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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
3章〜積年の愛
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積年の愛7

「おかえり!もっと早く帰ってくるかと思ってたけど、遅かったわね?」

「おかえり。食材は調達できた…みたいね。」


俺とロードは食材調達を終え、グレースの馬車が停まっている場所に向かっていると、セラフィとラピスが俺たちを迎えに来てくれたようだ。

セラフィが俺たちの接近を察知したのだろう。


「食材は見ての通り調達できたぞ。」

「それは…お肉?何で水の中に入れたまま持ってきたの。」

「血抜きと腐敗防止のためだ。」

「そうなんだ。」

「こいつが肉見せびらかしてッから、周りから変な目で見られてたじャねェか。」

「別に見せびらかしてたわけじゃないんだけどな…。セラフィたちの方は調理器具や食器の準備はできてるか?」

「もちろんできてるわよ!こっちに来て!」


よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに嬉々とした表情で俺たちを手招きするラピスの様子を見るに、かなり自信のある出来のようだ。

招かれるままについていくと、馬車の隣で焚火を眺めているグレースの姿が見えてきた。

更にその後ろには、野営地としては不釣り合いに感じるものがあった。


「グレース、ただいま。待たせてすまない。」

「お、カリア君にロード君。お帰り。…それは食材かい?」

「あぁ、兎の肉だ。」

「兎の…?食べれるのかい?」

「腐ッてねェ肉なら大体食えるぞ。」

「へぇ…ラピスちゃんとセラフィちゃんもすげぇもん作ってたし、期待してるぜ?ロード君。」

「あんま期待すんなッて言ッたろ。…でもまァ、こんな大層な準備されたんじャ、不味いもんは出せねェな。」


ロードは言葉を返しつつもグレースには目もくれず、その後ろにあるものへと歩みを進めた。

そこには幅約2m、奥行約1m、ロードが作業するのに丁度良さそうな高さのテーブルがあった。

そのテーブルの上には、包丁やおたま、ヘラ、ボウル、フライパン等の料理器具が各種揃えられていた。


「…凄いな。これ全部土魔法で作ったのか?」

「そう。全部ラピスが作った。」

「凄いでしょ!セラフィが火と熱湯を使って消毒してくれたから、安心して使えるわよ!」


ラピスが初めて魔法を使った時から思っていたが、土魔法の成形精度については目を見張るものがある。

成形物の強度もさることながら、包丁の刃部分の鋭利加減を調整できるのは職人業と言っても過言では無いだろう。

フライパンやその他の道具を手に取って見てみたが、厚さにムラが無く、どれも均一だ。

セラフィですらこの水準での調整は骨が折れるだろうに、ラピスはそつなくこなせるようだ。


「流石だな。んじャあ、早速作るか。まずは…カリア、その肉貰うぞ…冷たッ。」


ロードは水玉の中に手を突っ込んで肉を一つ取り出し、水を切りながらテーブルの上に置いた。

そしてラピスが作った包丁を手に取り、兎肉の表面に切込みを入れて手早く皮を剥いだ。

文字通り身ぐるみを剥がした肉塊から少しだけ肉を切り取り、それをフライパンに入れて焚火の方へ持って行った。

焚火はフライパンを置いて熱すことができるように石積みで造られており、ロードはそこで肉を焼き始めた。


「何で少ししか焼いてないんだ?」

