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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
2章~白黒の番
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白黒の番37

仕事が忙しく、更新が遅れました。すみません。

王の間に向かう途中、ガイウスの足取りが少し覚束無いように見えたため、俺はガイウスに話し掛けた。


「ガイウス。国に帰って来てから1度でも休んだか?」

「いや、この子は休んでないよ。ずっと裁判の準備に勤しんでいたからね。」

「…疲れているように見えたか。」

「あぁ、見えた。実際疲れてるだろう。大丈夫なのか?」

「問題ない。最近は控えていたが、一日二日程度なら徹夜で仕事をすることも多々あった。この手の疲労には慣れている。」

「父様ったら、そのせいで何度か体調を崩してたの。王事が忙しいのはわかるけど…父様。もっと身体を労わって下さいね?」

「…あぁ。どちらにせよ、この件が片付かねば気兼ねなく休むことはできない。これが終わったらしっかり休むし、仕事も程々にすると約束する。」

「…それならいいですけど。」


確かに、ミリィの仇を野放しにしたままでは心が休まることはなさそうだ。

それはガイウスだけでなく、アリウスにも言えることだと思うが…アリウスはいつも通りだな。

そう思いながらアリウスに視線を向けていると、アリウスがそれに気づいたようだ。


「…何、カリア?」

「いや、アリウスもガイウスが言ってたように気が休まってないんじゃないかと思ってたけど、いつも通りみたいだな。」

「いつも通りに見える?」

「…見えるな。」

「…ふーん。」


そう言って、アリウスはそっぽを向いてしまった。…怒らせてしまったようだ。

何故怒らせてしまったのか考えていると、隣で歩いてるセラフィが俺の横腹を小突いてきた。


「…なんだ?」

「…全然いつも通りじゃない。」

「あぁ…そうなのか。」


アリウスは平静を装っているということか。

それは見抜けなかったが、それで何故アリウスは怒っているのだろうか。

再び思考を巡らせながら歩いていると、俺たちは王の間に続く扉の前に着いた。

その扉の両脇には騎士が一人ずつ立っており、ガイウスが騎士の一人に話し掛けた。


「皆集まったか?」

「はい。準備は全て整っております。」

「ご苦労。扉を開けてくれ。」

「「はっ!」」


溌剌と返事をした二人の騎士は両開きの扉の取っ手にそれぞれ手をかけ、同時に扉を開いた。

扉の先には床に敷かれた赤い絨毯が玉座まで続いており、その両脇には貴族たちが並んでいた。

俺たちがガイウスを先頭にして王の間へ入ると、両脇に居た貴族たちが一斉に片膝をつき、頭を下げ始めた。その数は、俺とセラフィが初めて式典に出た時以上のように見える。

横目でバンデンを探しながら歩いていると、賢者ヒスイが歩く速度を落とし、玉座の少し手前で歩みを止めた。賢者ヒスイはそのまま床に片膝をついたため、式典での状況と同じことに気付いた俺とセラフィは、賢者ヒスイに倣って片膝をつき頭を下げた。

