表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴代最弱の魔王に転生した俺、部下の勘違いで大陸制覇が始まった ~適当に頷いてるだけなのに、なぜか歴代最強の戦略家だと思われている件~  作者: さくらもち
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

針の停止は、旧世界の終わり

王都の象徴、中央時計塔。

かつて人類が「秩序」の証として築き上げたこの巨塔の展望台に、俺は立っていた。

眼下に広がる街並みは美しく、風が心地よい。

だが、俺の背後には四天王という名の「歩く災厄」たちが勢揃いしている。


(……ようやく少し落ち着けた。やっぱり高いところはいいな、誰も寄ってこないし)


俺は、ふと時計塔の巨大な文字盤を見上げた。

そこで一つの事実に気づく。

長針が、ピクリとも動いていない。


(……あれ? もしかして、壊れてるのか?)


俺は、せっかくの観光気分を削がれたような気がして、つい口を突いて出た。


「……ゼノビア。あの時計、少し遅れていないか?」


実際には「あ、止まってる。電池切れかな?」という程度の軽い指摘だった。

だが、俺の横で熱心に手帳を広げていたアイザックが、眼鏡をバネが弾けるような勢いで跳ねさせた。


「……なっ! 陛下、そこまでお見通しで……!」


「えっ、いや、ただ時間が――」


「わかります、陛下!」

アイザックが、狂気すら感じる手つきで手帳を叩いた。

「この時計塔の『時間』は、人間側の教会が定めた『聖刻』に基づいています。……つまり、この世界の『法』と『正義』の基準そのもの。……陛下は、それが『遅れている(古臭い)』と断じられたのですね!」


(違う! ただの物理的な故障の話だろ!)


「……なるほど。古い秩序など、もう必要ない。……この時計を止め、陛下の望む『新たな刻』を刻め……。これは、全大陸の法律と倫理を、魔王様の定めた新法に書き換えろという御神託ですね?」


ゼノビアが、納得したように深く頷く。

「承知いたしました。……フェリス、アイザック。直ちにこの時計塔の管理権を接収。……教会の定めた旧法を廃し、陛下の呼吸を基準とした『魔王暦』の制定を開始せよ」


「……御意。王都の法官たちを一人残らず『掃除』し、新法への署名をさせましょう」

フェリスが影の中へ消えていく。


俺は、口を半開きにしたまま固まった。

(電池を替えてほしいだけなんだ。法とか暦とか、そんな大層なものはいらない!)


俺は必死に否定しようとしたが、その時、時計塔の下から民衆のどよめきが聞こえてきた。

どうやら「魔王が時間を止めた」という噂が、すでに街中に広がっているらしい。


「……ああ、そうだとも。……新しい方が、気持ちいいからな」


(古くて壊れた時計より、新しくて正確な時計の方が、気分がいいだろうし……)

という、俺なりの精一杯のフォローだった。

だが、その言葉はアイザックたちによって「人類の歴史を上書きする、冷徹な勝利宣言」として記録された。


「……『新しい方が気持ちいい』。……なんと恐ろしい、神をも恐れぬ傲岸不遜な御言葉……。過去の英雄たちが築いた歴史など、陛下にとっては『古い埃』に過ぎないというのですね……!」


アイザックが、恍惚の表情で地面に這いつくばった。

「素晴らしい……! 私も、この腐り切った旧世界の法など、もう飽き飽きしておりました! 陛下の気まぐれ一つで、明日から『殺人が合法(ただし魔王への反乱のみに限る)』になろうとも、私はそれを真理として受け入れましょう!」


(極端すぎるだろ! 誰がそんな法律作るか!)


その日の午後。

王都の広場では、教会の神官たちが涙を流しながら「旧法の破棄」を宣言していた。

代わりに配布されたのは、アイザックがアルバスの「お茶を飲むタイミング」や「沈黙の時間」を解析して勝手に作り上げた、超難解な『深淵魔王暦』だった。


「今日から、一日は十二時間ではなく、陛下の『ご機嫌』によって決まることになった……」

「古い法律は全て無効だ。これからは、魔王様が『不快』と感じる全ての行為が罪となる……」


民衆は、恐怖と混乱の中で、しかしどこか晴れやかな顔をしていた。

「自由だ……」「もう高い税金や教会の教えに縛られなくていいんだ」「魔王様が、俺たちの時間を解放してくれたんだ!」という、凄まじい逆転の発想が生まれ始めていたのだ。


俺は、展望台から降りる途中で、セシリアが持ってきた新しい時計を見つめていた。

(……なんか、目盛りが一つもついてないんだけど。これ、どうやって時間を読むの?)


「陛下。……新たな『刻』の始まり、おめでとうございます」

ゼノビアが、完璧な礼を捧げる。


俺は、手元の「時間がわからない時計」を握り締め、力なく微笑んだ。

(……俺のニート生活の時間が、どんどん削られていく気がする……)


王都の空には、魔王の到来を告げる漆黒の旗が翻っていた。

それは、人類が数千年にわたり守り抜いてきた「時間」という名の支配から、一人の凡人の「勘違い」によって解放された瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