「毒見と味見すんだよ。俺もこの肉は食ッたことねェからな。」

「…毒を含んだ肉があるのか?」

「いや、ジジイの教えだ。食ッたことねェもんには毒があると思えッてな。」

「なるほど。慎重な人なんだな。」

「食に関しちャそうだが、それ以外はからッきしだ。…良し、焼けたな。」


ロードは焼けてすぐの肉片を素手でつまみ、そのまま自分の口に放り込んだ。

普通であれば指や口内が火傷しそうなものだが、ロードは顔色一つ変えず咀嚼を続けている。


「身体強化魔法を使ってまで急いで食べなくても…お腹空いてたのか?」

「違ェよ。早く作りたくてウズウズしてんだ。」

「へぇ…毎回楽しそうに料理してるけど、ロードがそこまで言うのは珍しいな。」

「当たり前ェだろ。ラピスがこんな何もねェ場所に、こんな整ッた器具用意してくれてんだぞ?心躍らねェ方がおかしい。」

「それ、ラピスに言ったら喜ぶぞ。」

「小ッ恥ずかしいだろうが。」

「じゃあ、俺から伝えておこうか?」

「…はァ。無駄口叩く暇あんなら手伝え。あいつらも呼んで来い。」

「わかった。」


それから俺たちは、ロードに野草の下処理の仕方等を教えてもらいながら、料理を手伝った。


────────────────────────


料理が終わる頃には全ての露店が撤収しており、辺りは暗闇と静寂に包まれていた。

野草を包丁で切る音やフライパンで食材を炒める音が、やけに響き渡っていた気がする。


「おなかすいた~。」

「俺もだ。」

「私も。すごくいい匂い。」


近隣の旅人やその護衛の人間が、時折こちらに視線を向けてきている。

通常こうした旅の道中に摂る食事は、保存性能が高い食材をそのまま食すのが一般的だそうだ。

乾物の食材が中心となるため、必然的に質素な食事となるのだろう。

そんな中、この食欲そそる匂いに気がつけばその根源が気になるのは当然か。


「ちッと量多かッたか?まァ…食えるか。」

「そうかしら?今なら仕込んだ分全部食べ切れる自信があるわ!」

「腹が減りすぎて判断力が鈍ってるぞ、ラピス。俺でもギリギリ食べ切れるかどうか…。」

「…ロード。早く食べさせた方がいい。二人とも空腹のせいで思考力が下がってる。」

「はっはっは!気持ちはわかるぜ?俺も早く食いたくて仕方ねぇ!」

「しッかり火を通さねェと腹壊すぞ。もう少しで焼けッから、もう少し待て。」


俺たちがロードに指示された作業は、野草の下処理と肉に下味を付けるというものだった。

言うだけなら簡単な作業のように思えるが、野草の下処理にはいくつもの方法がある上、分量や湯通し時間等の細かい要求もあったため、それなりに骨が折れた。

しかしその甲斐あって、下処理した野草やロードが自前で持って来た調味料を合わせることで、味付け用のタレが完成した。

一口大に切った肉をそのタレに軽く漬け込めば後は焼くだけなのだが、意外にも兎肉の可食部が多く、大きなボウル2つが満杯になる程の量を仕込むこととなったのだ。


「…よし、後はこの野草を散らして軽く炒めりャ…完成だ。」


ロードは下味を漬けた肉をフライパンに入れて良く焼いた後、少量の野草を散らして手早く絡め合わせた。

焚き火の周りで料理の完成を座して待っていた俺たちは、ロードの口から完成という言葉を聞き、各々に配られた器と箸を握りしめながら期待を昂らせていた。

しかしロードはそんな俺たちを気にすること無く、焼きあがった肉を一つ摘み持ち、そのまま自分の口の中へと放り込んだ。


「あー!料理人の特権!ズルい!」

「味見にズリィも何もねェだろ。…なかなかイケるな。」

「ズルい!」

「わかッたわかッた。早く器持ッて来い。」


