夜桜高校の死体探し
企画なので挑戦してみました!
よろしければ読んでやってください。意外とテーマが難しい……。
夜見市立桜ケ丘高校。
古くからある田舎の高校で、正直あまり治安はよろしくない。
歴史ばっかり古くて、爺さん婆さんたちは夜桜高校なんて呼んでいる。
裏に桜の山があることも由来らしい。何でも伝説があるのだとか。
俺たち三人は土曜日の深夜に学校へと忍び込んで酒やら煙草やらで好き放題する習慣があった……学校の敷地内は意外と盲点で、警察も巡回しないらしい。
「前回の宴会が用務員にバレそうになったんだよ! 注意しようとしやがった。
だから、証拠は? って、ちょっと脅したらすぐに逃げてやんの!」
「ははは! それじゃあ注意なんてできねーだろ」
「このゴミも片づけてもらおうぜ?」
体格の良い猛が言うと、忠と俺が便乗する。
猛は少し抜けているものの、調子が良い奴だった。
俺と忠はそこに乗っかることが多い。
これが俺たち三人の力関係だった。田舎だがそれなりに楽しくやっている。
「しっかし、良い景色だなぁ!」
「他の奴らも来れば良いのにな? 秋広!」
「それ良いな。みんなでやれば怖くない、全員退学ってか?」
裏山の手前に陣取って、俺たちは咲いたばかりの桜で花見を始めていた。
酒に煙草と、不法侵入も合わさってバレたら停学は免れないだろう。
桜の山と言っても小高い丘のようなもので、きちんと管理されているものだから、樹の本数は多くない。十分に間隔を開けながら、二十本から三十本くらい。
最近は観光スポットにもなっているらしく、新しく桜を植えたそうだ。
各学年が一本ずつ植えたから、新たに三本増えた計算だ。
「うん」
その光景を眺めて悦に入った……観光スポットになるのも頷ける。
今夜は特に月が良く見えて綺麗だった。
ごんっ。
「?」
後ろから音が聞こえた。振り返る。誰か来たのかと思ったのだ。
前には桜の山。後ろには校舎。
しかし時間は午前二時だ。誰かが残っているはずもないだろう。
だというのに、振り返ると――人が地面に倒れていた。
「お、おい、二人とも……おい!」
「? どうした、秋広」
「え……」
俺が声を荒げると、二人が振り返る。
そうして俺と同じように言葉を失った。
人から地面に血がどくどくと流れていて、地面にしみ出している。
ウチの高校の制服を着ている。長い黒髪の女生徒だ。
「上……? 誰かいる?」
落ちてきたということから連想して、不意に屋上を見上げる。
一瞬だけ人影が見えた気がした。すぐにフェンスの奥へ消えてしまう。
視線を戻す。
女生徒は花壇の煉瓦に頭からぶつかったらしい。
「生きて……ないよ、な」
とりあえず遠目に近づいてみる。
しかし、どこからどう見ても即死だった。
「ど、どうする? どうするよ?」
実は気の弱い忠が落ち着かない様子で俺たちを見る。
「警察と救急に連絡だろ」
俺はそう言うと、スマホを取り出そうとした。
「……やめろ」
しかし、猛は俺の手を押さえつける。
「やめろって……このまま放っておくのか? 見ろよ、俺たちが宴会してた後が残ってるんだぞ。警察が本格的に調査したらバレるに決まってる」
俺がはっきりと言えば、猛と忠の二人はさっと顔の血の気が引いた。
もっとも、俺も人のことは言えないだろう。
「正直に通報するしかない」
「駄目だ、俺たちの話なんて信じてくれない。こ、殺したことにされる」
「じゃあ一体どうするんだよ!?」
俺たちは三人とも二年生。これでも大学進学を考えている。
今の時期に心証が悪くなるのは出来れば避けたい。
「……山に埋める」
「何言ってるんだ!」
俺は猛に歩み寄った。
猛も下がることはしなかった。
「俺たち以外は誰も見ちゃいない。今から痕跡を消せば月曜日には残らない。
学生が一人、行方不明になっただけだ。俺らは知らないで通せば良い」
「……付き合ってられるか」
俺は吐き捨てるように言うと、猛に背中を向けて荷物を取った。
そのまま二人の元から去っていく。
忠の不安そうな「え」という声が聞こえた後、猛の「誰にも言うな」という声が届いて来た。最後の義理で「分かったよ」と返す。
