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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
2章~白黒の番
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白黒の番39

更新かなり遅れました。すみません。

「トール…状況を理解してないのか!こいつらの魔法は封じておるのだぞ!」

「えぇ、理解してますよ。」

「では何故我々が敗北するのだ!貴様の身体能力をもってすれば、こんなヤツらなど敵では無いだろう?」

「まぁ落ち着いてくださいよ、バンデンさん。さっきも言いましたが、この作戦は失敗ですよ。カリアが居たんじゃあ俺は無力ですぜ。」


トールが作戦のことを口にするという事は、記憶の改ざんは解けていないと言う事だ。しかし、俺と戦った記憶は改ざんされていないらしい。

トールがセラフィと賢者ヒスイを助ける事は、バンデンを裏切る行為に他ならない。このタイミングでその行動に出たのは、もうバンデンが切れる手札が尽きたと確信しての事だろう。


「貴様が無力だと…?どういう事だ…!」

「…今と同じ状況で、カリアと交戦したことがあるんですよ。全く歯がたちませんでしたぜ。」

「…有り得ん!魔法使いなど、魔法を封じればただの人間だ!トール程の並外れた身体能力に、魔法無しで敵うはずがないだろう!」

「…そうは言われましてもね…事実なんですよ。」

「…っ!そもそも!それが本当なら何故その事を報告しなかったのだ!その情報があればもっと対策を──────」

「対策させないために黙ってたんですよ。あなたがカリアの力量を見誤っていれば、いつか尻尾を掴んで罪に問えると思ってましたが…こんなに早く実を結ぶとは思いませんでしたよ。」

「貴様…いつの間に懐柔されていたのか…!」

「…まぁ、そんなとこですね。俺はあなたの言うことが正しいと、自分に言い聞かせて今までついて行ってましたが…やっぱりあなたは間違ってる。…俺と一緒に、罰を受けましょうや。」

「…罰を受けるだと?ふざけた事を言うな!貴様がこうして居られるのは誰のおかげだと思っておる!私があの時貴様を庇わなければ、あの場で奴隷落ちだったのだぞ!私は!貴様の恩人のはずだ!罰を受けろなどと、恩を仇で返すつもりか!」