ガイウスは玉座に座り、アリウスが玉座の傍に位置取ったことを確認してから声を発した。


「面をあげよ。」


その一言で俺たちや貴族たちは顔を上げ、その場に立ち上がった。

その時、俺は玉座から最も近い位置にバンデンの姿を捉えた。その後ろで、トールとアスベストが控えているのも確認できた。


「まずは緊急招集に応じてくれた事に感謝する。」


ガイウスは軽く頭を下げ、言葉を続けた。


「さて…この度皆には、賢者の弟子の二人が極秘の依頼を完遂し、更に多大なる功績を挙げたため、その内容を公開する…と言う口実で集まってもらった。」


ガイウスの言い回しが気になったのか、貴族たちが少しざわつき始めた。

ガイウスは、そのざわつきを押さえ付けるように言葉を続けた。


「口実とは言え、二人の功績を公開することに違いは無い。しかし、それは二人の功績を称えるものではなく、罪人を裁くためのものになる。」


ガイウスのその言葉に、貴族たちのざわつきは更に増して行った。

バンデンの様子を確認すると、険しい眼差しでガイウスを見ており、今にも食ってかかりそうな状態だった。

その後ろに控えているアスベストはオロオロと落ち着かない様子だったが、トールは俺に怪訝な視線を送っていた。

俺はトールと目を合わせ頷いて見せると、納得したような表情になり、少し笑っているように見えた。


「静まれ。」


騒ぎが落ち着くのを待っていたガイウスは収拾がつかないと判断したのか、皆に静かにするよう求めた。

そしてその一言で、嘘のように場が静まり返った。


「心当たりがあるのかはわからないが…顔に出ているぞ、バンデン。」

「…!」


ガイウスはバンデンに向かって手の平を突き出すと、バンデンとトール、アスベストを囲むように床が光り出した。恐らく結界魔法を使って、逃げられないように捕らえたのだろう。


「結界魔法…?これは一体どう言う事ですかな?」

「バンデン。貴様が被告人だと言うことだ。」

「…はっ。何を仰いますか。何を証拠にこんな横暴を───」

「証拠を見せた後に、そのシラを切り通せるのか楽しみだ。貴様は黙って見ていろ。さもなくばその舌を切り飛ばす。」

「…っ。」


貴族たちはガイウスの怒りを感じ取ったのか、先程のようなざわつきは一切無くなった。


「…皆に証拠を見せる前に、少し前情報を話すとしよう。」


ガイウスは、俺たち賢者の弟子に白竜の村の調査を依頼していたこと。病に伏していたと偽り、ガイウス自身も白竜の村へ行っていたこと。そこでガイウスは白竜に会い、最終的に『竜の涙』を持って帰って来たことを話した。


「ここに居るものらは、全員『竜の涙』について知っているはずだ。…そして私の妻が死んだ理由も、知っているな?」

「…っ!」


ガイウスはバンデンに目を向けながらそう言うと、バンデンは苦虫を噛み潰したような顔付きになった。

白竜が遺した『竜の涙』の存在。そしてバンデンが罪人であること。それらの情報は、ガイウスの妻の死因を知っている者にとって、答えに辿り着くには十分な材料だったようだ。


「これより、我が妻ミリィの死の真相を…18年前の出来事を皆に見せる。心して見よ。」


そしてガイウスは、セラフィに指示して『竜の涙』を操作させ、王の間に居る全員に当時の出来事を見せた。


────────────────────────────────────


記憶の再現が始まった直後こそ貴族たち視線は錯綜していたが、その内落ち着きを取り戻し、皆食い入るように見ていた。

俺はバンデンが何か行動を起こさないか見張っていたが、バンデンは記憶の再現などそっちのけで俯いており、何か考え事をしているようだった。

記憶の再現の中で、バンデンが護衛の騎士二人を殺害した場面が流れて以降、アスベストは耳や目を塞いで座り込み、トールは両手で頭を抱えて苦しんでいた。

バンデンが記憶の中で言っていた通り、トールは致命的な矛盾を知ったことで、記憶が戻って来ているのだろう。

バンデンはそれを一瞥したものの、結局最後まで静観を貫いた。

そのまま記憶の再現は、バンデンがミリィを殺害したところで打ち切られ、周りの風景が王の間のそれに戻って来た。

真実を知った貴族たちは動揺しており、騒然とした雰囲気が漂っている。


「セラフィ君、ありがとう。さて…皆が見た通り、これが事の真相だ。」


ガイウスはセラフィにひとこと礼を言った後、貴族たちの注目を集めるように声を発した。


「念のため、確認を取っておこう。…トール君、記憶が戻ったのではないか?」

「…はい。戻りました。」

「この『竜の涙』で再現された記憶は事実だな?」

「…はい。事実です。」

「くっ…トール!貴様───」

「バンデン。貴様に発言を許した覚えはないが?」

「…。」


バンデンはガイウスを一瞬睨みつけた後、対面に居る貴族の一人に視線を移した。

その貴族はバンデンと目を合わせた途端、額に汗をにじませていた。


「へ…陛下。発言を…お許しください。」

「…ハロルドか。許そう、話せ。」

「はっ…。『竜の涙』は…白竜のものと伺いました。しかし…私が見た限りでは、白竜をお見受けできない場面も、あったように…思います…。先ほど見た記憶は…本当に白竜の記憶なのでしょうか。」

