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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
3章〜積年の愛
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積年の愛5

「『スズキ屋』か…。わかッた。そんで…お前はいつナイト王国に戻るんだ?ここで店構えてるッてことは、お前もこの森を抜けてどッか行くんだろ?」

「あぁいや。俺は出先の用事が終わって、ナイト王国に帰ってる途中なんだ。この森を抜けてすぐに店を構えてただけだよ。…ダメ元でね。」

「ダメ元?」

「うん。さっき口走っちゃったけど、これらの調味料に興味を持ってくれたのは…言葉通り、ロード君が初めてなんだよ。」

「…この商売、いつからやってるんだ?」

「うーん。もうすぐ1年は経つかな?」

「えぇ…誰にも興味持たれなかったのに、よくやって来れたわね…。」

「あはは…。まぁスポンサーと言うか…後ろ盾のお陰だね。」

「…物好きな後ろ盾だな。まァ店にはそのうち寄ると思うが、多分1,2ヶ月先になる。」

「わかった。首を長くして待ってるよ。」

「あァ。…んじャ、そろそろ俺らも行くか。」

「そうだな。」


辺りはすっかり暗くなっており、露店の通りに灯っている明かりの主張が強くなって来ている。

ちょうど森の中の夜行動物が活動を始めている頃合いだろう。


「じゃあ私たちは、戻って準備してるね。食材調達よろしく!」

「あァ。」


俺とロードは食材の調達のために森へ。

セラフィとラピスは調理器具や食器の準備を行うために、グレースが陣取った場所へと歩みを進めた。


「ちょっ…ちょっと待って!」


森へ向かい始めて間もなく。

俺とロードの後ろから声がかかったため、俺たちは歩みを止めて振り返った。

振り返るまでもなくその声の主はわかっていたが…そこには、駆け足で俺たちを追って来ているスズキの姿があった。


「どうしたんだ?」

「どうもこうもないよ…。君たちが話しているのは聞こえてたから嫌な予感はしてたけど…食材調達ってもしかして、あの森の中でするつもりかい?」

「あぁ、そのつもりだ。危険なのは重々承知してるから、大丈夫だ。」

「…君たち、この森の夜を甘く見すぎじゃないか?見たところ、君たちはまだ成人したばかりだろう?護衛も付けてない上に、武器も持たずにあの森に入るなんて…自殺行為だよ。」


