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歴代最弱の魔王に転生した俺、部下の勘違いで大陸制覇が始まった ~適当に頷いてるだけなのに、なぜか歴代最強の戦略家だと思われている件~  作者: さくらもち
第1部

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5/10

宣戦布告

城の「大掃除」が完了し、廊下が鏡のように光り輝くようになった数日後。

俺は自室で、セシリアが淹れてくれた二杯目のお茶を啜っていた。


「陛下。……人間側の諸国から、共同の使者が到着いたしました」


報告に来たゼノビアの背後に、気配もなく一人の少女が立っていた。

灰色の髪をショートカットにし、体にぴったりとした黒い革鎧を纏っている。

猫のような金色の瞳が、鋭く俺を射抜いた。


(……えっ、誰!? いつの間にいたの!?)


「紹介が遅れました。四天王が一人、隠密部隊『影の爪』を率いるフェリスにございます。……先日の『掃除』、影ながら手伝わせていただきました」


フェリスと名乗った少女は、音もなく俺の足元に膝を突いた。

彼女の指先には、まだ微かに「何か」を切り裂いたような魔力の残滓が漂っている。


(四天王の三人目か……。隠密ってことは、俺が夜中にこっそり逃げ出そうとしても、一瞬で捕まるってことだよな。……詰んでる)


俺は絶望を押し殺し、震える声で尋ねた。

「……それで、人間側の使者は、何を言ってきた?」


「はい。『これ以上の流血を避けるべく、和平の条件を話し合いたい』とのこと。……正直、我らを見くびっております。陛下に敗北を認めるのではなく、対等な『交渉』を求めてくるとは」


ゼノビアの眉間に皺が寄る。

(いや、いいじゃん! 和平! 最高じゃん! 早くサインしようよ!)


俺は、一刻も早くこの不毛な争いを終わらせ、平和なニート生活に入りたかった。

だが、ただ「いいよ」と言えば、またゼノビアたちが「裏の意味」を探し始めるだろう。

俺は、部屋の隅に置かれていた、前の魔王がコレクションしていたらしい「ただの綺麗な石(観賞用)」に目を止めた。


(……そうだ。これを『友好の証』として渡せば、角が立たないんじゃないか?)


「……彼らへの返答だが。この『石』を持っていけ」


俺は、棚から取り出した手のひらサイズの滑らかな黒石を、フェリスに手渡した。

(ただの道端の石よりはマシだろう。綺麗だし、文鎮くらいにはなるはずだ)


「……これは?」

フェリスが、その石を宝石でも扱うかのように、恭しく受け取る。


「……私の、気持ちだ。これを、彼らに見せれば……言葉は、いらない」


(「俺はもう戦いたくない。穏やかに暮らしたい」っていう、この石のような静かな気持ちを察してくれ!)

俺は、切実な願いを込めて、いつもの言葉を付け加えた。


「……ああ、そうだとも。全ては、これ一つで済むはずだ」


俺が部屋に戻ると、残された三人の女性たちの間で、凄まじい「解読」が始まった。


「……フェリス。その石、鑑定できるか?」

ゼノビアの問いに、フェリスは震える指で石の表面をなぞった。


「……信じられない。これ、ただの石じゃないわ。……超高密度の『反物質魔力』が封印されている。これを特定の魔法陣に組み込めば、大陸の半分を消し飛ばす『戦略破壊魔法』の触媒になる……!」


「なっ……!」

セシリアが息を呑む。

「つまり魔王様は、和平を求めてきた人間たちに、『これ(石)一つで、お前たちの国をいつでも消せる。逆らうなら言葉はいらない、死を待て』という、究極の宣戦布告を……!?」


「流石は我が主。……和平交渉の席で、これを見せられた王たちの顔が目に浮かぶわ。……恐怖で、心臓が止まるのではないかしら」


フェリスは、薄く笑みを浮かべた。

彼女の瞳には、冷徹な暗殺者としての「歓喜」が宿っていた。


数日後。

大陸の有力な五大国の王たちが集まる和平会議の場。

震えながら結果を待つ王たちの前に、フェリスが現れた。

彼女は一言も発さず、アルバスから託された「黒い石」をテーブルの中央に置いた。


「……これは、魔王陛下からの『お気持ち』です」


王属の宮廷魔導師たちが、その石を鑑定した瞬間。

会議場は、阿鼻叫喚の地獄へと変わった。


「ば、馬鹿な!? この魔力密度……! 触れただけで、王都が消滅するぞ!?」

「『言葉はいらない』だと!? 降伏しなければ、この石を起動させるという脅迫か!」

「新魔王……! 慈悲深いという噂は嘘だったのか! なんて邪悪な……なんて、圧倒的な力だ!」


王たちは、震える手で「完全無条件降伏」の書面にサインを書き込んだ。

それは、和平でも交渉でもなく、人類が魔王の軍門に下った瞬間だった。


一方で、俺は城のバルコニーで、のんきに風に当たっていた。

(……そろそろ返事が来るかな。石、喜んでくれたかな?)


空を飛ぶ鳥を眺めながら、俺は幸せな未来を夢見ていた。

まさか自分が、ただの石ころ一つで「大陸の半分を人質に取った暴君」として恐れられているとは、夢にも思わずに。

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