その夜は不安で眠れなかった。
結局、屋上に見えた人影は存在したのだろうか。
日曜日は早朝から雨が降っていた。
これなら地面の血は洗い流せたかも知れなかった。
月曜日。
学校へ行くと、猛と忠が休んでいた。
タイミングを考えれば、土曜日の夜の出来事が無関係ではないだろう。
猛に至っては日曜日から行方不明らしい。まぁ、連絡が取れないことは良くあるのだが。
「……俺と会ったのが最後じゃないだろうな」
不安に思った俺は忠に電話を掛けることにした。
ちなみに猛は繋がらないし、既読も付かなかった。
「……秋広か?」
「おう、大丈夫か?」
「あー、ちょっと筋肉痛で……」
「…………」
ひょっとして猛が行方不明になってることを知らない?
俺は先に訊くべきことを訊こうと決める。
きょろきょろと周囲を見回した。
階段の踊り場に人目がないことを確認する。
「上手くいったのか?」
「……ああ」
小声で訊くと、忠は静かに頷いた。
つまり、猛は死体を埋めた後で消えたということになる。
良かったのか、悪かったのか、判断が難しい。
今も校舎裏の山には女生徒の死体が埋まってる。
「な、なぁ、秋広は何の用だったんだ?」
「……実は猛が行方不明になった」
「は? 冗談だろ?」
「冗談じゃない。昨日から家に帰ってない」
忠の呼吸が浅くなる。
どうにか絞り出すように続けた。
「そんなはずない。確かにあの後……終わって。
雨が降って来たから解散したんだよ」
終わって。
それは死体を埋め終わったということか。
「し、知らない! 俺は知らないッ!
俺は猛の言う通り、真っ赤な……と、とにかく、知らないからな!」
……真っ赤?
それから忠は「知らない」と繰り返すばかりだった。
俺は通話を切ると、教室に戻ろうとする。
「おい」
「?」
急に呼び止められて、振り返る。
階段の上には用務員がいた。
仏頂面で俺を見ている。
恐らく猛が言っていた奴だろう。
「……何ですか?」
「…………」
用務員は値踏みするように俺を見ていた。
ひょっとして聞かれたのか? 冷や汗が頬を伝った気がした。
「山中先輩ですか?
ちょっとお話したいんですけど」
用務員とは反対側。
下の階から声を掛けられる。
「? あ、ああ。別に良いけど……」
女の子だった。
この学校の生徒にしては真面目に見える。
視線を戻すと――用務員はすでに消えていた。
「小林由香と言います。聞きたいことがあって……」
「?」
一年生だろう。
由香はその場で話し始める。
「実はお姉ちゃんが行方不明なんです」
「……!」
ひょっとしたら、あの落ちてきた女生徒かも知れない。
遠目に見ただけだが、似ていると言えば似ている気もする。
妹の方が髪は短く整えているし、幼い印象を受ける。
それでも雰囲気は近いように思えた。
「小林……小林……」
聞き覚えはない。死体を見た時が初対面だったと思う。
少なくとも話をしたことはなかったはずだ。
「……どうして俺に?」
「同じように行方不明になった人がいるって聞きました」
なるほど。猛と関係があるかも知れないと思ったわけだ。
実際、それは多分正しい。
で、いつも一緒にいる俺を探してきたと。
忠の奴は休みだからな。他に選択肢もなかったんだろう。
「…………」
「お姉ちゃんのこと、何か心当たりはありませんか?」
「えっと……」
「些細なことでも構いません!」
「……学校で見かけたかも知れない」
由香が目を見開いた。
その瞬間、自分が迂闊なことを口走ったのだと理解する。
「見たの? どこで?」
由香がじっと、俺の目を覗き込んだ。
「いや、見間違いだったかも……」
「教えてください」
「……お、屋上」
「屋上……」
苦し紛れに言ってしまったが、これなら言い訳が効くかも知れない。
……俺は下から見たということにすれば良い。
「お姉ちゃん、最近は思い詰めた顔をしていたの。
無事でいて欲しいけど……もし何かあったのだとしても見つけてあげたい」
罪悪感で胸が痛む。
あの時、俺が猛を説得して通報していれば……と。
「もし良かったら……!
