天野屋利兵衛は男でござる 後
なんて素晴らしい監視密告体制なのであろう。これなら籠城のその日まで結束を保てるわ!
「さらに表立っては殿の後を追い切腹殉死の方針と表明致す。これによって憎き幕府の目を欺き、武装の時間稼ぎと致す!」
「ハハーッ」
こうして協議は終わり、何事も起こる事無く一週間が経ったので御座います。
「はぁこうしてお登城していると、唯の平和な日々の様で不思議であるな。まさか籠城の準備を着々としている等とはお天道様でも分かりますまい」
にゃ~お
あれからムササビ丸に怪異は見られない。あの日見た物は本当であったのだろうか?
どたどたどた
「大変にござりまする、大変にござりまする! 江戸より片岡源五右衛門様ご帰還にござりまするぞっ」
お城の中を慌ただしく急使の者が走り抜けて行く。早速源五右衛門様ら江戸から急ぎ帰還したご家臣達と父上家老大石内蔵助との対面の場となった。
ー大広間
この大広間には父上に熱心に従う者を中心に集められていた。
「良くぞ舞い戻ったぞ片岡源五右衛門殿に田中貞四郎殿に磯貝十郎座衛門殿、その他の皆もご苦労であった。さらに多くの者がお国の一大事に戻りたる事はこの大石、望外の喜びであるぞ」
「ははーっ我ら殿の御無念を晴らす為、如何なる方策を持って吉良を討ちしかと急ぎ戻りました由!」
江戸組の方々は泣きながら頭を下げた。
「それについてご家老、是非に引き合わせたいお方がっ」
「そちの名は?」
「ははっ亡き殿にお取立て頂いた堀部安兵衛と申す者にてっ」
「あの仇討ちで有名な、さぞや立派な武士なのであろう。で、儂に会わせたい御方とは?」
ずざざっ
半ば足を引き摺る様に商人風の町人が連れられて来た。
「そ、そちは大阪の豪商、天野屋利兵衛殿ではござらんかっ! 何故に此処に!?」
父上は立ち上がって驚いた。
「お聞き下され天野殿こそ天下の義士、来るべき籠城の武器弾薬兵糧米を揃えし時に密偵の詮議を受け、捕らえられておりましたっ!」
何、密偵の詮議? 我が藩はご公義に目を付けられていたのか?
「天野屋利兵衛はッアッ男でェ~ござ~~~るッッ!」
エッ? 商人は何故か見栄を切ったの……
「これはどうなされた? どうぞ事情をお話し下され」
あの父上も驚いて天野屋利兵衛殿に着座を勧めた。
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