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歴代最弱の魔王に転生した俺、部下の勘違いで大陸制覇が始まった ~適当に頷いてるだけなのに、なぜか歴代最強の戦略家だと思われている件~  作者: さくらもち
第1部

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逃げ道の先は、絶望の終着点

「ひえっ、勇者が……勇者がもうそこまで来てるのか!?」


俺は豪華な天蓋付きベッドの上で、情けない悲鳴を上げた。

もちろん、外に漏れるのは「……ほう。思っていたよりも、足が速いな」という、冷徹極まりない重低音だ。


「はい、陛下。勇者カイト、聖剣を手に王都の正門を突破。……我が魔王軍の雑兵どもを指一本触れずに無力化し、この館へ直進しております」


ゼノビアが、どこか楽しげに報告する。

(指一本触れずに無力化!? バケモノかよ! 殺される、今すぐここを脱出しなきゃ!)


俺はガタガタと震える膝を叩き、部屋の隅にある「隠し通路(という名の、前の住人が使っていた古い脱出路)」を指差した。

とにかく、アイツと顔を合わせるのだけは避けたい。


「……ゼノビア。私は、あちらの『狭い道』へ行く。……一人で、だ」


(一人でこっそり逃げるから、君たちは勇者の相手をしておいてくれ!)

という、最低の敵前逃亡宣言だった。

だが、ゼノビアの瞳に、この世のものとは思えないほどの「畏怖」が宿った。


「……『狭い道』。……まさか、あそこですか!? ……陛下、あそこはかつて大賢者が施した、因果律を歪める『幾何学の迷宮』……! あえて自身の逃げ場を断ち、勇者をその絶対零度の孤独へと誘い込む……。なんと過酷な、そして美しい処刑法……!」


「え、いや、ただの裏道で――」


「わかります、陛下!」

アイザックが、鼻血を出しながら筆を走らせる。

「『一人で行く』……! 勇者の聖剣など、伴侶(部下)を連れるまでもないという傲慢! 陛下の存在そのものが、勇者にとっての終着駅になる……! ああ、全宇宙が震えております!」


(震えてるのは俺だよ! 誰か助けてくれ!)


俺は、彼らの熱狂的な視線から逃げるように、薄暗い隠し通路へと飛び込んだ。

とにかく、この先に外への出口があるはずだ。

俺は真っ暗な通路を、涙目で全力疾走した。


「はぁ、はぁ……。ここなら、あいつ(勇者)も追ってこないだろ……」


行き止まりの扉を勢いよく開ける。

そこは、王都を一望できる「円形庭園」の中央だった。

月明かりが美しく照らす、静寂に包まれた広場。

俺は「ふぅ、助かった……」と胸を撫で下ろし、夜風に吹かれた。


だが、その瞬間。

広場の反対側にある門が、凄まじい光と共に吹き飛んだ。


「――見つけたぞ、魔王アルバスッ!」


白銀の鎧を纏い、太陽のような輝きを放つ剣を構えた青年――勇者カイトが、そこに立っていた。


(……なんでだよ!! なんで逃げた先に勇者がいるんだよ!!)


俺は心臓が口から飛び出しそうになりながらも、恐怖で体が硬直し、一歩も動けなくなった。

月光を浴びて、俺の漆黒のローブが深淵のように揺らめく。


「……よく来たな。……待っていたぞ」


(「よくもここまで追い詰めてくれたな」と言いたかったが、絶望しすぎて声が低くなりすぎた!)


カイトは、俺のその「無防備な立ち姿」を見て、戦慄した。

(……なんだ、このプレッシャーは!? 構えすらしていない……。いや、どこから斬りかかっても、一瞬でカウンターを叩き込まれる『無の世界』の構え……!)


カイトは、聖剣を構える手が汗で滑るのを感じた。

「……貴様、僕がここに来るのを予見していたのか。……あえて部下を遠ざけ、この『円形庭園』を僕の墓場に選んだというわけか!」


「……ああ、そうだとも。……ここは、いい場所だ」


(静かだし、死ぬならせめて綺麗な場所がいいな、と思っただけなんだ!)


「……抜くがいい、魔王! その腰に差した『深淵の剣』を!」


(それ、ただの飾り物のレプリカだよ! 抜いても何も起きないよ!)


俺は、あまりの恐怖に意識が遠のきそうになり、ただじっと勇者を見据えた。

実際には「お願い、斬らないで」という哀願の眼差しだった。

だが、カイトの目には、それは「神が塵芥を見下ろすような、圧倒的な捕食者の瞳」に映っていた。


(……くっ、動けない! 視線を合わせるだけで、僕の魂が吸い取られていく……! これが、王都の時間を止め、神を沈黙させた男の力……!)


「……はぁ、はぁ……。魔王、アルバス……。君は、僕を殺さないのか?」


カイトの額から、大粒の汗が滴り落ちる。

彼は、魔王が指一本動かしていないにもかかわらず、自分の全身が数千の剣で貫かれているような幻覚に襲われていた。


「…………好きにしろ。……もう、疲れたんだ」


(「好きに殺せよ。もうこの勘違い生活に疲れたんだ」という意味だった)


だが、カイトの耳には、その言葉が「……究極の慈悲」として響いた。


「……『好きにしろ』……? 僕の、全力の攻撃すら……君にとっては、遊びにすらならないというのか……。戦うまでもない、と……。……は、はは。完敗だ」


ガラン、と音を立てて。

人類の希望である聖剣が、地面に落ちた。

勇者カイトは、その場に膝を突き、呆然とアルバスを見上げた。


「……君の勝ちだ、魔王。……僕は、君という『深淵』を測り違えていた。……君が望むなら、僕を今すぐ消し去ればいい。……だが、一つだけ教えてくれ。……君は、この世界をどうしたいんだ?」


(……静かに、寝かせてほしい)


俺は、震える声で、最後の一言を絞り出した。


「……安息を、与えたい。……世界に、静寂を」


(みんな静かにしてくれ、俺をほっといてくれ!)


「……安息、と、静寂……。……なんて、壮大で、残酷な理想だ……」


勇者カイトは、涙を流しながら、魔王の足元に額を擦り付けた。

「……わかった。僕は、君を止めることはできない。……ならば、せめて隣で、その『静寂』が完成するのを見届けさせてくれ……!」


こうして、人類最強の勇者は、魔王の「ため息」一つで軍門に下った。

後ろで隠れて見ていたゼノビアたちが、狂喜の叫びを上げる。


「「「流石は陛下!!」」」


俺は、夜空を見上げながら、遠い目をしていた。

(……なんで勇者まで味方になっちゃうんだよ。これ、もう世界征服待ったなしじゃん……)


魔王アルバスの、勘違いによる大陸制覇。

その一幕は、最悪のハッピーエンドで幕を下ろした。

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