お姉ちゃんを探すのを手伝ってもらえませんか!?」
由香が深く頭を下げる。
上手く断る理由を見つけることが出来なくて――
「……分かった。
俺も猛を見つけたいしな」
――代わりに手伝う理由をでっち上げた。
夜の学校に忍び込む。俺にとっては手慣れたものだった。
校舎と裏山の横を通る細い通路があって、塀を越えると見つからない。
「……お姉ちゃんは私にとって、奇跡みたいな人なんですよ」
由香は意外と身軽な動きで、塀を越えた。
先に投げておいたスクールバッグを「よいしょ」と拾う。
「奇跡って何だよ」
「私が無理だと思うことを何でもやって見せるんです」
「へぇ、優秀だったのか」
「はい。それはもう」
そう頷くと、由香は複雑な表情を浮かべた。
単純な関係ではなかったのだろう。
「……だからなのかな。
今でもお姉ちゃんが本当は生きてるんじゃないかって私は思っちゃう」
そう思ってはいけないと考えているようだった。
まるで、そんな考えは捨てるべきと思っているみたいだ。
「分からないだろ」
我ながら恥知らずにも程がある。
俺はこれから自分がうっかり口に出した証言を「勘違いだった」と結論付けようとしているのだ。
「思いつめた様子で屋上にいたのに?」
「……それは見間違いかも知れないんだって」
我ながら不自然に取り繕う。
由香は首を横に振った。
「きっとお姉ちゃんは屋上から飛び降りたんです。
問題は死体がないことだと思います。誰かがお姉ちゃんの死体を動かした」
口の中がカラカラに乾くのが分かった。
まさにその通り。猛と忠が死体を埋めたんだ。
「私はお姉ちゃんの死体を見つけたい」
「…………」
ごくりと息を呑む。
もしも死体が見つかって、本格的に調査されたら俺はどうなるのだろう。
とりあえず、校舎の外を一周して見せよう。
それで何もなければ由香も諦めてくれるかも知れない。
「おい……!」
「え」
校舎の近くを歩いていると、明かりが見えた。
急いで由香の手を取って近くにあった樹の影に隠れる。
すぐに足音が聞こえてくる。
俺は由香と二人で息を潜めて足音が過ぎるのを待った。
「…………」
十分に足音が遠ざかってから、俺は一瞬だけ樹から顔を覗かせる。
相手の後ろ姿が見えた。あの用務員だった。懐中電灯を片手に歩いている。
――何をしているんだ?
もう勤務時間外のはず。
そう言えば昼間も声を掛けてきた。
――何か知っているのか?
