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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
3章〜積年の愛
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積年の愛10

頭を吹き飛ばされた魔獣はそのまま倒れ込み、その巨体が街道を塞ぐように横たわってしまった。

これを退かさなければ馬車が通ることはできないが、今はあの青年の治療が優先だ。


「大丈夫か?」

「…っ。」


俺は青年に近付き、そう声をかけた。

青年は尚も苦悶の表情を浮かべて片膝を付いており、腹部を手で押えている。

激痛に耐えているのか、呼吸も荒々しく、声を出すことすら辛いようだ。


「怪我をしてるのか?俺の連れに治癒魔法を使える人が居るから、治してもらった方がいい。」

「…っ。」


青年は俺の提案に対して、首を横に振った。


「…見返りを求めるつもりは無いから安心して欲しい。ここで死なれたら、俺たちの寝覚めが悪いからな。」

「うん。気にしないで。」


こちらへ駆けつけてきたセラフィは、俺の言葉を聞いて状況を察し、そう口添えした。

青年はこちらを一瞥したが、特に反応も示さずに目を閉じ、呼吸を整えていた。

それを治癒の受け入れと判断したセラフィは、青年の傍に腰を下ろし、その肩に手を触れた。


「…どういうこと?」


治癒魔法を施し始めてすぐ、セラフィの手が青年の肩から離れた。

治癒魔法を中断したようだ。


「どうしたんだ?」

「…この人、怪我してない。」

「え…そんなはずは…。」


セラフィにそう言われて改めて青年を見てみると、身に付けている服は汚れていたが、確かに外傷らしい傷は見当たらなかった。

魔獣との肉弾戦を傍から見ていたが、とても無傷で済むような交戦ではなかったと思うが…。

体内のみ損傷しているのだとしても、セラフィの治癒魔法で感知できるはずだ。


「…大…丈夫…。少し…休めば…治る…っ。」

「…わかった。治って話せるようになったら、少し聞きたいことがある。それまでここで待っててもいいか?」

「わかっ…た。」


青年のその声は、激痛に耐えながらも絞り出しているそれだ。演技をしているわけでも無いだろう。

ロードならあるいは治せるかもしれないが、この青年にはロードの固有魔法を見せるほどの信用が無い。

当人も少し休めば治ると言っているし、一先ず様子を見よう。

その間は魔獣の処理だな。


「セラフィ、皆を呼んできて欲しい。」

「何かするの?」

「通行の邪魔だから、魔獣を処理しないとな。ついでに、トルマリン王国に着くまでの食料にしようと思ってる。」

「あぁ、なるほど。わかった。」


俺の意図を理解したセラフィは立ち上がり、皆を呼びに行ってくれた。


──────────────────────────────


「おーい。」


セラフィに呼ばれて来たラピスがこちらに声を掛けながら、ロードの後ろに隠れるようにして近付いて来た。グレースとセラフィもその後ろからついてきている。


「わー…。後ろで見てたけど、結構…派手にやったわね。」


ラピスはロードの後ろから顔だけ出して、魔獣の死骸を恐る恐る覗いている。


「魔獣はもう動かないから、そんなに怯えることはないぞ。」

「わかってるけど…なんだかまだ動き出しそうで怖い。」

「んなことより、そッちの兄ちャんは大丈夫なのか?」

「あぁ、こっちは問題ないみたいだ。少し休めば治るらしい。」

「そんな風には見えねェが…。」

「本人がそう言ってるんだ。そっとしておいてやろう。それよりも頼みたいことがある。」


そう言いながら魔獣の死骸を見遣ると、ロードは嫌そうな表情を浮かべた。


「…アレを退かせッてか?」

「それも頼みたいけど…どちらかと言うと、魔獣を解体して旅の道中で食べる分の肉を獲ってもらいたい。」

「肉を?そりャあやめといた方が良い。」

「何でだ?」

「アレ多分熊だろ?熊の肉は獣臭くて食えたもんじャねェからな。」

「そうなのか?」