「白竜は、竜の巫女であるミリィと契約魔法で繋がっていたのだ。白竜はミリィの五感を、いつでも共有することができた。」

「…そんな…都合の良いことがあるのですか?」

「疑うのも無理はないが…やけにバンデンの肩を持つのだな?…周りを見てみろ。」


貴族のほとんどはガイウスに信を置いているため、こうした場が開かれた時点でバンデンが有罪であることを確信しているようだ。

ハロルドのように、バンデンを庇うような疑問を呈する人間は愚かに見えることだろう。

ハロルドは周りを見渡すと、冷ややかな視線が注がれていることに気が付いたようだ。


「い…いえ…わ…私は、その、疑問に思っただけで…。」

「バンデンに弱みでも握られているのか?」

「そ…っそんなことは…。」

「ハロルド。お前は魔力を持っていなかったな?」

「…は…い。それが…なにか…?」

「お前は記憶を改ざんされている可能性がある。偽りの記憶を植え付けられ、それに付け込んで脅されているのかもしれない。」

「…!そ、それは本当ですか!」

「まだ確定ではないが、可能性は高いと睨んでいる。記憶が改ざんされているか否かは、現時点で判断することができない。そのため…以降は魔力を持たない貴族は発言を禁止とする。」

「…。」


それを聞いたハロルドは、呆然とした様子で俯いていた。


「…はぁ。使えん奴だ。」


ハロルドの様子を見ていたバンデンはため息を吐き、ハロルドを切り捨てるようにそう呟いた。

その声は、ガイウスにも聞こえていたようだ。


「…バンデン。開き直ったか。」

「…うるさい奴だ。相変わらず貴様は私の邪魔ばかりしよって…。」

「認めるのだな?私の妻を…ミリィを殺したことを。」

「認める必要があるのか?私が何を言ったところで、貴様は私を罪人に仕立て上げるだろう。」


この状況でそんな太々しい態度を取れるのは、流石としか言いようがない。


「…父様、発言をお許し下さい。」

「…あぁ。」


発言を許されたアリウスが少し前に歩み出て、言葉を続けた。


「バンデン・ブライデ。あなたは王になるために、母様を殺したそうですね。…本当に、そんなことのために母様を殺したのですか?」

「…そんなことのためだと?貴様はまるでわかっておらん!創造神様から与えられた使命が!この世で何よりも重要なのだ!」


バンデンは、血相を変えてアリウスに食って掛かった。

創造神から与えられた使命とやらを、そんなこと呼ばわりされたことが余程気に食わなかったらしい。

バンデンの勢いに怯んだアリウスを横目に、賢者ヒスイがガイウスに話しかけた。


「陛下。発言の許可を。」

「許可する。」

「ありがとうございます。…バンデン。君は随分熱心な創造神教徒みたいだね。」

「あんな紛い物と私を!一緒にするでない!」

「…紛い物ね。君は本物だとでもいうのかい?」

「そうだ!私は創造神様に会ったことがあるのだからな!」

「…創造神に、会ったことがある?」

「信じられんか?だが!事実だ!私はあの方にお会いして、使命と共に特別な力を賜ったのだ!」

「…いいや。信じるよ。」


賢者ヒスイは顔を曇らせながらそう言って、更に言葉を続けた。


「…少し変なことを聞くが…バンデン。君の本当の名は何だ?」



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