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歴代最弱の魔王に転生した俺、部下の勘違いで大陸制覇が始まった ~適当に頷いてるだけなのに、なぜか歴代最強の戦略家だと思われている件~  作者: さくらもち
第2部

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13/15

幕間:黄金の監獄と、震える聖剣

王都の館、その一室で。

勇者カイトは、自身の愛剣である聖剣『エクスカリバー』を膝に置き、静かに瞑想していた。

だが、その心はかつてないほどの嵐に見舞われている。


(……恐ろしい。あまりにも、恐ろしすぎる!)


カイトは目を見開き、窓の外に広がる王都の情景を見つめた。

そこには、かつて彼が守ろうとした「貧しくも必死に生きる人々の姿」はなかった。

代わりに溢れていたのは、見たこともないほど豪華な衣装を纏い、魔王領から流れ込む安価で高品質な品々に囲まれ、満面の笑みを浮かべる市民たちの姿だ。


「……カイト様。どうされました? 顔色が悪いようですが」


背後から声をかけたのは、元聖女セシリアだ。

彼女は今や、魔王アルバスの紋章が入った法衣を纏い、手には「魔王銀行」の預金通帳を大切そうに抱えている。


「セシリア……。君は、今のこの状況をどう思っているんだ?」

「どう、とは? 素晴らしいの一言に尽きますわ。魔王様が関税を撤廃し、通貨を統一されたおかげで、教会への寄付に苦しんでいた貧民たちも、今や毎日温かいパンと蜂蜜を口にしています。これこそが、神が成し遂げられなかった『地上の楽園』です」


「……違うんだ、セシリア。それは『黄金の鎖』なんだよ」


カイトは、拳を強く握りしめた。


「魔王アルバスは、武力で我々を屈服させることを止めた。代わりに、彼は『便利さ』と『豊かさ』という名の麻薬を人類にバラ撒いたんだ。……見てごらん。今や、誰も魔王に反旗を翻そうなんて考えない。なぜなら、彼に逆らえば、明日の食卓からパンが消え、贅沢な暮らしが崩壊するからだ」


(……あの男、魔王アルバス。なんて底知れない戦略家だ!)


カイトは、アルバスがおやつを食べていた時の表情を思い出し、背筋に冷たいものが走った。


「彼はあの日、こう言った。『みんなが自由に、甘いものを手に入れられるようになればいい』と。……一見、慈悲深い願いに聞こえる。だがその実態は、『全人類の胃袋と財布を、私の指先一つで管理してやる』という冷酷な宣言だったんだ……!」


カイトの解釈では、アルバスがチョコを齧ったのは「人類の経済を一口で飲み込んだ」儀式。

「悪くない」という呟きは、「この家畜たちの飼育環境を合格点としよう」という神の査定。


「……僕たちは、もう逃げられない。剣で斬れる相手ならまだしも、経済という名の巨大な網で包み込まれてしまった。……聖剣よ、君はあのお方の喉元に届くのか? それとも、あのお方の差し出す黄金の果実に、その牙を折られてしまうのか……」


カイトは、足元に置かれた「魔王印の高級クッキー缶」を見つめた。

アルバスが「これ、余ってるから食べていいよ」と震える手で渡してきたものだ。


「……くっ、なんていい香りだ。……毒など入っていない。ただ、抗えないほどの『幸福』が詰まっている……。これが、魔王の真の攻撃か……!」


カイトは葛藤の末、一枚のクッキーを口に運んだ。

サクッ、という音と共に、彼の正義感はまた一歩、魔王という名の深淵へと沈んでいくのだった。

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