確かにスズキは俺やロードの実力を知らないため、そう見えてしまうのは仕方ない。

露店に行く前、グレースは俺たちの身分や実力を知らない人間がいることを懸念していたが…このような形で身を案じられるとは思ってなかったな。


「…どォする?無視して行くか?」

「いや。これを見せれば、わかってくれると思う。」

「あァ?そんな紙切れでか?」

「まぁ任せてくれ。」


俺はグレースから貰ったカードを取出し、スズキの元へ歩み寄りながら話しかけた。


「スズキ。『旅馬』という店は知ってるか?」

「え?あぁ…うん。色んな国へ行くようになってからお世話になってるけど?それがどうしたんだい?」

「俺はその店長のグレースから、このカードを貰ってるんだ。」

「…このカード…え?…ってことは…君、もしかして…貴族の方…ですか?」


グレースから貰ったカードは、思った以上の効力を発揮したようだ。


「急に敬語はやめてくれ…いつも通りの方が良い。あと俺は貴族じゃない。実は、賢者ヒスイの弟子なんだ。」

「…ヒスイさんの…?」


スズキが目を丸くしながらそう呟き、驚きの表情を浮かべた。

正直、俺が賢者の弟子だという事を信じてくれない可能性が高いと思っていたが、驚いているということは多少なりとも信じてくれたのだろう。

しかしスズキの呟いた言葉からは、賢者ヒスイに対する親しさを感じる。


「知り合いなのか?」


俺が率直な疑問を投げかけると、スズキは少し取り乱し始めた。


「え、えっと!ちょっと待ってくれるかな!」

「あ、あぁ。」


そういうや否や、スズキは自分の頭を軽く掻きながら、後ろを向いて何やら呟いている。


「…いやそんな偶然…でも仕方ないよな…あぁ~…やっちゃったな~…。あぁいや…一応確認しなきゃ…。」


少しして、落ち着きを取り戻したスズキが俺に向き直り、話しかけてきた。


「え~っと…まず名前を確認してもいいかな?」

「…俺の名前はカリアだ。」

「…だよね。もしかして、もう一人ヒスイさんの弟子が居るのかな?」

「あぁ、セラフィのことか?さっきまで一緒にいた…修道服を着てた女の子だ。」

「あの子か…。じゃあこのペンダント、持ってるよね?」


そう言ってスズキが胸元から取り出したのは、賢者ヒスイが俺たちにくれた十字架のペンダントにそっくりなものだった。

俺もスズキと同様に胸元から十字架のペンダントを取出してスズキに見せると、スズキは深いため息を吐き、乾いた笑い声を発した。


「あはははは…。すみません、ヒスイさん…。」


スズキは突然賢者ヒスイに謝りながら、手にしていた十字架のペンダントを宙に浮かせた。

俺が持っているものと同じものなら、賢者ヒスイと会話するために魔力を流しているのだろう。

少しして、そのペンダントから賢者ヒスイの声が聞こえて来た。


『もしもし。スズキ君?どうしたんだい?』

「あ…お疲れ様です。ちょっと…事故があったと言いますか…。」

『…事故?怪我をしたのかい?』

「あぁいや…そういうわけじゃなく…その…。」

『…はっきり言って。』

「あ…はい。カリア君とセラフィさんに、接触してしまいました…。」

『…何で?』

「偶然なんですよ!俺が売ってる商品に興味を持ってくれたお客さんだったんです!…カリア君とセラフィさんの見た目を知らなかったので、そのまま接客してしまいました…。」

「…まぁ、正確にはロードが興味を持ったんだけどな。」

『…やぁ、カリア。旅の方は順調かな?』

「順調…と言いたいところだけど、ちょっと危険なところへ食材を調達しに向かおうとしてる所でスズキに止められてて、何ともしがたい状況なんだ。賢者ヒスイから説得してくれないか?」

『あぁ…おおよそ状況は察したよ。それならもう私が説得する必要はないかな。そうだよね?スズキ君。』

「はい…俺の杞憂でした。カリア君、ロード君…引き留めてしまって申し訳ない…。」

「…それは大丈夫だけど、これはどういう状況なんだ?」


賢者ヒスイの弟子であると判明したことで、森に入ることが自殺行動ではないとわかってくれたみたいだが…。

スズキが賢者ヒスイと会話できる十字架のペンダントを所有していることや、俺たちと接触したことに対する謝罪について、疑問を抱かずにはいられない。


『あぁ、うん。それは私から説明するよ。…ちなみに、周りには君たちとロード以外に誰か人はいるのかな?』

「居ないぞ。」

『それなら良かった。って言うのも…実は彼、君やセラフィの事を知ってるんだ。』

「知ってる…と言うと?」

『君たちの出自について、だよ。』

「…そうなのか?スズキ?」


俺はスズキにそう問いかけると、スズキは再び軽く頭を掻きながら気まずそうに答えた。


「うん。ドラゴン…だったんだよね?ヒスイさんの魔法で人間に生まれ変わったって聞いてるよ。」

「…そうか。賢者ヒスイが教えたんだな?」

『そう、私が教えたんだ。…君たちの許可も得ずに話していたことは、申し訳ないと思っている。』

「申し訳ないと思っているなら、何で俺たちのことを話したのか教えてくれないか?」

『…そうだね、分かった。教えるにあたって、詳しく話せない部分もある。そのことは理解してもらいたい。』


予想はしていたが、やはり賢者ヒスイの隠し事に関わってくる内容だったか。


「話せる範囲でいい。」

『ごめんね。それじゃあ…ユリちゃんのことは覚えてるかな?』

「あぁ…覚えてる。」


俺やセラフィの身体を作った人間だ。賢者ヒスイと同じ目的を持ち、共に魔法の研究をしていると言っていたな。


『じゃあ、私たちの目的も覚えてるよね?』

「ドラゴンと人間の共生…だったな。」

『そう。その目的のために、私たちは同じ志を持つ仲間を探して集めてるんだ。スズキ君はその仲間の1人だね。』


賢者ヒスイが各地を旅しているのは、その仲間を探すためでもあるのか?