「あァ。試しに食ッてみるか?」

「いや…やめとく。」


ロード程の料理人がそこまで言うなら、あの肉は素材としてダメなのだろう。

ドラゴンだった頃は特に気にしたことはなかったが、


「…じゃあ、アレはそのままこの森のどこかに埋めるとするか。グレース、それで大丈夫か?」

「あぁ、それでいいと思うぜ。」

「それじゃあ、アレの処理は皆に任せていいか?俺はこの人を見ておきたい。」

「…分かった。ロード君、ラピスちゃん、セラフィちゃん。手伝ってくれるかい?」

「あァ。」

「うん。」

「私はアレに触るのはちょっと…。穴を掘るだけなら手伝えるけど…。」

「手伝える範囲で大丈夫だぜ。んじゃ、ここはカリア君に任せて、魔獣の処理に行こう。」


グレースが率先して指揮を執り、皆を連れて魔獣の処理に向かった。

俺が魔獣を運んで森の中に埋めに行くのが早いかもしれないが、できるだけこの青年から目を離したくないのだ。あの得体の知れない魔法は、それだけ警戒に値する。


「君…強いんだね。」


青年は変わらず片膝をつき腹部を押さえて痛みに耐えている様子だが、話すことができる程度には回復したようだ。


「…大丈夫か?まだ辛いなら、無理に話さなくてもいいぞ。」

「君は…僕のことを警戒してるみたいだからね。そんな視線で見張ってたら…お互い気が休まらないだろう?」

「…会話をすることで、警戒心を解きたいということか?」

「その通り。…とは言っても、今の僕にはあまり話せることは無いかもしれないけどね。」

「それは…どういうことだ?」

「僕の…固有魔法の副作用で、ほとんど記憶が無いんだ。大事なことは…覚えるはず。」

「…かなり胡散臭いな。」

「本当のことなんだけど…君からするとそう見えるのか。でも、この痛みが引いてくる頃には記憶が全部戻って来るよ。」

「…自分の名前は覚えてるか?」

「えーっと…僕の名前はアイト。君の名前は?」

「俺はカリアだ。他に覚えてることはあるか?」

「うん。自分の固有魔法のことは覚えてる。」

「…アイトの固有魔法について話してくれるのか?俺が言うのも何だけど、そんな簡単に話していいのか?」

「まぁ…良いと思う。君は悪い人には見えないし、君が一番警戒してるのは、僕の固有魔法だろう?正直に話したら…幾分か信用してくれると思ってる。」

「…じゃあ、教えてくれ。」

「うん。僕の固有魔法は…使用してから約30分間だけ、僕に対する攻撃の一切を無効にするんだ。魔法の効果が切れると…この通り、腹の奥から激痛が襲ってきて、このザマだ。その上…ほとんど記憶も無くなってる。でも…1日も経てば痛みもなくなるし、記憶も完全に戻ると思う。」


まぁ…実際に使ってもらわないことには確かめられないな。

一旦は飲み込んでおこう。正直完全に信用はできてないが、アイトの誠意に応えてある程度は警戒を解いておこう。


「…なるほど。とりあえずそういうことにしておく。」

「信じてもらえて無いみたいだね。」

「難しいな。…例えばアイトは、俺がドラゴンの生まれ変わりだって言ったら信じられるか?」

「例えが極端だけど…難しいね。」

「そのくらい難しいってことだ。」

「なるほど。…回復したら、後で実践して見せても良いよ。」

「それは楽しみにしておく。…それで、何で魔獣と闘ってたんだ?」

「…ははっ。覚えてないや。」


アイトの固有魔法より気になっていたことだが、そう言われては仕方がない。

記憶が本当に戻ったら教えてもらうとしよう。


「わかった。思い出したら教えてくれ。」

「うん…。今頑張って思い出そうとしてるんだけど…何だったかな。トルマリン王国に関係してたような…。」

「トルマリン王国?」

「うん。僕が住んでる国なんだけど…何か関係がある気がするんだ。」

「…トルマリン王国では近々、王選が催されるらしいな。」

「王選…あぁ!そうだ!僕は王選に出るために…うっ。」


少し興奮気味に反応したせいか、固有魔法の反動の痛みに障ったらしい。

もう少し回復したら、ゆっくり話を聞くとしよう。

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