところへ近づいた。


こそこそと近づいて行くと、巨龍が吐く炎で熱く感じた。

「やっぱしあちいな。よくこんなところで戦っていられるな」

「それが、Lv.99の力なんだろ。Lv.1の俺たちにはこれが限度か」

そう言っていたら、何かに蹴躓いた。

前のめりになって、転びそうになるのをどうにか踏んばる。

「ったく、何なんだよ。せっかくいいところなのに…って」

俺はそのつまずいたものを見た。

なにかの扉の取っ手のようだ。

「開けてみようか」

「おう」

俺たちは、観音開きになっている扉を、上に積もっている土ごと開けた。


「階段か」

「どうやらそのようだな」

俺たちを待っていたのは、ずっと奥まで続いている階段だ。

奥は暗くて見えない。

「進んでみようか」

「ここまで来たんだ、ついて行くさ」

俺たちは、腰につけていた火付け石で近くの木の枝に火をつけると、階段の中へ下りて行った。


コツンコツンと、俺たち2人だけが階段を下りる音が、俺たちの周りを取り囲む。

「なんか敵とかが出てきても、俺たちは対処できないぜ」

「あきらめろ」

俺は言い切った。

Lv.99の奴でどうにかできるようなところでは、Lv.1の奴は即死だろうからだ。

だが、運よく敵に出会うことなく、水平なところへ下りた。

「ここは…」

仲間が言わなくても、周りを見渡せばすぐに察しがついた。

「牢のようだな。何を閉じ込めさせておく部屋なんだろうか…」

左右に鉄格子が続いている。

ときどき煉瓦のようなもので作られた壁が、それらを小部屋へと区切っていた。

「私ですよ」

その声は、俺たちが通り過ぎようとしている牢の中から聞こえてきた。

「王女様、助けに参りました」

「まあ、ありがとう。でも、まだ巨龍は上で戦っているのでは?」

その指摘は当たっていた。

わずかだが、巨龍が地を踏みつける振動が伝わってきていた。

「巨龍は勇者様が倒すことになっています。我々は、その間に王女様を助けるのです。おい、扉はどこだ」

俺は部屋の端から端までを探したが、扉らしい隙間は見つからなかった。

「この木の枝も、もうすぐ燃え尽きるな…」

俺たちは、まず松明を探した。

それは、壁にかかっていて簡単に手に入った。

「ここにはあるんだな」

「階段のところには無かったがな」

「鍵もついてなさそうだし…仕方ない、火だけでどうにかするしかないな」

そう言って、俺は王女を部屋の後ろへ下がらせて、格子の適当なところに火をかざした。

「足りないな」

格子の部分は赤くはなったが、融けるようなことはなかった。

「これはどう」

王女は、牢の中から棒を渡してきた。

1mぐらいの鉄の棒だ。

「これで変形させながら、できるだけ急いで脱出しましょう」

俺は仲間Bとともに、ゆっくりと格子を変形させながら出口を作った。


不意に、振動が止んだ。

「…どっちが勝ったんだ」

「知らんが、もうすぐとれるぞ」

身を屈んで出られる程度の隙間を作ることに成功した。

熱くなっている格子のところは、近くにあった水をかけて冷ました。

さわっても大丈夫な温度にまで下がると、俺たちはすぐに王女を外へ連れ出した。

「こちらです」

「ありがとうね」

俺たちは、来た道をたどりながら、地上へと出た。


地上では、巨龍が雄たけびを上げているところだった。

「勇者は帰らぬ人となってしまったようだ…」

「でも、王女様を助けることには成功したんだ。王様も、きっとお喜びになるだろう」

俺たちは、王女を龍に見つからないように、低い姿勢をさせながら、いったん野営地まで戻った。


「ありがとう、本当にありがとう」

野営地につないでいた馬は既に逃げており、俺たちは、歩きで帰っていた。

その道中で、王女は俺たちに聞いてきた。

「ねえ、あなたたちの名前をまだ聞いてなかったわね」

「俺たち、名前なんてないですよ。単なるしがない付添人Aとその同僚Bっていうだけなんで」

「それだけじゃさみしいでしょ」

王女は、顔を明るくさせながら、俺たちに提案した。

「じゃあ、私が名付け親になってあげる。付添人Aはアルフォンド、同僚Bはブロームスっていうのはどうかしら」

「いいですね。王様に紹介する時には、その名前で行きましょう」

俺は、そう言って、王女と歩き続けた。


1か月ほどして、ようやく王様の元へとたどり着いた。

謁見の間の赤じゅうたんの上で、俺たちはひざまずいて王と会っていた。

王女は、ベールを着て、俺たちの後ろで同じ姿勢を取っていた。

「おお、付添人よ。勇者はどうした」

「王様、勇者は巨龍により殺されました」

「なんと!」

「しかしながら…」

驚く王に俺は後ろにいた王女を見せた。

「王女は、この通り、無事に救うことができました」

「なんと!!」

さらに驚いたように言った。

「これはでかした。お前たちの名前は何という」

「アルフォンドとブロームスです」

「お前たちには褒美を取らす。豪華な財宝、美しい妻、そして騎士として認めよう」

「ありがたき幸せ」

俺たちは、再び平頭した。


勇者は死んだ。

ゲームでいうとGAME OVERなわけだ。

だが、そんな勇者に付き添っていた俺たちが、逆に勇者となって凱旋した。

これって、素晴らしいことじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者は何度やられても復活するのが当然みたいになっますけど、普通はやられたらおしまいですよね。 勇者が入れ替わり立ち替わりで挑んで行く話もいいですけど、こういった名もない人達が活躍するのも悪く…
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