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賄賂を惜しんで……真の敵は


「なぁ~~にぃ~~~この城代家老大石内蔵助に盾突くと申すか? よし千佳羅(ちから)よ斬れ~~い!」


 ぐはっっ父上は不都合があると全部私に斬らせる所存ですか? しかし父上の命は絶対、この堀部安兵衛なる猛者を斬らねばならぬ。

 チャキッ

 私は剣の柄に手を掛けた。


「あいやまたれい! 拙者侍とは言え女人を切り殺すは不本意。それにご家老は我が疑問にお答えされておらぬ、まずは問いに答えて頂きたい」


 むっ私より強いという自信、それにしてはとても冷静。これが仇討ちという実戦を経験した人間の器という事なの?



「小癪なっ我と問答致すと言うか? ならば問うが吉良は本に我が殿の仇であるのか?」

「ち、父上っっ」


 シィ~ン

 父上が触れてはいけない箇所に触れだした気がして、広間の強硬派の若者達も静まり込んだ。


「馬鹿な……殿は憎っくき吉良を討ち漏らしたので御座る、それを家臣が仇を討って何が不自然か」

「では何故殿は吉良を討ったのであるか?」


 父上っお止めくだされ!


「決まっておるであろう、汚き吉良が殿に賄賂をせがみ、それを清廉潔白な若き殿が拒んだ為に汚い仕打ちを受けに受け、堪忍袋の緒が切れた殿が義の一太刀を浴びせたのでござる!」


「義のひと太刀は脇差で片手で斬りつけるのか?」

「一体先程から何が言いたいのであろうか、事と次第によってはご家老とて許さぬ」


 ごくり、人々が唾を飲み込む音が聞こえそうだ。


「では何故殿は吉良に望まれるだけの賄賂を差し出さなかったのだ?」

「な、何を!? 賄賂を出さぬは当然の潔白」


「天野屋利兵衛殿、そなたは賄賂を支払った事はあるか?」


 突然名前を呼ばれて天野屋利兵衛さんはビクンとなる。


「……恐れながら……俗物の私めは賄賂を支払った事があります。申し訳ありませぬ」

「拙者も賄賂を支払った事がある!」


 畳み掛ける様に父上も言わなくて良いのに断言する。空気読んで下さい父上!?



「そ、それに一体何の関係が? それだけ殿は清廉潔白な御方なのでござる」

「儂ならば、一藩まるごと路頭に迷わすよりも潔く賄賂を言われるまま差し出す。また吉良も賄賂が最大の収入源ならば、それを求めるが道理。賄賂一つでご教授が進むのであれば、何故それを惜しむ必要があるのか」


 シィーン


「……斬る」

 

 チィン

 堀部安兵衛殿が刀の柄に手を掛ける。

 ニャ~オ~


『千佳羅ちゃん、また時間を止めようか?』


 物の怪よ黙れ!


「控えい堀部安兵衛! 我ら真の敵は吉良にあらず、我らの真の敵は賄賂を求めた吉良を罰せず、喧嘩両成敗の原則を破り殿のみ即日切腹の御沙汰を下した悪の幕府、そして暗愚徳川綱吉では無いのか? 吉良を討つは悪のご政道を見て見ぬふりした行いぞ」

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