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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
3章〜積年の愛
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積年の愛4

俺たちを乗せた馬車は先程まで走っていた道から外れて、森の入口からかなり離れた場所に停車した。


「…よし、この辺にするか。お客さん方、到着しましたぜ。」

「ありがとうグレース。お疲れ様。」


俺はグレースを労いながら馬車を降りて、周りを見渡した。俺たちが取った場所は、この平原で野宿するであろう他の馬車と一定の距離が置かれている。その他の馬車同士も、一定の距離を保った位置で陣取っている。

遠くから見た時から感じていたが、何か得体の知れない統率力が働いているようだ。


「森の入口から随分離れた場所にしたんだな。」

「ん?あぁ、一応この辺の場所取りには暗黙の規則があるからな。」

「…無法地帯なのにか?」

「人が集まる所には法が生まれるってもんさ。まぁ規則って言っても、他の人と距離を置くってだけなんだけどな。ここで野宿する他のヤツらを、無条件で信用することは難しいからな。」

「まぁ、確かに。知らない人が近くで野宿していたら、誰でも警戒する。距離を取ってくれるとありがたいな。」

「あぁ。自衛のためにも、周りの人のためにも、距離を取ってるってわけだ。当然、森の入口から近い順に場所を取って行っちまうから、俺らより先に場所取りしたヤツらが多ければ多い程、森の入口から離れた場所を取るはめになるってわけだ。」

「なるほど。」


人の集う場所に法が生まれるなら、ドラゴンも集えば法が生まれるのだろうか。

そう言えば、俺がドラゴンとして生まれた時から、ドラゴンが一堂に会する機会はついぞ無かったな。


「これから森に入るのか?」

「あぁ。セラフィとラピスも連れて露店を少し見た後、そのまま森に入るつもりだ。」

「そうか。まぁカリア君なら大丈夫だとは思うが、気を付けてな。」

「ありがとう。」

「あぁ!それと…この前俺が渡したカード、持ってるか?」

「カード?…これの事か?」


俺は懐に入れてあった紙を取り出し、グレースに見せた。

白竜の村から帰る時、通りすがりの馬車に乗せてもらうためにグレースから貰ったカードだ。

その時は結局使う機会は無かったが、いつか使う機会があると思って持ってきておいたのだ。


「それだ!もし露店で何か買うなら、買う前にそれを見せた方が良いぞ。」

「どうしてだ?」

「カリア君たちの事を何も知らない商人からすりぁ、良い金づるだと思われるかもしれねぇからな。」

「…どうしてだ?」

「まぁ…カリア君たちは若すぎるんだ。あけすけに言えば、商人に舐められるって事だ。」

「…なるほど?このカードを見せれば、舐められなくなるのか?」

「あぁ。ウチの信用を得て、且つそれなりの身分がある人間にしか、そのカードは渡してねぇんだ。言ったろ?ウチは結構名が売れてんだ。そのカードの事を知らねぇ商人は、ここらじゃそう居ねぇ。」


