積年の愛2
遅くなりました。すみません。
「ここに居る者は皆知っているだろうが…罪人のバンデンは死刑と判決された。そして本日、私が手ずから裁きを下した。」
バンデンが死刑となった事について、俺とセラフィはアリウスから聞かされていた。ミリィの殺害に加え、トールを利用して現国王であるガイウスを殺めようとしたのだ。その上、牢に入れられても一切反省の色が見えなかったと聞いている。生かしておけばまた何か問題を起こすと、誰もが考えた事だろう。死刑判決は順当な判断と言える。
他にも余罪はあったかもしれないが、こうなってしまっては調べる意味が無いな。
「本来は別の者が死刑を執行する予定だったが…あの男は死の際まで抵抗していたため、やむ無く私が手を下す事と相成った。」
大方、バンデンは固有魔法を使って執行人を無力化したのだろう。セラフィ曰く、バンデンの固有魔法は、行使者より魔力量の多い人間に干渉することができないそうだ。そのため、干渉を受けないガイウスが直接手を下す運びとなったようだが…バンデンの往生際の悪さは異常だな。
「そして、バンデンの固有魔法により記憶が改ざんされていた者たちについてだが、バンデンの死によって記憶が正常に戻ったことを確認した。ハロルドを筆頭とした魔力を持たない貴族たちから個別に聴取したが、全員バンデンに記憶を改ざんされ、家族を人質に取られていると思い込まされていたようだ。」
やはり、バンデンの死により記憶が元に戻ったか。
記憶を改ざんされていたとは言え、大罪人に協力していた事には変わりない。
お咎め無しと言うわけにもいかないだろうが…裁量が難しいところだな。
「また秘書のトールも同様に記憶を改ざんされていたが…彼はハロルドらのように脅迫されていたわけでは無く、自分の意思でバンデンに協力していたそうだ。」
トールは、彼が自身の両親を殺めた件で罪に問われた時、バンデンに救われて恩義を感じていると言っていた。てっきり、それはバンデンが植え付けた偽の記憶だと思っていたが…王宮に保管されていた議事録から、それは事実であると確認が取れた。
「この者らの処遇についてはもう少し話し合いの時間が必要なため、一旦保留とする。…最後に、バンデンの子息であるアスベストだが、慣例に従い、身分を剥奪して奴隷送りとした。」
大罪を犯した者の親族は、身分を剥奪されて奴隷商へ送られるそうだ。
ちなみに、バンデンの妻はアスベストを産んで直ぐに他界しているらしく、バンデンの親族はアスベストのみだ。
その妻の死因は聞いていないが…バンデンの仕業であってもおかしくないと思うのは俺だけだろうか。
「この件に関しては、後ほど国民に報せる事となる。それまでは口外しないように。」
ガイウスのその言葉に、貴族たちは頷いて応えていた。
俺とセラフィも同様に応えると、ガイウスも頷き言葉を続けた。
「…うむ。さて、辛気臭い話はこれで終わるとしよう。元よりこの場を設けたのは、此度の件で最も手柄を挙げた二人の賢者の弟子に褒美を取らせるためであるからな。…先ずは、国から褒美を渡そう。アリウス。」
「はい。」
俺は少し身構えながら、こちらに近付いてくるアリウスを見た。白竜の村からこの国へ帰る途中にアリウスからされた話を思い出したのだ。
「…こちらをお受け取り下さい。」
アリウスは、俺とセラフィに1枚ずつ紙を渡してきた。俺たちがそれを受け取ると、アリウスは少し身を引いて俺たちの傍で待機した。
俺は渡された紙面の内容を確認したが、どうやら俺たちの貨幣口座について書かれているようだ。
「君たちに報酬金を渡そうとしたが、金額が金額のため、勝手ながら口座開設の手続きを進めさせてもらった。その紙に魔力を流せば契約成立となり、その後手続きが完了次第、報酬金を振り込む予定だ。」
「…ありがたく頂戴致します。」
紙面には報酬金の額も書いてあったが…一軒家がそのまま買えそうな額だった。
この口座があれば、いつでも役所で引き出すことができるらしい。そしてその役所は、国として認められている地域には必ずあるため、現金を持ち歩かなくても旅をすることができる。
この後クォーツ王国へ行く俺たちにとっては都合が良い代物だ。
俺とセラフィはその紙に魔力を流すと、その紙が僅かに光を帯びた。
「お預かりします。」
契約が成立した事を察したアリウスは俺たちから契約書を預かり、再び俺たちの傍で待機した。
「それからもう1つ、何か望むものがあれば、私が出来うる限りで叶えよう。何でも言ってくれて構わない。」
「…──────。」
アリウスが小さな声で何か呟いたような気がするが…気にしないでおこう。
「…それでは、王宮の書庫にある本を数冊頂きたく。」
「私も、カリアと同じ物を望みます。」
「…ほぅ。それは全く構わないが…そんなもので良いのか?」
「はい。」
「遠慮は無用だぞ?」
「いえ…遠慮をしているわけではありません。自分たちはこれで十分だと思っております。」
「…そうか。数冊と言わず、好きなだけ持って行くと良い。」
「「ありがとうございます。」」
好きなだけとは言え、クォーツ王国への旅の友として持って行くため2,3冊で十分だろう。