どうにかして、あの用務員を避けながら由香を諦めさせないと。
「さっきの、用務員さんですよね?」
「……知ってるんだな」
「何度か見かけたことがあります。それにお姉ちゃんと話していたことあって。
お姉ちゃんは優しかったから、声を掛けていたんだと思います」
「…………」
用務員が歩いて行った方向とは逆に歩き出す。
裏山から校舎を時計回りに進んだ。
「なぁ、今日はやめにした方が良いんじゃないか?」
「……少しだけ探させてください」
危険を感じた俺は提案してみる。
たが、由香の決意は固そうだった。
ここで俺だけ帰ったら、逆に危険な気がする。
特に由香とあの用務員が鉢合わせして何かあったら厄介だ。
それに死体が見つかったらそれもマズイかも知れない。
せめて見つかった時の状況は知っておきたい。
……ほんと、何でこんな目に。
「特に異常はなかったですね」
結局、校舎を一周して裏山の近くまで戻ってきてしまった。
あの用務員は、あれから見ていない。帰ったのか、まだ彷徨っているのか。
脇を通った時にちらりと見たが、女生徒……由香の姉が落ちてきた場所に痕跡は残っていなかった。少なくとも素人目には分からない。
雨が全て洗い流してくれたということだろう。
……由香が気付いた様子もなかった。
「やっぱり俺の勘違いだったみたいだ。
屋上から飛び降りたなら校舎の近くに痕跡があるだろ」
最初から言おうと決めていた言葉を口にした。
内心は緊張で倒れそうだけど、少し笑って見せた。
「いや、でも、それは……そうですね」
「だから、後は警察に任せた方が良いよ」
由香は俯いたままで頷いてくれた。
どこか落ち着かない様子だ。何かに怯えているような。
「でも私、不安で……。
最後に裏山を少しだけ見ても良いですか?」
仕方なく、頷いた。内心は帰りたくて仕方ない。
猛が死体を埋めたとすれば、裏山に違いないのだ。
俺と由香は裏山へと入ってゆく。
こちらの気も知らず、夜桜は今日も綺麗だった。
裏山を歩き回る。
少しだけと言っていたが、由香は諦める様子がなかった。
三十分ほど歩き回ったと思う。
出来るだけ自然を装って、前を歩く由香に声を掛けた。
「……もう帰るぞ。闇雲に探しても無駄だろ」
「も、もう少しだけ……お姉ちゃんが見つからないと、怖くて怖くて」
「おい! いつまでそう言ってるんだ!」
「じゃあ一人で帰れば良いじゃないですか!」
つい、声を荒げてしまう。
由香も言い返してきた。
「誰だ」
由香と二人で息を呑む。
用務員の声だ。見つかった?
「こっちだ」
俺は由香の手を取ると、山の中を闇雲に走り回る。
足音が追ってくる。向こうの方が速い。
やばい、追いつかれる。
その時、急に視界が開けた……広場のようだ。
こんな時だと言うのに、目を奪う光景だった。
朧月の下、広場の中心には一際大きな桜が立っていた。
他の桜は……その桜には近寄らないように見えた。
きっと錯覚だろう。
そう感じたのは、その桜の花が血のように赤かったからに違いない。
……まずい。この開けた場所じゃ見つかってしまう。
急いで由香の手を取って、俺たちは広場を囲む桜の陰に隠れた。
「どこだ!? 出てこい!」
二人で息を潜める。
用務員の剣幕はまるで俺たちを殺しそうな気さえした。
ギラギラとした目で俺たちを探している。
その光景を見て、昼間の忠が言っていたことを思い出す。
確か「真っ赤な……」と言っていなかったか?
「……ここに、埋めたのか?」
「――っ!」
思わず呟く。
隣で息を呑む音がした。
どうする、どうする? いっそ正直に話すか……?
そうだ。元々はそのつもりだったんだ。どうしてこんなことに……。
でもそうすると、警察に全部の事情を説明することになるだろう。
この状況から全てを説明するには、あまりにも遅すぎる。
それに、あの用務員の目的が分からない。
何でここにいるんだよ……いや。
そもそも用務員が突き落としたんじゃないか?
