お城猫侍の秘密
はぁはぁ……私は大野おじさん、いや罪人大野九郎兵衛を斬るべきなのか、斬らざるべきなのか。身体が固まってしまって動けない。聞こえるくらいに心の臓はどっくどっくと激しく動悸した。
ぶわっ
私は刀を振り上げたまま冷や汗を流す。
迷いに迷った挙句私は刀を振り上げたまま「一刻」(約二時間)も熟考した……あれ何故か一刻も熟考していたのに誰も横槍を入れなくなった。おかしい……そうだ厠に行こう。
「やっ皆様すいませぬ、お花を摘みに参ります」
とすとすとす
さすが赤穂武士、女人ながらにお侍をやっている私が厠に行っても誰も眉一つ動かさない。なんとお心の広い事か。どうか父上も大野殿も和解して欲しい。
「やっどうもどうも戻って参りました」
ぶわっ
私は再び大野おじさんの前で刀を振り上げた。そしてまた一刻が経った……
「あれ、皆さんどうしたのですかーっイライラ致しませぬか? 私、これ程熟考しておるのですよ? フフ」
シィ~ン
明らかにおかしかった。私は振り返って大広間からお庭を見たが、先程まで鳴り響いていた雷鳴が止まっている……えっ止まっている??
「フフフ、ようやく気付いたね千佳羅ちゃん!」
「声、この声はどこから??」
私はあっちこっちを探し回るが、動いている家臣は一人も居ない。では一体誰の声が響いているのか?
「ほらっ僕だよ僕、お城侍猫のムササビ丸だよっニャ~~オ~~~」
ハッ
足元には妖しく目を光らせ、我が足にスリスリ致す一匹の猫、ムササビ丸が。
「キィーーエーーーーッこの妖怪変化めがあっこの怪異は貴様の仕業かぁああああっ!」
ザシュッ!!
振り下ろした刀は畳を切り裂き、ムササビ丸はぴょいんと飛び避けた。
「あいやまたれい落ち着きなされニャーッ」
「この妖しき物の怪がぁああああ!!」
ザシュッズパッ!
私は滅多やたらに刀を振りましたけど、全くムササビ丸にかすりもしない。この化け物めがっ。
はぁはぁ
疲れた。ぺしゃっと畳の上に女人座りでへたり込んでしまう。