「二人には、今後の活躍を大いに期待している。また国からの依頼として助力を求めることもあると思うが…その時は力を貸して欲しい。」
「お役立ちできることがあれば、喜んでお貸し致します。」
「ありがとう。…そう言えばこの後、友人とクォーツ王国へ発つと言っていたな。」
「はい。」
「…仮に、君たちが他国で何か問題に巻き込まれたとしても、ナイト王国が君たちの後ろ盾となる事を約束する。安心して旅を楽しんで来ると良い。」
「…ありがとうございます。」
恐らく、ガイウスもクォーツ王国を警戒しているのだろう。
問題に巻き込まれないよう務めるつもりだが、もしもの時は頼らせてもらおう。
「さて…アリウス、その書類を私に。」
「あ…はい。」
ガイウスは手を差し出しながら、俺たちがアリウスに渡した契約書を渡すように求めた。
そしてアリウスがガイウスの元へ行って契約書を渡した後、ガイウスは俺たちや貴族たちに聞こえるように言葉を発した。
「皆、本日は招集に応じてくれたことに感謝する。この場はこれで開きとしよう。…アリウス。」
「はい。」
「カリア君とセラフィ君を送って差し上げなさい。」
「…はい。」
アリウスは少し顔を曇らせながらそう返事をして、俺たちの元へ歩み寄って来た。
「行こ、二人とも。」
「あぁ。」
そうして俺たちは、ガイウスや周りの貴族たちに見送られながら王の間を後にした。
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「やぁ。皆揃ってるね。待ってたよ。」
「あれ…ヒスイ様。どうしてここに?」
「そう言えば、さっき王の間に居なかったな。」
「あぁうん、ちょっと研究室に行っててね。王宮に用があったから、来るついでに馬車を連れて来たよ。」
俺たちは王の間から出た後、書庫にロードとラピスを迎えに行った。
ついでにここ数日で見繕っていた褒美の本も回収して王宮から出ると、そこには賢者ヒスイが居た。その隣には、見覚えのある馬車がある。
「そうなのか。…グレースの馬車か?」
俺が操縦席を覗き込むと、そこには予想通りグレースが居た。
「おう、カリア君。」
「グレース、すまないな。こんな短期間に何度も頼んでしまって。」
「うちとしてはありがたい限りだぜ?もう依頼料も貰ってるからな。」
「…代金を払ってくれたのか?賢者ヒスイ。」
「白竜の村の件とか、諸々の対応に手を貸してくれたからね。私からのささやかな褒美だと思ってくれ。」
「…そういう事なら受け取っておく。」
「うん、そうしてくれ。…私はガイウスに会いに行ってくるよ。それじゃあ、旅を楽しんで来てくれ。」
「賢者ヒスイ。」
俺は、手を振りながら王宮へ向かって行く賢者ヒスイを呼び止めた。
「クォーツ王国で起きてる問題を解決するか否かは俺たちの判断に任せるって言ってたよな?」
「…あぁ。言ったね。」
「俺たちなら、その問題を解決できると思うか?」
「…さぁ、どうだろうね。でも、もし君たちがその問題を解決すると決めたなら…その時はごめんね。先に謝っておくよ。」
「…どういう事だ?」
賢者ヒスイは俺の問いには答えず、止めていた足を再び動かして王宮内へと入って行った。
「…やっぱり教えてくれないか。」
「ヒスイ様、何で教えてくれないのかな?」
「そういう類の隠し事は、今に始まった事じゃないだろ、ラピス。」
「まぁ…それもそうね。」
賢者ヒスイの隠し事については気にするだけ時間の無駄だ。考えを巡らせたとしても、本人が答えてくれないことには真実にたどり着けるはずが無い。
「そう言えばカリア君。賢者様からは4人を乗せるって聞いてたんだが…1人増えたか?」
「ん?いや、4人であってるぞ。」
「…グレースさん。私は今回同行しませんよ。」
「あぁ…そ、そうでしたかい。」
アリウスはロゼの世話等で白竜の村に向かわなければならないため、クォーツ王国への旅には不参加だ。
本当はアリウスも俺たちと一緒に旅をしたいと思っているらしいが、それが叶わないため気落ちしているようだ。
そのあからさまな態度に、グレースは返答に戸惑っていた。
「アリウス…お前、そんなに行きたかッたのか?」
「…それもあるけど、1ヶ月以上皆に会えないのが寂しいの。」
「1ヶ月程度で大袈裟だぜ。」
「女心がわかってないわねぇ、ロードは。」
「うん、わかってない。」
「…こりャあ分が悪ィな、カリア。」
「俺に振るな…。ほら、皆馬車に乗ってくれ。」
「はーい。じゃあ…またね、アリウス。」
「…うん。またね、ラピス」
「またな、アリウス。」
「うん、ロードもまたね。」
「またね、アリウス。アトラスとロゼによろしく伝えておいて。」
「うん、わかった。またね、セラフィ。」
各々そう言って、ラピスとロード、セラフィは先に馬車に乗り込んだ。
「…それじゃあ、行ってくる。」
「…ねぇカリア。」
「なんだ?」
「早く帰って来てよね。」
「それは向こうに着いてからの状況次第だな。」
「帰って来たら、旅のお話を聞かせてね。」
「あぁ、良いぞ。」
「…行ってらっしゃい。」
「…行ってくる。」
そうして俺も馬車に乗り込み、俺たちはアリウスに見送られながらクォーツ王国へと旅立った。