屋上の人影は用務員だったんじゃ……むしろ、その方が都合は良いくらいだ。
……あ。
そこで気が付いた。
そうだ、事実かどうかは関係ない。
――全部アイツのせいにしよう。
アイツが死体を埋めたことにすれば良い。突き落としたことにしても良い。
この状況で由香を味方に出来れば簡単だ。
足元に落ちていた木の棒を拾う。
そうだよ。客観的に見れば、俺に分があるじゃないか。
「おい! どこだ!? 出てこい! 警察を呼ぶぞ……?」
用務員が大きな声を出した。スマホを取り出そうとする。
「ふ――!」
そこに一息で踏み込んで、後ろから用務員の頭を全力で叩きつけた。
「あっ、がっ……! クソ、何しやがる!」
用務員が頭を抱えて蹲った。
そこを二度三度と殴りつける。
「はぁ……はぁ……」
やがて用務員が動かなくなった。俺は荒い息を繰り返す。
死んではいないだろう、気を失っただけだ。
「おい、警察を呼べ。きっとこいつが元凶だ」
後ろにいる由香に指示を出す。
あとは警察が来れば、自然と用務員が罪を被ってくれるだろう。
「やっぱり、土曜日の夜――」
用務員が呻くように言った。
意識が朦朧としているのだろう、途切れ途切れの掠れ声だった。
「お前、まだ……!」
俺は頭に血が上って、さらに木の棒を振り上げた。
「――お前たち、学校にいただろ? 俺も、いたんだよ。
証拠を掴んでやろうって、な……屋上で、何してた……?」
お前『たち』? 屋上?
用務員は俺を……いや、俺の後ろを指さしている。
「え」
「……あの大きな人は、口が堅くて困りました」
背中に何かが押し当てられる。
直後、バチッという音がして、気が遠くなる。
どれくらい時間が経ったのか。ざくざくという音がする。
何の音だろう……そうだ、スコップで穴を掘る音だ。
最後に。
夢心地の中、声を聞いた気がした。
「良かった、お姉ちゃん……ちゃんと死んでくれたんだね」
それは心の底から安心したような声だった。
「小林さんって、いる?」
忠はその下級生の教室を調べて話を聞くことにした。
彼はいつも三人組でつるんでいた。
羽目を外して校内で騒いだのが三日前のこと。
その時、屋上から女生徒が降って来たのだ。
錯乱したリーダー格の猛が死体を埋めると言い出して、彼も手伝ってしまった。
日曜日は震えて過ごした。
月曜日になると、疲労が大きくて学校にはとても行けなかった。
すると、もう一人の仲間である秋広から電話が掛かって来た。
土曜の夜に猛が行方不明になっていたらしい。
「あー、いますね。呼んできますよ」
教室の入口近くにいた生徒が立ち上がってくれた。
今日、学校に来てみれば秋広も行方不明になっていた。
それどころか、用務員も消えたらしい。
――意味が分からない。
――でも、何もせずにはいられない。
「はい? 何か用ですか?」
小林由香という下級生はあの『落ちてきた』女生徒の妹らしい。
何か知ってるかも知れないと思い、話を聞きに来たのだ。
「お姉さんが行方不明って……本当?」
「はい。早く見つかれば良いんですけど……」
忠の言葉に由香は首を傾げて見せた。
可愛らしい仕草だが、忠はどこか不気味な印象を受ける。
「俺の友達も行方不明でさ。何か知らないかなって……。
この学校って不穏な伝説もあるじゃん?」
「申し訳ないですけど、何も知らないですね。
……不穏な伝説ってなんですか?」
「それは……」
由香の質問に忠は思わず詰まってしまう。
「……夜桜高校にある桜の木と同じ数だけ死体が埋まってるんだとさ」
「あはは」
臆病だと笑い飛ばされる覚悟で、忠は言った。
しかし、由香は心底楽しそうに微笑んだ。
「じゃあ、計算は合いますね」
「――え?」
思わず忠は聞き返してしまった。
しかし、彼女は言い直すことはしない。
「何でもありません。
……お互い、見つかると良いですね」
由香がにっこりと笑う。
逃げるように、忠は背中を向けた。
そう言えば――新しく三本の桜が増えたのではなかったか。
読んで頂きありがとうございます!
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