世間では有名らしい『旅馬』が信用を置いている客だと証明できると言うことか。

確かに、そんな人間を相手に無礼を働こうとは思わないだろう。


「そうだったのか…。そんな大層な物を貰っていたんだな…ありがとう、グレース。」

「良いってことよ。…それよりも、早く行った方がいいんじゃねぇか?お連れさん方が待ってるぜ。」


グレースがそう言いながら向けた視線の先には、身体を伸ばしながらこちらの様子を伺っている3人の姿があった。

俺とグレースの会話に混ざらず、立ち位置を露店の方角へ寄せているところを見ると、余程露店に興味を惹かれているようだ。


「そうみたいだな。じゃあ、行ってくる。」

「おう。俺はこの辺りで留守番してるぜ。」

「わかった。」


俺はそう言いながらグレースに背を向け、セラフィたちの元へと駆け寄った。

そして俺はみんなを待たせたことを謝罪しつつ合流し、早速露店へ向かうこととなった。


────────────────────────────────────


先程まで馬車で進んでいた道の上を歩くこと十数分。俺たちは目的地である露店に到着した。

馬車2台並べても余裕を持って通れそうなその道の両脇に、合計20店程の露店がそれぞれの占有地を持って商いをしている。

おそらく、この商いの場にも暗黙の規則があるのだろう。露店の種類こそ違うが、配置は等間隔に並んでいた。

この露店が並んでいる通りを抜けると、その先には森がある。

日は完全に沈みきってはいないが、森の入口は異様な暗闇に覆われており、自然の放つ特有の恐ろしさを肌で感じとることができた。


「おぉ〜。結構人が居るのね!」

「そうだな。…何だか、俺たちが浮いてるように感じるな。」

「…まァ、俺たちより一回りは歳食ってるやつしかいねェからじャねェか?」

「それもある…でも、それだけじゃない。ここに居る俺たち以外の、ほとんどの人が武装してる。」

「…ここに居る人たち、多分他の馬車で護衛をしてる人たちなんだと思う。」


俺はセラフィの言葉に頷き、同感の意を示した。

この露店の主な客層は、馬車の護衛を生業としている人たちがほとんどだろう。

武装していない人もちらほら居るようだが、そう言った人は傍に護衛らしき人を侍らせている。

護衛もつけていない青年男女の俺たちは、この場では異質な存在なのかもしれない。


「ねぇ!そんなことより早く見に行きましょ!」


この場で浮いていることをあまり気にしていないラピスはセラフィの手を引っ張り、右側の1番手前の露店へ足を運んだ。


「…とりあえず一緒に見て回るか。」

「そォだな。」


俺とロード、セラフィはラピスに先導されながら露店を見て回ることになった。

いくつか見て回ったが、やはり護衛職向けの商いが多い傾向にあるようだ。

武器や防具の販売…愛用している武具を整備してくれる店…更には、身体を揉みほぐす店もあった。

ラピスはそれらの商いには全く興味が無いらしく、次々と露店を回って行った。

この通りに到着してまだ数十分と経って無いが、既に露店の終わりが見えてきていた。


「…何だか、期待はずれね。」

「護衛職向けの商売が多いから、仕方ないね。」

「途中でアクセサリーとか売ッてる店あッたじャねェか。あれも興味ねェのかよ?」

「う〜ん…無いわね。」

「セラフィも興味無いのか?」

「無いかな。」

「…無いのか。本の物語の中では女性が装飾品を好む描写が多かったから、みんな好むものだと思ってた。」

「俺もだ。」

「…二人とも、本で読んだ知識を妄信しすぎよ。」

「でも、アリウスは好きそう。」

「確かに。アリウスは好きだと思うわ。まぁ人それぞれってことよ。」

「そんなものか。」

「そんなものよ。…あ。あのお店で売ってるの何かな?」


そう言ってラピスが視線を送っている露店は、通りの一番奥にある店だった。

最後の最後にラピスの興味を惹いた露店を見てみると、そこでは乾物食材のようなものを売っていた。

しかし、どれも見たことが無いものばかりだ。見た目で食材と判断したが、食材だと断言できる程自身があるわけでは無い。


「いらっしゃい。お客さん方、これを見るのは初めてだろう?」


俺たちが並べられた商品を見ていると、店主と思しき男から声を掛けられた。

黒い髪に黒い瞳。人あたりの良さを感じる声と仕草が印象的だ。


「俺は初めてだけど…ロード、これ何かわかるか?」

「…いいや。見たことねェし、わかんねェ。食材…か?」

「あはは。うん、まぁ食材と言えば食材かな。でもこれ単体で食べるようなものじゃないんだ。」

「てなると…調味料ッてことか?これを粉になるまで砕いて、料理に入れるッてとこか。」

「そう!君、察しがいいね!さては料理人かな?」

「あァ、そんなとこだ。それより、これはどんな味がするんだ?」

「それかい?それは唐辛子って言うものを乾燥させたもので──────」


それを皮切りに、ロードは店に並べられている全ての調味料の説明を店主に求めた。

その説明を聞いている当人は楽しそうだが、俺やセラフィ、ラピスは全く話についていけなかった。


「──────っとまぁ、これで一通りの説明は終わりかな?いやぁ嬉しいなぁ!こんなに興味を持ってくれるお客さんは初めてだよ!」

「ロードがこんなに興味を持つなんて…もしかして知らない調味料があったの?」

「…あァ。全部知らねェもんだッた。」

「ロードが知らないものしかないなんて…世界は広いんだな。」

「ふっふっふ。知らないのも当然さ!ここにあるものは俺にしか栽培できないからね!」

「大きく出たね。それにしてはあまり売れてないように見えるけど?」

「…この調味料の素晴らしさに気づける人はほんのひと握りってことさ!ロード君と言ったかい?君はこれらの調味料の素晴らしさに気づいてくれたはずだ!是非この調味料を使った料理で、この世界に変革をもたらして欲しいなぁ!」

「…何か、急に変な人になったね。」

「あ…いやいや!ロード君にはそれだけの才能があるって言いたかっただけだよ?」

「…それにしても大袈裟過ぎだ。それに自分でしか栽培できねェなら、自分で作ッて自分の手柄にした方がよッぽど良いだろ。」

「…あ〜。そうしたいのはやまやまなんだけど…。俺、料理作るのが絶望的に下手なんだよね…。」

「…怪しい。」

「そんな事言わないで!本当だから!ほら、これは興味を持ってくれた感謝の印だと思って受け取って欲しい!」


店主はそう言いながら、各種調味料をまとめてロードに差し出した。


「…ロード、大丈夫?それ、実は全部毒が入ってたりしない?」

「入ってないよ!」

「…まァ、毒が入ッてても大丈夫だ。」


ロードの治癒魔法があれば、確かに問題無いかもしれない。


「だが…今は要らねェな。」

「今は?」

「あァ。この調味料の使い方を探すなら、もッと腰据えてやりてェからな。今貰ッても、旅の荷物になるだけだ。それを使うのは、旅が落ち着いてからだな。」

「あぁ…そうだよね。その旅が終わったら、少しは落ち着くかな?」

「そうだな。」

「じゃあ落ち着いた頃でいいから、ナイト王国に来てくれないかな?俺の店がそこにあるんだ。」

「…わかッた。何て名前の店だ?」

「ありがとう!店の名前は『スズキ屋』。俺の名前がスズキって名前だから、合わせて覚えてくれると嬉しいな。」

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