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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
2章~白黒の番
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白黒の番34

俺たちは月明かりが照らす夜の中、イルミナスたちのいる村までアトラスに送ってもらっていた。


「翼の調子はどうだ?」

「すこぶる良いぞ。お主には感謝しておる。」

「別に構わねェよ。」


シャルの記憶を見終わった後、もう片翼を治癒してもらったアトラスは機嫌が良さそうな声色でロードに感謝していた。


「これで、ロゼに翼の使い方を教えてやることができる。」

「ガァウ。」


草原にロゼだけ置いて行くわけにもいかず、今回はロゼも一緒に乗せて来ている。

その分前足の乗り場が手狭になったため、俺だけアトラスの頭の上に乗せてもらっている。


「アトラス。」

「何だ。」

「俺たちがお前の翼を折ったこと、すまなかったな。」

「今更だな。と言うか、そんな上辺だけの謝罪など不要だ。」

「よくわかったな。」

「そんな感情のない謝罪をしておいて、隠す気など無かっただろう。」

「まぁ、形だけでも謝っておこうと思っただけなのは確かだな。」

「そもそも、お主らが謝る必要は無い。お主らの目的とワシの目的が衝突した結果、お主らが勝っただけの話だ。翼もこうして治ったのだ。これ以上、ワシが望むことは無い。」

「…そうか。じゃあそう言うことにしておこう。ついでにもう一つ、聞きたいことがある。」

「…何だ。」

「西の大国に行ったことはあるか?」

「西に大国などあったか?」

「あぁ…ここ20年で急激に栄えてきたらしい。その反応を見るに、行ったことは無さそうだな。」

「そのようだ。その国がどうかしたのか?」

「いや…もしかしたらそこに紫竜が居るかもしれないんだ。紫竜について何か情報を持ってないかと思ってな。」

「…お主、セラフィと言うものがありながら──────」

「紫竜に恋慕を抱いてるわけじゃないからな?…ここへ来る前に、紫竜の固有魔法を模した魔道具の存在を知ったんだ。」

「それは…確かなのか?」

「俺もセラフィも確認している。」

「なるほど、それは気にもなるか。…すまんが、ワシは何も知らんな。最後に会ったのが何年前かすら覚えておらん。」

「そうか。まぁそのうち行ってみるとするか…。」

「…紫竜についてもそうだが、緑竜や黄竜とも久しく会っておらんな。」

「確かに、俺も会ってないな。どこか永住の地を見つけたんじゃないか?」

「あヤツらならそれも有り得るな。…そろそろ降りるぞ。」

「あぁ、頼む。」


話している内に、目的地に到着したようだ。

アトラスは高度を下げて村の入口前に降り立ち、俺たちは各々礼を言いながら地に足を降ろした。


「アトラスさん、ありがとうございます。近い内にお手伝いに来ますので、少しだけ待っていて下さい。」

「そんなに急がずとも、お主の国でやることが落ち着いた後で良い。それとアリウス。一つ頼まれて欲しいのだが…できることなら、言葉の習得に役立ちそうな本などを持って来てもらえるとありがたい。」

「はい!お易い御用です!」

「うむ。では、ワシらは戻るとしよう。」

「はい。今日はありがとうございました。…ロゼもまたね。また会いに来るから。」

「ガァウ。」


アリウスの別れの言葉を聞き届けたアトラスは、翼を広げて草原の方へ飛び去って行った。

それを見送ったガイウスは、アトラスたちが見えなくなった頃、その方に向かって一人頭を下げていた。

程なくすると、村の入口前で見張りをしていたイカロスが迎えにやって来た。


「…皆様、お帰りなさいませ。」

「イカロス。出迎えご苦労。」

「いえ、とんでもございません。…陛下におかれましては、ご無事で何よりです。」

「…あぁ。色々とあったが、それだけ得たものも多い1日となった。…さて、皆に少し相談がある。」


ガイウスは一呼吸置いて、俺たちに話しかけて来た。


「…今日、このままナイト王国へ発ちたいと思っている。皆疲れているのは承知の上だが…早急にあの男を裁かねば、何を仕出かすかわからん。もちろん無理に付いてくる必要は無い。しかし、最低でも私とアリウス…護衛としてカリア君かセラフィ君だけでも連れて発ちたい。残った者については、後日この村に馬車を寄越して連れ帰ってもらう。」