だとすれば、仲間の数は相当数居るだろう。


『そして、私たちの目的にとって君たちの存在はかなり大きい。ユリちゃんも泣いて喜んでいただろう?』

「そうだったな。」

『そんな君たちの事を、仲間に話さないわけにはいかなかったんだ。仲間の皆には接触することも避けるように言いつけてたから、君たちに言わなくても正直ばれないと思ってたよ。』

「…随分正直だな。それで、その仲間は何人いるんだ?」

『私たちを除けば…あと2人いるね。』


…思ってたよりも少ない…少なすぎないか?

いや、その2人ってもしかして…。


「…その2人って、もしかしてガイウスとアリウスのことか?」

『いや、彼らは仲間と言うより…協力者だね。』

「協力者?…わざわざ言い直す必要があるのか?ガイウスやアリウスも俺たちのことを知っていて、ドラゴンとの共生にも賛同している。スズキやユリと何が違うんだ?」

『まぁ…そうだね。端的に言えば…私と同じ秘密を共有してるか、そうじゃないかの違いだね。』


秘密を…共有している?

賢者ヒスイにいくつか隠し事があることは知っているが…秘密というのはその事だろうか?


「…その秘密と言うのは、ユーベルトやオリファーの事か?」

『そうだね。』

「シャルの『竜の涙』に記憶の欠落があることも、お前たちの秘密に関係があるのか?」

『まぁ…そうだね。』

「カレーという食べ物についてもそうなのか?」

『そうだよ。』

「ヒスイさん…そんなに話して大丈夫なんですか?」

『…カリアとセラフィは、私たちの仲間を除けば、この世界で最も私たちの秘密に関わらざるを得ない存在だからね。秘密の核心を突く話はしないように気を付けてるから、大丈夫だよ。』

「…。」


スズキは焦りと不安が入り混じったような表情を浮かべ、黙りこくってしまった。

俺やセラフィの身体の素体がユーベルトとオリファーのため、俺たちは賢者ヒスイたちの秘密に最も近い存在…ということなのだろう。

賢者ヒスイやスズキは、そんな俺たちに秘密を知られることに余程不都合があるようだ。


「…俺も概ね把握した。スズキが俺やセラフィと会って、不用意に秘密を漏らしてしまわないように、俺たちとの接触を避けるよう言ってたんだな?」

『その通り。…こんなことになるなら、先に話したほうが良かったね。君たちの事を勝手に話して、申し訳ない。』

「まぁ、それに関してはあまり気にする必要はないと思ってる。お前たちは秘密を知られることに不都合があるんだろう?残り2人の仲間も、俺たちの事を言いふらすようなことはしないはずだ。」

『うん。あの2人も君たちの事を吹聴するようなことはしないから、そこは安心してほしい。』

「それなら俺は気にしない。多分セラフィも気にしないだろう。」

『…ありがとう。』

「それはそうと、そんな秘密を共有できているのはどういうことだ?秘密を知られるのが不都合なら、秘密を共有することは不可能じゃないか?」

『…その疑問はもっともだね。私たちには、秘密を共有できる人間かどうかを見極める術がある…としか言えない。』


それ以上の事は話せない…ということか。


「…わかった。俺やセラフィがスズキと接触することはないと思うから安心してくれ。俺よりもロードが世話になると思う。」

『うん。そうしてくれるとありがたい。』


聞きたいことは多々あるが、今は他に優先すべきことがあるため、このくらいにしておこう。


「それじゃあ…俺たちはそろそろ食材調達に行くよ。」

『あぁ、うん。時間を取らせてしまってすまない。』

「あぁ。それじゃあまた。」

『またね。あ、スズキ君には話があるから、まだ通話は切らないでね』

「はい…。」


そうして、俺とロードはスズキを背にして森の中へと入って行った。


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