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歴代最弱の魔王に転生した俺、部下の勘違いで大陸制覇が始まった ~適当に頷いてるだけなのに、なぜか歴代最強の戦略家だと思われている件~  作者: さくらもち
第1部

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3/9

聖女の暗殺?いいえ、お茶会です

魔王城の謁見の間。

俺は今、人生で最大級の「震え」と戦っていた。


「陛下、例の人間が到着いたしました。聖教国の聖女、セシリアにございます」


ゼノビアの報告に、俺は生返事すらできなかった。

(聖女……! 聖女ってあれだろ、魔族を一撃で消滅させるような光の魔法を使う、魔王の天敵……!)

ステータス画面を薄目で確認するが、相変わらず俺の魔力量は『10』。

そんな俺の前に、一人の少女が現れた。


白銀の甲冑を纏い、透き通るような金の髪をなびかせた美少女だ。

だが、その瞳には隠しきれない殺意――いや、悲壮なまでの決意が宿っている。

彼女の手は、腰に差した短剣の柄に強くかけられていた。


「……魔王、アルバス。貴方の『偽りの慈愛』、私が終わらせに来ました」


セシリアの声が響く。

その瞬間、俺の心臓はドラムのように激しく打ち鳴らされた。

(やばい、殺される! 今すぐ逃げなきゃ……でも、足が動かない!)


俺はあまりの恐怖に、座っている玉座の肘掛けをギチギチと掴んだ。

その時、俺の体から「冷や汗」が噴き出し、緊張で全身が小刻みに震え始める。

だが、聖女セシリアの視点では、その光景は全く別のものに映っていた。


(……な、何というプレッシャー!?)


セシリアは息を呑んだ。

彼女の眼前に座る魔王は、微動だにせず自分を睨みつけている。

いや、違う。

魔王の周囲の空間が、目に見えないほどの高速で「振動」しているのだ。

それは、あまりにも強大すぎる魔力が、肉体という器に収まりきらずに溢れ出している証拠。


(私の殺気など、このお方にとっては羽虫の羽音にも等しいというの……? それどころか、この振動……。まるで、世界そのものが彼に怯えて震えているかのようだわ……!)


俺は、乾いた喉を潤そうと、震える手で傍らのお茶に手を伸ばした。

だが、指先がガタガタと震えてしまい、カップの中で茶葉が踊る。

俺は必死に自分を落ち着かせようと、一口だけ含んで、掠れた声で言った。


「……君も、どうだ。お茶くらい、飲んだらどうだ」


(お願いだから、毒とか入ってないから、落ち着いて話し合おうよ!)

という必死の命乞いだった。

だが、セシリアは雷に打たれたような衝撃を受けた。


「……私に、茶を、勧めるのですか?」


(暗殺者の私に? この状況で、毒味もさせずに?)

セシリアは震える手でカップを受け取った。

彼女は「これは精神を破壊する呪毒かもしれない」と覚悟し、一気に飲み干す。


その瞬間、彼女の脳内に衝撃が走った。

ただのお茶。

だが、極限の緊張状態にあった彼女の心に、温かい液体が染み渡る。

アルバスが「怖いからせめて高級なやつを……」と選ばせていた最高級の茶葉の香りが、彼女の頑なな心を物理的に解き放ってしまったのだ。


(ああ、なんて清らかな味……。毒など入っていない。それどころか、私の内側にある『復讐心』という名の汚れが、洗われていくような……)


セシリアは、目の前の魔王を見上げた。

そこには、自分を断罪するでもなく、ただ静かに(恐怖で固まって)自分を見守る青年の姿があった。


「……魔王、様。貴方は、私を殺さないのですか?」

「…………ああ、そうだとも」


俺は、精一杯の「許してください」を込めて頷いた。

すると、セシリアの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。


「私は……間違っていました。貴方は、人間を滅ぼそうとしているのではない。争いに明け暮れる我々人間に、真の平穏を示すために、あえて『悪』という役割を演じておられるのですね……!」


「えっ、いや、それは――」


「このお茶は、儀式なのですね。過去の私を捨て、新たな世界を共に見るための、聖なる誓い……! 決めました。私は今日から、神ではなく、貴方の『言葉』を信じます!」


セシリアはその場に深く膝を突いた。

聖教国の最終兵器が、魔王の足元で、忠誠を誓う信徒へと変貌した瞬間だった。


後ろで控えていたゼノビアが、満足げに深く頷く。

「流石は陛下。聖女の魂を、一杯の茶で浄化し、こちら側に引き込まれるとは。……ゴルガ、見たか。これが陛下の仰る『魂の屈服』だ」

「ガハハ! 武器など振るうのが馬鹿らしくなるな!」


俺は、もはやツッコむ気力すら失っていた。

ただ、手元の空になったカップを見つめ、心の中でこう呟いた。


(……これ、もうどうやっても、平和に隠居なんてできないよね?)


こうして、魔王軍に「元聖女」という最大級の宣伝塔が加わった。

魔王アルバスの伝説は、宗教の壁すら越えて大陸を侵食し始める。

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