「…私も、父様の提案に同意します。」

「ありがとう、アリウス。他の皆はどうだろうか。」

「俺も別にいいぞ。」

「私も大丈夫。」

「私も大丈夫!」

「俺も平気だ。」

「…皆行けるみたいだな。でも、御者のグレースは大丈夫なのか?こんな時間から馬車を出してくれるものなのか?」

「それについては問題無い。夜中の移動は報酬金額を上乗せする必要があるだけだからな。」

「…そうか。じゃあグレースには俺たちから話をしておくよ。ガイウスとアリウスは、村長に話をつけて来ると良い。」

「…そうさせてもらおう。イカロス。村長は家に居るか?」

「は…はい。」

「御者のグレースは宿か?」

「はい。」

「それでは各々準備を済ませ次第、村の入口前に集まるように。」


こうして、ガイウスとアリウスはイカロスの案内の元、イルミナスの家へ向かって行った。

俺たちも宿へ向かい、グレースに事情を説明すると

快く出立を受け入れてくれた。

その後、1時間もしない内に準備を整えた俺たちは村の入口前に集まり、イルミナスとゾル爺、ワーグ、イカロスが見送りに来ていた。

馬車もすぐそばに待機させており、いつでも出発できる状態だ。


「…皆、気を付けて帰るんだよ。」

「はい、おばあ様。お世話になりました。また近い内に伺う予定なので、その時はよろしくお願いします。」

「えぇ、いつでも歓迎だよ。…ガイウス。」

「…はい。」

「あなたも国王の仕事で忙しいかもしれないけれど、たまには顔を見せに来るんだよ。」

「…はい。今回は出立が慌ただしくなってしまいましたが、次回は時間にゆとりを持って伺いたいと思います。」

「そうしておくれ。慌ただしいのはあまり好きじゃないのさ。」

「…すみません。…この度は、私とこの子たちが大変お世話になりました。」


ガイウスの礼に合わせて、俺たちも頭を下げた。


「…急いでるんだろう?早く行きな。」

「…ありがとうございます。皆、馬車に乗ろう。」


俺たちがガイウスに促されて馬車に乗り込んでいると、ゾル爺から声がかかった。


「賢者の館の子らも、たまには顔見せとくれ!」

「あぁ。そのうち俺たちもまた来る。それまで元気でな、ゾル爺。」


アトラスやロゼの様子も気になることだし、また顔を出すこともあるだろう。


「おうよ!ヘスタによろしくな!」

「あぁ。」


俺はゾル爺に手を振りながら馬車に乗り込んだ。

どうやら俺が最後の搭乗者のようだ。


「全員乗ったか?」

「俺で最後だ、グレース。出発してくれ。」

「了解だ。それじゃあ出発するぞ。」


そうして俺たちは夜闇の中、馬車に吊るされた光源を頼りにナイト王国への帰路についた。


────────────────────────────────────


ナイト王国への帰路の途中、グレースが馬車を減速させ始めた。

やがて馬車は静かに止まり、外で物音が聞こえて来たため小声でグレースに話しかけた。


「休憩か?」

「ん?あぁカリア君。起こしちまったか?」

「いや、元々寝てないから大丈夫だ。俺も少し外に出るよ。」


馬車の中では俺以外眠ってしまったようだ。

セラフィは『竜の涙』を操作していたこともあり、疲れていたのだろう。

他の皆も疲れていることは言うまでもない。

グレースが休憩に入ったと言うことは、しばらく時間があるはずだ。俺も馬車の外に出て、用件を済ませることにしよう。

馬車の外に出た俺は、馬車から少しだけ離れた所で魔道具を起動させた。


『…もしもし?カリア?』

「…もしもし。こちらは聞こえているぞ、賢者ヒスイ。」

『うん。こっちも聞こえているよ。どうしたんだい?こんな夜中に。』

「起こしたならすまない。今、馬車でナイト王国に帰っている途中なんだ。」

『元々起きてたから大丈夫だよ。…て言うか、こんな時間に帰ってるんだ。皆一緒かい?』

「あぁ、全員で帰ってる。」

『…そう。急いでるみたいだけど、何かあったのかい?』

「…実はな──────」


俺は賢者ヒスイに、『竜の涙』のことや、ミリィの死の真相について話した。


『…なるほど。それは急ぎたくもなるわけだ…。』

「そう言うわけだから、日付を跨いで王国に着くことになる。連絡だけしておいた方が良いと思ってな。」

『うん。連絡ありがとう。…白竜の村の件については、色々と押し付けてすまないね。』

「いや、俺としてもシャ…白竜や黒竜と会えて良かったと思ってる。セラフィもそう思ってるはずだ。」

『…それなら良かったよ。』

「詳しい報告はガイウスから聞いてくれ。…それと、一つ聞きたいことがあるんだ。」

『何でも聞いてくれていいよ。』

「紫竜の固有魔法を模した魔道具の存在を知ってるか?」

『…あぁ。知ってるよ。それについては私の方でも調査してるんだけど、詳しいことはわかってないんだ。違法な商いの総称で、闇市と言う場所があるのを知ってるかな。そこで出品されてるらしいんだけど、製造元が不明なんだ。』

