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Ep.1『禁足地でも揺らがない』

「ルーザ!起きてるか!」


朝日が昇ると同時に扉が叩かれる。


「はぁ、なんだ」ガチャ


「起きてたか!」


この男はオーディン・アルト。

今やSランク冒険者として、国をも動かす実力者だ。

熱血漢だった彼は、今も変わらず、前だけを見て剣を振るう。


「今日はなんだ?」

「今日もさ!なんか倒そうぜ!」


「はぁ、全く」


オーディン・アルトはいつもこうだ。

朝早くから私を起こして、魔獣を倒しに向かわせる。こんな生活は懲り懲りだ。アルス・ファルカはこんな男との生活によく耐えられていたな。


「も〜、オーディンうるさいよ!」


オーディンの後ろから少女が顔を覗かせる。彼女はアリス・ファーヌ。

オーディン・アルトと同じくSランクの賢者で、かつてファルカと心を通わせた少女。

その眼差しは今も柔らかく、けれどどこか遠くを見つめている。


「師匠!嫌なら拒否していいんですよ!」


アリスは私の事を師匠と呼んで尊敬している。私としてはありがた迷惑だが……


「別にいいさ、それくらい」


心の中ではそう思いつつも、結局はいつも共に過ごしている。きっとアルス・ファルカもそうだったのだろう。


「よし!決まりだ!」


――


「えーっと、どれ受けようかなー」


「早く決めてくれ」


そんな会話をしていると城から兵士が降りてくる。


「オーディン様、アリス様、ルーザ様」


兵士は私達の名前を呼び、話し出す。


「貴方達Sランク冒険者様にお願いがあります」


「どうしたんだ?そんな焦って?」


すると兵士は固唾を飲んで話す。


「禁足地に向かった数名の兵士の通信が急に途切れたんです」


「そして通信が途切れる寸前に膨大な魔力を確認しました」


オーディン・アルトが珍しく真剣な顔をして話を聞いている。


「そこで貴方達に禁足地で何が起きたのかを調査してきて欲しいのです」


その兵士は頭を深々下げてお願いした。


「そんな……頭を上げてください」


「そんなお願いしなくても大丈夫だ!」


アリスはやはり礼儀が正しい、それとは真逆にオーディン・アルトは……


「よろしいんでしょうか?」


「ああ!もちろんだ!」


「その分報酬はたんまりあるんだろうな!」


「全く、やはりそれが狙いだったか」


そんな傲慢なオーディン・アルトの条件に対し兵士は即答する。


「もちろんです、報酬は沢山用意しますのでどうか」


「どうする?アリス、ルーザ?」


「もちろん!行くしかないでしょう!」


はぁ、全く。

私も行くしかないじゃないか。


「ああ、行くさ」


「よし!決まりだな!」


「あ……ありがとうございます!」


兵士の感謝の礼を聞き、私達は禁足地に向けて、足を進める。


――


急に霧が濃くなった、空気も薄く息がしづらい。


「うお……ここが禁足地か……」


何か……居る

とても強大な魔力を感じる……

おそらくSランク魔獣は確実だろう。

だかしかし……


「この大魔導士ルーザ、禁足地でも揺らがない」


――ドガガガガガ


大きな破壊音と共に地面が割れる。

砂埃でよく見えないが、とても大きな体、そして10本の腕。


「来たか……」


「こいつはなんだ!?」


「巨大、そして10本の腕、間違いなく殺戮獣ダーティラズだ」


「ダーティラズ!?なんか強そうだな!」


「こいつはSランクの魔獣でこの禁足地を禁足地たらしめてる張本人」


「ここに入ったものはやつに捕食され、腕の養分にされる!」


「大丈夫だ、私が居るからな」


閃いた。

頭の中に、雷光のように。


超越魔法エクシード・フィネス


魔力が臨界を超える。

元の魔力にさらに上乗せされる。

今の私はアルス・ファルカよりも強い、だが越えることはできない。

それがアルス・ファルカと言う男だからな。


殺戮超越マーダーズエクシード


とてつもない魔力が、そこに集約されていく。ダーティラズは魔力に惹かれて近づいてくる。


「消えろ」


集約された魔力にダーティラズが触れる。その瞬間にダーティラズは跡形もなく消えた。


「すまない、予想以上に早く終わってしまった」


オーディン・アルトとアリスは驚いて固まっている。


「さ……さすがです!師匠!」


「す……すげー!お前超越魔法使えるようになったのか!」


私の元の魔力に超越魔法が合わされば、最強となれる。

だが、別に最強になりたいわけでもないし、勝利を得たい訳でもない。


――あくまでアルス・ファルカへの敬意を表すだけだ。


Ep.1『禁足地でも揺らがない』完

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