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第2話 一歩の重みと金貨の軽さ

 城を出て数分。

 二人の勇者はさっそく険悪なムードで城下街「ハジマリノマチ」の門をくぐった。


 リッチーは王家御用達のふかふかした馬車を即座にチャーターした。馬の飼料不足による価格高騰でチャーター料は10万Gに跳ね上がっていたが、彼は涼しい顔だ。


 一方、ゼニマルは道端に落ちている「石」を拾い、その重心を真剣な目で見定めている。


「おいゼニマル、そんなゴミを拾ってどうするんだ? みっともない。僕の馬車に乗せてあげてもいいよ?」


「黙れ成金。……馬車の振動で舌でも噛んで、HPが『1』でも減ったらどうする。それに『石』は完全無料の現物資産だ。インフレの影響を一切受けない最強の武器だぞ」


 リッチーは鼻で笑った。

(……今のうちに貸しを作っておいて、いざという時はこの100億のHPをおとりにして逃げるとしよう。ボロ雑巾のように使い倒してやるさ)


 一方、ゼニマルはリッチーの懐にある金貨袋を、獲物を狙うハヤブサのような目で見つめていた。

(……こいつの金で極限まで装備を整えさせ、俺は一切の消耗をしない。可能な限り巻き上げてやる)


 互いに最悪な腹の内を抱えたまま、二人は街の武器屋の暖簾(のれん)をくぐった。


「いらっしゃい! 勇者様御一行かい? 最高の『銅のつるぎ』が入ってるぜ! 今朝の便でギリギリ届いたやつだ!」


 店主が威勢よく叩き出したのは、鈍い光を放つ、どこにでもある量産品だ。


「ええと、銅の剣は……っと」

 店主はチラリと壁の時計を見ると、値札の『250G』に横線を引き、ササッと書き直した。


銅の剣:500G(※正午の価格改定)

木の盾:300G

麻の服:200G


「……おい親父。たった今、目の前で値段が倍になったぞ」

「仕方ねえだろ! 魔王軍のせいで鉱山の採掘が止まっちまってるんだ。銅塊の相場が分単位で上がってんだよ!」


 ゼニマルがギリッと歯ぎしりをする横で、リッチーは露骨に眉をひそめ、100万Gの金貨袋をカウンターに叩きつけた。


「おい親父。街で一番高い『伝説の武具』を出せ。……え、ない? この銅の棒きれが最強? 冗談だろ?」


「伝説だぁ? 冗談言ってんのはアンタだ。物流が死んでて、まともな鉄すら国境を越えられねえんだよ! 今はこの銅の剣が街で一番の高級品だ!」


 リッチーは退屈そうに銅の剣を一本手に取ると、あろうことか、その場にあった「試し斬り用のワラ人形」に向けて投げつけた。


 ――バキッ!


 ワラ人形は倒れたが、安物の銅の剣も無残に真っ二つに折れた。


「……っ!? 貴様、なんてことを……!」


 ゼニマルが震える手で、リッチーが「ゴミ」として投げ捨てた剣の残骸を指さした。


「それを俺に寄こせ! 資源不足の今、その銅の破片だけでもどれだけの価値があると思ってるんだ! 装備が弱ければ、それだけ寿命《HP》が削れるリスクが上がるんだぞ!」


「はっ、貧乏人はこれだから。いいよゼニマル、君にはこの店にある『銅の剣』を100本買ってあげよう。僕の荷物持ちとして、あくせく働いてくれるならね」


「……100本だと? ……いいだろう。運搬によるカロリー消費は計算外だが、背負えば背後からの攻撃を防ぐ『物理装甲』になる。契約成立だ」


 商談が成立し、リッチーは高騰した銅の剣を100本買い叩いた。


 店主は「そんなに在庫ねえよ! 明日売れば倍になるのに!」と叫びながら、慌てて奥の倉庫から埃を被った剣をかき集めてくる。


 リッチーは折れた剣に見向きもしない。

 一方でゼニマルは折れた剣の破片を必死に拾い集めた。


 貴重な銅剣を「試し斬り」で使い捨てる贅沢勇者。

 その破片を「溶かせば売れる」と執念で回収する節約勇者。


 二人の歩む道には、早くも金貨の音と、インフレ社会における価値観の激突による火花が散っていた。


【現在のステータス】

■贅沢勇者:リッチー

【所持金】 9,999,840,000G


●本日の支出

馬車 ── 10万G

銅の剣 ×100 ── 5万G


■節約勇者:ゼニマル

【所持金】 0G

【HP】 10,000,000,000

【装備】 銅の剣×99

【道具】折れた剣の先、石×1


●本日の収入

銅の剣×99、折れた剣の先、石×1

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