「…製造元が不明?スティブ王国以外考えられないと思うけどな。」

『ん〜…。私も現地で調査したんだけどね。魔法が封じられてると動きにくいことこの上ないんだよね。固有魔法も感知されてるみたいだから、瞬間移動魔法が1度使えるだけだし…。』

「…それでロードを連れてきたんだな。」

『その通りだ。まぁこっちでも引き続き調べてみるよ。』

「あぁ。俺たちも手を貸せることがあれば言ってくれ。」

『助かるよ。聞きたいことはそれだけかい?』

「それだけだ。ありがとう、賢者ヒスイ。」

『こっちこそ、連絡ありがとう。到着を待ってるよ。』


俺はその言葉を聞き届けた後、魔道具に流していた魔力を断ち、通話を終わらせた。


「何話してたの?」

「途中から聞いてただろ、アリウス。」

「ちょっとは驚いたフリしてくれてもいいんだよ?」

「俺はその手の演技が下手なんだよ。」

「ん〜確かにそうかも。」

「…起こしてすまないな。これからまた忙しくなるんだろ?もう少し寝てていいぞ。」

「ううん。目が覚めちゃったし、ちょっとカリアと話がしたかったから。」

「話?」

「うん…。『竜の涙』で、あの男…バンデンを確実に裁くことができるじゃない?その功績は、ほとんどカリアとセラフィのものよ。」

「そうなるのか。」

「当然よ。…父様は多分、その褒美をカリアたちに取らせると思うの。」

「褒美か。何がもらえるんだ?」

「…例えばだけど…私、とか。」

「…それは、アリウスを嫁にすると言うことか?」

「…うん。」

「ガイウスがそんな事するわけないだろ。」

「たっ…例えば!例えばの話よ!もし父様にそう言われたら、カリアはどうする…?」

「…そうだな…。」


俺は考える振りをして空を見上げた。

そこには雲一つない夜空の中に輝く点が散りばめられており、幻想的な景色が広がっていた。

綺麗だなと、そんな事しか考えることができない自分に、少し驚いていた。

しばらくそうしていると、沈黙に耐えられなくなったアリウスが口を開いた。


「…やっぱり…カリアは元々ドラゴンだから、普通の人間と結婚なんてできない…?」

「あぁいや…全く想像できないんだ。俺が誰かと結婚する未来が。」

「…結婚願望が無いってこと?」

「…俺は、やりたいことを見つけるためにここに居るんだ。それがまだ見つかってないのに、誰かと結婚なんてできないと思ってる。」

「…そっか。じゃあ早く見つけてよ、やりたいこと。」

「急かされて見つかるなら、もう既に見つけてるだろうな。こういうのはのんびり探した方が見つけ易いらしいぞ。」

「…私、結構勇気出したんだけどな。私が言いたいこと、気付いてるでしょ?」


もちろん気付いてる…が、俺は気付かないフリをすることにした。


「…さぁ、何の話だ?…もうそろそろ出発するみたいだぞ。」


そう言って俺が馬車の方へ歩みを進めると、グレースが馬車の陰から顔を出した。


「カリア君、休憩は終わっ…おや?アリウス様も目が覚めましたかい。」

「え?あぁ…はい。」

「そろそろ出発しますが、良いですかい?」

「…はい、大丈夫です。」


タイミング良くグレースが呼びに来てくれて助かったと思う反面、アリウスに対しては罪悪感を覚えた。

俺はアリウスに続いて馬車に乗り、ガイウス以外の3人を見遣ったが…やはり寝たフリをしているな。

この3人が馬車の中で、先程の会話を聞いていたことはわかっている。

俺がアリウスの好意に気付かないフリをしたのは…この3人に、俺がアリウスの好意に気付いたと知れれば後で面倒になるのは目に見えているからだ。

寝たフリを指摘したいところだが…アリウスの面目が立たなくなるかもしれないため、静観に留めておこう。

ガイウスに聞かれなかったことが不幸中の幸いだと自分に言い聞かせながら、俺たちは馬車に揺られてナイト王国へ向かった。


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