トールは実の両親を殺して罪に問われたが、バンデンがトールを庇って助けられたと言っていたな。

それもバンデンがトールの記憶を改ざんして作り上げた、偽の恩である可能性もある。


「…俺を拾ってくれた事には感謝してますよ。」

「なら、今その恩を返せ!こいつらを殺すのだ!」

「…はぁ。実際に見てもらった方が話は早ぇか。…わかりましたよ、バンデンさん。恩を返しますぜ。」

「…ふっ…はははは!そうだ!それで良いトール!こいつらを殺せば、後はどうとでもなる!」


トールは先程、俺に全く歯が立たないと言っていたはずだが…バンデンはその事を忘れているのか、それとも信じていないのか、勝利を確信しているように見える。

俺はセラフィたちをトールから守れる位置に移動しながら、トールに話しかけた。


「トール。ここで暴れても、お前の罪を重くするだけだ。馬鹿な真似はよせ。」

「…要らねぇよ、そんな気遣い。俺はバンデンさんと一緒に罰を受けるって決めてんだよ。」

「…お前なりの恩返しという事か。」

「そういう事だ。…一応、本気で行くからな?覚悟しとけよ。」

「…あぁ。要らないぞ、そんな気遣い。」

「…ふっ。そぉかよっ!」


トールは俺の言葉を鼻で笑い飛ばした瞬間、殺気を放ちながら駆け、俺との距離を急速に縮めて来た。

その最中、トールが暗器のナイフをその手に携えているのが見えた。

そのナイフで俺に切りかかって来ているが…トールの殺気がガイウスに向いているため、これは囮だ。

俺の予想通り、トールは俺の数メートル手前で床を蹴り、飛び上がってガイウスへと距離を詰めた。

しかしそれを読んでいた俺はトールと同じく床を蹴り、トールより早くガイウスの元に辿り着いた。


「早すぎだろ…!」


そして俺は拳を握りながら飛び出し、空中で冷や汗を流しているトールに殴り掛かった。

するとトールは防御を選択したのか、身をかがめて自身の前に両腕を交差させた。

俺はトールが交差させている腕の交点を殴ろうとした…が、トールは俺の拳が当たる直前に構えていた両腕を解き、空中で身をひねって俺の攻撃を寸でのところで躱した。


「…くっ!」


しかしかなり無理をしたのか、トールの態勢がかなり不安定になっている。

俺はトールに追い打ちをかけるために()()()()()()トールに飛び掛かった勢いを殺し、そのまま反転して再度トールに飛び掛かった。


「…はっ。お前…やってること出鱈目すぎだぜ…。」


俺がドラゴンだった頃からこういう芸当ができていたわけでは無い。

この身体に転生して魔法を使わない戦闘を経験するようになってから、身体の動かし方に新しい感覚を覚えるようになったのだ。

先程宙に着地したのも、その新しい感覚に身を任せて直感で身体を動かした結果だ。その原理は俺ですらわからないが、魔法でないことは確かだ。


「…正直、俺もそう思う。」


俺はそう言いながら右脚を上げ、トールの横腹にかかと落としを見舞った。


「…がはぁっ!」


トールはそのまま垂直落下して、床に激突した。

その瞬間、王の間が振動する程の衝撃が走り、トールを中心に床が大破してしまった。


「あ…。すまない…ガイウス。」

「…。」


俺はトールの傍に着地しながら、床を壊してしまったことをガイウスに謝った。

しかしガイウスは呆然としており、開いた口が塞がらないと言った様子だ。

それはガイウスだけではなく、俺とトールの攻防を見ていた全員も同じように口を開けていた。


「…トール。生きてるか?」

「…あぁ。何とかな。」

「まだやるか?」

「いやいや…もうお前とは二度と戦いたくねぇぜ。…それに、バンデンさんもこれで勝てねぇ事はわかっただろ…。…バンデンさん、どんな顔してんだろうな。」

「開いた口が塞がってないな。」

「はっ…見れねぇのが残念だぜ。…顔すら動かせねぇからよ…バンデンさんのこと…頼んで良いか?」

「あぁ。良いぞ。」


バンデンがガイウスを殺そうとしていたことは白日の元に晒された。これだけでも重罪は免れないだろう。

バンデンにこれ以上悪足掻きさせる必要も無いため、魔法封じの魔道具を取り上げて、大人しくしてもらうとしよう。

俺は尚も呆然としているバンデンに近づきながら話し掛けると、バンデンは怯えた様子で応えた。


「バンデン、お前の負けだ。魔道具を渡せ。」

「き…貴様は…固有魔法を使ったのか…?」

「無駄な言葉を交わすつもりは無い。魔道具を渡せ。」

「…ま…待て。そ、そうだ!私が王になったら貴様が欲しいものを何でもくれてやろう!私の仲間になれ!」

「…。」


呆れて物が言えないと言うのはこの事か。

もうこの男の声を聞くのも嫌になってきてしまった。


「…ガイウス。こいつ殴って良いか?」

「あ…あぁ。だが…殺しはしないでくれ。」

「わかってる。」

「待っ──────」


俺はバンデンの声が聞こえた瞬間、握った拳をその顔面に叩き付けた。

バンデンは仰け反りながら意識と身体を飛ばし、無抵抗のまま床に転がって行った。


「ふぅ…最初からこうしておけば良かったな。」


俺はそう言いながら、身体強化魔法が使えるかどうか試してみた。

バンデンの意識が刈り取られた事で魔道具への魔力供給は絶たれたのか、ちゃんと魔法を使えるようになっていた。


「…よし。皆、これで魔法が使えるようになったぞ。」

「…そのようだな。カリア君、君が居てくれて助かったよ。…本当に…何と礼を言ったら良いか…。」

「礼を言うにはまだ早いんじゃないか?この男の処分が終わるまで、気を抜かない方が良い。」

「…そうだな。とは言え、大義であった。後日、改めて褒美も与えねばな。何か欲しいものを考えておいてくれ。セラフィ君もだ。」

「うん。」

「わかった。」

「さて…アリウス。王宮の使用人と騎士を集めて来てくれるか?この状況の始末をするのに人手が必要だ。」

「は…はい。わかりました。」


そう返事をしたアリウスは、王の間の出入口へ走りながら俺に話しかけて来た。


「カリア!さっきの魔法みたいなやつ、後で詳しく教えてよね!」

「魔法みたいなやつ…?あぁ…あれのことか。」

「約束よ!」


アリウスは王の間の扉を開きながら、一方的に約束を取り付けて出て行ってしまった。

詳しくと言っても、大して話す事は無いんだがな。


「ねぇ、カリア。さっき空中でやった事…あれは何?」

「私も詳しく聞きたいな。空中に着地してるように見えたけれど…そう言う固有魔法なのかな?」


アリウスと同様、セラフィと賢者ヒスイも興味を持ったようで、俺に近付きながら回答を迫って来た。


「…セラフィならわかると思うけど、あれは魔法じゃない。」

「うん。魔力は一切使ってなかったからそれはわかる。…でも、魔法じゃないなら何?」

「…正直、俺も良く分からないんだ。直感で動いてたからな。」

「もう一度、同じ事はできるかい?」

「あぁ…できると思うぞ。…ほら。」


俺は少し飛び上がり、宙に不可視の踏み場があるかの如く、その場に立って見せた。

しかしこれは短時間しか機能しないようで、その不可視の踏み場はすぐに無くなり、俺は床に着地した。


「…うん。やっぱり魔力は使ってない。」

「へぇ…興味深いね。ドラゴンだった頃からできたわけじゃないんだろう?」

「あぁ、そうだ。この身体に転生してからできるようになったから…俺の器の素材となったユーベルトの力かも知れないな。」

「あぁ…どうだろうね。」

「ユーベルトやオリファーから何か聞いてないのか?」

「…うん。私から聞いておいて何だけど、この話はここまでにしておこう。うっかり2人のことを話しちゃいそうだ。」


話の流れで聞き出そうとしてみたが、流石にこれ以上は聞けないか。

だがこれは、十中八九ユーベルトの力と見て良いだろう。俺とセラフィの素体となった2人の過去は気になるところだが、それは紫竜と会えた時の話の種にするとしよう。


その後、アリウスが呼んで来た使用人や騎士たちの手によって貴族たちが運び出された。

ハロルドら魔力無しの貴族たちやトール、アスベスト、バンデンは拘束されて、しばらく牢に入れられるそうだ。

余談だが、バンデンを拘束する際に身ぐるみを剥がすと、魔法封じの魔道具(やはり指輪の形だった)は足の指に付けて隠していた。何とも用心深い男だ。

トールが賊に渡していた指輪は俺とセラフィの固有魔法で消滅させたため、予備としてもう一つ持っていたのだろう。


斯くして、俺とセラフィの賢者の弟子としての依頼は一件落着となった。

もう少し落ち着いたら、ロードとラピスを連れてクォーツ王国へ向かうとしよう。



これで一応2章完結です。

更新ペースは不規則になるかもしれませんが、最後までお付き合い頂けると幸いです。

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