ラピスはその言葉に素早く反応し、自分の器を持っていの一番にロードの元へと駆け寄って行った。

俺とセラフィ、グレースもラピスの後ろに続いて行き、順番にロードに配膳してもらった後、各々焚き火を囲んで座った。

ロードも自分の器に料理をよそった後、軽く周りを見渡して全員の食事の準備ができたことを確認すると、手を合わせながら口を開いた。


「んじャ…いただきます。」

「「「「いただきます」」」」


その食事の合図を皮切りに、俺たちは一斉に料理を口に運んだ。


「ん〜!おいしい!」

「うん、おいしいね。」

「こりゃうめぇな!匂いだけでうめぇのはわかってたが、食ってみたら想像以上だぜ!」

「流石ロードだな。これならいくらでも食べれそうだ。早速おかわりしてもいいか?」

「私も!」

「はァ?まだ食い切ッてねェじャねェか。」

「早く行っておいたほうが早く食べれるかと思って。」

「私も!」

「自分で食う分は自分で焼け。焼くだけなら簡単だろ。」

「わかった。」

「わかった!」


それから俺たちは焼くだけの料理に苦戦しながらも、歓談しながら食事や料理を楽しんだ。

しかし仕込んだ肉の量は思いの外多く、しばらく食事を続けてボウル1つ分は消費できたものの、もう1つのボウルはまだ半分程しか消費できていない。


「…私、もう食べれないわ。」

「俺も結構満足して来たな。」

「最初の威勢はどこ行ッたんだよ。」

「焼いてる時間があったから、それでお腹を膨らんだのかもしれない。」

「そうだろうな。まァセラフィが残りを凍らせてくれんなら、また明日の朝にでも食える。」

「うん、そうしよっか。…ねぇ、グレースさん。」

「何だい、セラフィちゃん。俺ももう腹いっぱいなんだが…。」

「あぁいや…誰かがこっちに近付いてきてるんだけど、警戒した方がいい?」

「ん?どこからだい?」

「向こうから。多分、私たちの隣で野宿してる人。1人でこっちに来てるみたい。」


セラフィが指差した先を見ると、確かにこちらに向かって来ている人影が1つあった。


「あ〜…。もしかしたら迷惑かけちまったか?」


グレースは迷惑と言う言葉を使ったが、恐らく料理の匂いのことを言っているのだろう。

悪臭が迷惑になるのは言うまでもないが、この状況では食欲そそる匂いが迷惑になり得る。


「まぁ、ちょっと俺だけで行ってくるぜ。向こうも一人で来てんなら、事を構えるつもりはねぇと思う。」

「わかった。何かあったら呼んでくれ。」

「おう。」


グレースはそう返事しながら立ち上がり、こちらへ向かって来ている人影の方へ歩み寄って行った。

とは言えその人影はもう近くまで来ており、グレースが10歩程度歩みを進めた位置で相対したため、俺たちに会話の内容が筒抜けだった。


「やぁ。突然の訪問を許して欲しい。私は隣に場所取りしてる者なのだが…ん?もしかするとグレースじゃないか?」


グレースと相対した主の声は老爺のそれで、どうやらグレースのことを知っているようだ。


「…もしかして先生?イルール先生ですかい?」

「おぉ〜久しいな、グレース。息災か?」

「えぇ!先生も元気そうで!」

「まだまだ現役よ。久方の再会を喜びたいところだが、ちょっと頼みがあってな。」

「頼み、ですかい?」

「あぁ。この食欲そそる芳醇な香り…お前さんのとこで作った料理で間違いないかね?」

「あ〜…はは。すみません、迷惑かけちまいましたか?」

「いやいや。まぁ捉え方によっては迷惑になるかもしれんが、私はそうは思っておらん。して本題なのだが…その料理、もし余っておるなら私に売って欲しいのだ。…どうだろうか?」

