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第5話 ナイル

 日が落ち、辺りは濃い闇に包まれた。


 リッチーは、「王室御用達・自動展開式キャンプセット」のふかふかソファに座り、優雅に温かいコンソメスープを啜っていた。


「ところで、そのキャンプセットは、どこでいつ買ったんだ。そもそも世界は今、魔王軍のせいで物流網がズタズタのはずだろうが。なんでそんなデカい家具が一瞬で届くんだ!」


「これね、貴族御用達の空間転移物流システム──通称『ナイル』で取り寄せてるんだ」


「空間転移だと!? 莫大な魔力石を消費する超高位魔法じゃないか!」


「そうそう。維持するだけで信じられないくらいコストがかかるから、当然、庶民の一般流通なんかには使えないよ。配送料がすごく高いからね。でも、僕みたいなVIP会員になれば、世界中どこにでも一瞬で届けてくれるってわけさ」


 ゼニマルは絶句した。

 金銭感覚のバグったリッチ―とは相性が最悪である。


「貴様、そんな超絶高コストの魔法陣を使って、ただの『椅子』や『スープ』を運ばせたのか! 費用対効果コスパが完全にバグってるだろうがぁぁ!」


「あー、でもね、なんでも取り寄せができるわけじゃないからゼニマルは期待しないでね。富裕層が欲しがるような高級家具や嗜好品しかないから。庶民が使う武器や防具みたいな『実用品』はほとんど取り扱いがないんだよね」


 『嗜好品』にゼニマルが反応した。

「便利だな。大至急『最高級しもふりにく』を出せるだけ出せ」


「だめだめ、君の食料はそこにあるでしょ?」

 目線の先にはツノウサギの生肉。


「……チッ。出し渋るか。ならいい、いつかその端末を奪って注文履歴を全て『うまのふん』に書き換えてやる」


 ゼニマルは呪詛を吐きながら、焚き火の準備を始めた。リッチーはそれを見ながら、手元の『ナイル』で優雅に「食後のデザート」を追加発注している。


「ところでゼニマル。君、さっきから枝を並べて何してるんだい? 魔法を使えばいいじゃないか。君、初級魔法くらいは使えるんだろ?」


「……使えない。魔力とは相性が悪いみたいでなにもできん」


 ゼニマルは忌々しそうに、自分のステータス画面の【MP】を睨んだ。


【MP:0 / 0】


「体力以外の取柄が無い脳筋ってことか」

 リッチーが呆れて肩をすくめた、その時だった。


 ガサッ、と茂みが大きく揺れた。


「……ッ! 来たか」


 闇の中から現れたのは、八つの赤い眼。

 夜行性の魔物、ナイトスパイダーだ。

 体長2メートルを超える巨体が、音もなく二人の背後に迫っていた。


「リッチー、今すぐライトを注文しろ! 」


「あ、ごめん。ナイルで出すのに認証が100秒かかるんだ……」


「この無能成金がぁ!! 100秒あれば俺は30回死ねるわ!」


 ナイトスパイダーが糸を吐き出す。

 暗闇の中では敵の距離感が掴めない。


「キシャァァァ!」


 巨大な鋭い脚が、ゼニマルの鼻先をかすめる。

 あと数センチで、また「HP」が削られるところだった。


「クソ……クソッ! 視界さえあれば……!」


 「リッチー!時間をやる。その間に認証を済ませろ!」


「えっ、光源なしでどうする気だい?」


「……『無料資源』の活用だよ!」


 ゼニマルは、手元にあった「石」と「折れた剣の先」を力一杯打ち合わせた。


 ――カチッ!


 火花が散る。

 一瞬、火花がクモの複眼を青白く照らした。

 その刹那の光を頼りに、ゼニマルは「折れた剣の先」をクモの眉間に正確に突き立てた。


「ギチィィィッ!」


 断末魔を上げて絶命する魔物。

 だが、ゼニマルの表情は苦悶に満ちていた。彼は即座に、自分の「石」と「折れた剣の先」の状態を確認する。


「……ああっ! 今の火花一回で、石が砕けた、銅の剣の側面に微細な焼損が……! くそっ、摩擦による損耗を計算に入れていなかった……!」


「……石の消耗を気にする勇者なんて、前代未聞だよ」


「うるさい! この石は重心が完璧だったんだ! 二度と同じものは拾えないかもしれないんだぞ!」


 そこへ、ようやくリッチーの認証が通った。

「あ、通ったよ。ほら、『常夜を照らす黄金ランタン』だ」


 パァァァ……と、太陽のような眩い光が辺りを包む。

 ゼニマルは目を細めながら、自分の砕けた石を見て絶望していた。


「……いいかリッチー。この『石』は、全部お前の『通信環境』のせいだ。後で必ず清算してもらうからな」


 ゼニマルは泣きながら、クモの死体から脚を一本一本、丁寧かつ迅速に剥ぎ取り始めた。


 二人の旅は、まだ始まったばかりだ。


■贅沢勇者:リッチー

【所持金】9,996,354,620G


●本日の支出

 キャンプセット──160万G

 黄金ランタン──88万G

 コンソメスープ──2280G

 デザート──3000G


■節約勇者:ゼニマル

【HP】9,999,999,999

【所持金】0G

【装備】 銅の剣×99

【道具】折れた剣の先(回収済み)

【換金アイテム】合計時価総額──286G


●本日の収入

ナイトスパイダ―の脚30G×8


●本日の支出

石×1

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