「…なるほど、料理を。そういう事なら、作った本人に聞いた方が早いですかね。紹介しますんで、どうぞこちらへ。」

「それはありがたい。」


そうして、グレースはイルールという老爺を俺たちの前に連れて来た。

その老爺は長い白髪と白髭を携えており、見た目からも声からも歳を感じさせるものがあるが、立ち姿からはまるで老いを感じることが出来ない程に綺麗な姿勢をしている。

表情も柔らかく、悪意などは微塵も感じない。

グレースとの会話からも感じていたが、一先ず揉め事になることは無さそうだ。


「みんな、ちょっといいかい?」

「うん。話は聞こえてたから、大体事情はわかってる。」

「それは話が早い。こちらはイルール先生。あ…先生ってのは、俺に御者の仕事を教えてくれた先生ってことだ。すげぇ良い人だから、あまり身構えなくていいぜ。」

「いやいや、身構えるのは当然の事。それに、他人の敷地に断りなく足を踏み入れるような人間を良い人と言うのは、些か無理があるだろう。」

「少なくとも、悪意はないように見える。」

「…そう思って頂けたのであれば、ありがたい。あなたのお名前をお伺いしてもよろしいですかな?」

「俺はカリア。…ほら、皆も。」

「うん。私はセラフィと言います。」

「私はラピスです。」

「俺はロードだ。」

「…ありがとうございます。それでは私も改めて…御者のイルールと申します。以後、お見知り置きを。」


イルールからすれば俺たちは子供同然であるにもかかわらず、丁寧な言葉遣いに加えて紳士的な態度で接して来ている。

その態度に何となく違和感を覚えた俺の隣で、ロードが口を開いた。


「…それで、俺が作ッた料理を買いてェッて話だッたか?」

「おぉ。この料理はロード様が作ったのですかな?」

「そうだ。」

「その若さでそれだけの腕を持っているのは大変素晴らしいことです。」

「俺の料理の腕なんざ、食ッてみねェとわかんねェだろ。」

「料理の味は確かにわかりませんが、その料理が美味いことだけはわかります。私の勘がそう言っているのです。」

「…そうか。まァ譲るのは良いが、別に金取るつもりはねェ。どうせ俺たちも今日中に消費できねェからな。むしろ引き取ッてくれんなら助かるくらいだ。」

「…ふむ。私も商売をする身として、その料理を無料でいただく訳にはいかないのです。…金銭の代わりに、私が持っている知識や情報を提供すると言うのはどうでしょう。」

「…知識…情報か。」

「何でもお聞き下さい。私が知っていることであれば何でもお答えします。」

「…。」


ロードは何か質問を考えているようだが、すぐに思いつくような質問は無いようだ。

少しの沈黙の後、ロードは俺に向かって話しかけてきた。


「こう言うのはお前の方が有効活用できんだろ。」

「え。いや、全然考えてなかったな。」

「じャあ考えてくれ。」

「ん〜…。じゃあ、創造神教について知ってる事を教えて欲しい。」

「…創造神教ですか。この世界を、ひいては我々人類等の生命を創造した存在が居ると信じ、その存在に感謝の意を示すべく祈りを捧げなければならない。と言う教えですね。」

「そういう教えだったのか。」

「信徒の方に聞かなければ、まず知ることはないでしょう。何しろ教典が無いものでして。」

「…教典、無いのか。」


ナイト王国の書庫を漁っても見つからないわけだ。


「はい。昔から存在する宗教なのですが、何故か無いのです。私もあるものだと思っていましたが、数名の信徒から同じ話を聞いたので、間違いないかと。」

「…わかった。教えてくれてありがとう。」

「いえいえ。…つかぬことを伺いますが、旅の目的地はクォーツ王国ですか?」

「そうだ。」

「…創造神教に入信されるのですか?」

「あぁいや、その気はさらさら無い。クォーツ王国にラピスの家族が居て…。まぁ色々と事情があって、一緒に会いに行くだけだ。」

「…なるほど。であれば、いくつかお渡ししたい情報があります。」

「おぉ。それは聞きたいな。」

「とは言えこれはグレースに話すべき内容なので、グレースを交えて話をしたいと思います。」

「お?その口ぶりは良い情報ですね?」

「聡いな、グレース。クォーツ王国へ行くなら、道中でトルマリン王国に立ち寄るだろう?」

「えぇ、寄りますね。馬を変えるだけですが。」

「それなら─────」

「─────ちょっと待って欲しい。」


俺はイルールの話を遮り、横に居たロードと顔を見合わせた。

その表情は俺と同様に驚いており、セラフィとラピスは俺たちの様子を見て苦笑いを浮かべている。


「どうかされましたか?カリア君。」

「あ…話の腰を折ってすまない。トルマリン王国って…『貴方の見る景色』の舞台の…?」

「おぉ、ご存知だったのですね。おっしゃる通り、『貴方の見る景色』はトルマリン王国を舞台にした史実でございます。」

「まさか実在していたとは…!ロード…!」

「あァ…行くしかねェな…!」


『あの本』が大好きな俺とロードは、もうトルマリン王国に行くことしか考えられなくなっていた。


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