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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
2章~白黒の番
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白黒の番32

俺たちは再び、空へ飛び立ったシャルに付いて行く形となった。

ミリィの死についてはこれで一通り明らかとなり、アリウスが知りたいことは殆ど知ることができただろう。


「アリウス…。」


ミリィの死を見届けた後、アリウスより早く立ち直ったガイウスは、アリウスを宥めに向かった。

その顔付きは、心做しか覚悟が決まったように見える。過去に囚われた自分を乗り越えるきっかけを掴めたのかもしれないな。


「…アリウス。ミリィに会えて良かったか?」

「…はい、良かったです。知りたいことも、知ることができました。…でも、母様がこんなに綺麗な方だとは思いませんでした。」

「…人からミリィの話を聞くと、活発な性格の印象が強いからな。想像できないのも無理はないが…お前は本当にミリィに似てしまったな。」

「それは嬉しいのですが…父様はあまり嬉しくなさそうに見えます。」

「似ているのは容姿だけの話では無い。活発な性格も瓜二つだ。」

「…そんなに活発ではないと思いますけど…。」

「無断でカリア君たちに付いて行った身で何を言うか…。父親としては、もう少し大人しくして欲しいものだ。」

「…だって、父様に言っても素直に行かせてくれないじゃないですか。」

「それは…いや、この話は後にしよう。…そろそろ落ち着いたか?」

「あ…はい。落ち着きました。」

「では…カリア君たちの元に戻るとしよう。」


ガイウスは落ち着きを取り戻したアリウスを連れて、俺たちの元に戻って来た。


「セラフィ君、ありがとう。」

「私からもお礼を言うわ。ありがとう、セラフィ。…母様に、会わせてくれて。」

「…ううん。私じゃなくて、シャルに礼を言うべきだと思う。」

「うん。シャルさんにも、後でお礼をするつもりだよ。」

「そうだな。後日、改めて礼をしに来るとしよう。…ところで。」


ガイウスはシャルが向かっている先を見ながら目を細め、言葉を続けた。


「…この先で、過去の私と会うことになる。」


ガイウスはそれだけ言って、アトラスを見遣った。

過去の自分が、シャルを手に掛けるのを見るつもりなのかと、アトラスに問いかけているように見えた。


「…アトラスが、この先も見せて欲しいって言ってる。」

「…わかった。」


ガイウスは一瞬目を丸くしたが、直ぐに元の顔に戻り、シャルの向かう先に再び目を向けた。


────────────────────────────────────


『あれは…!』


ややあって、シャルが何かに気付いて高度を下げ始めた。

肉眼で捉えるまでも無いが、シャルの目線の先には、ガイウスと賢者ヒスイが居た。

賢者ヒスイの容姿に変わりはないが、約20年前のガイウスは…当然だが、かなり若返っていた。

というか、別人のようだった。


「…父様、20年で随分変わられましたね…。」

「いや…20年も経てばこんなものだろう。」


ガイウスに関しては心に負荷を抱えた時間が長かったこともあり、それが身体に影響を与えているのかもしれない。

そう考えている間にシャルは二人の前に降り立ち、前足に抱えていたミリィと赤子を、ガイウスの前に差し出した。


『…ミリィと、その赤子よ。』


ガイウスは差し出されたものに向かって、恐る恐る歩みを進めた。


『…ミリィ?なぁ、起きれくれよ…。』

『この子は…もう…。』


ガイウスは信じられないものを見るような目でミリィを見ており、まともに話を聞けるような精神状態でないことは火を見るより明らかだった。


『ガイウス…ミリィから伝言があるの。…話を…聞いてちょうだい。』


それでもシャルはミリィからの伝言を伝えようと、ガイウスに話しかけた。

しかしガイウスの耳に届いていないのか、手を震わせながらミリィの手を握り頬に触れるばかりで、シャルの言葉には無反応だった。


「…この時、シャルは私に伝言を伝えようとしていたのだな。動揺していたとは言え…全く気が付かなかった…。」


本人は動揺という言葉で片付けたが、そんな言葉に収まる程生ぬるいものではなかったはずだ。

そんなガイウスの状態を見兼ねた賢者ヒスイが、ガイウスの肩を揺すりながら話しかけた。


『…ガイウス、今は帰ろう。私の瞬間移動魔法で館に送る。』


それでようやく、我に返ったガイウスから反応が返ってきた。


『…先に…行っててください。』

『今の君を置いてくわけには──────』

『一人にさせてくれ!!!』


ガイウスは、肩に置かれた賢者ヒスイの手を振り払い、その場に膝を付いて項垂れてしまった。


『…わかった。絶対に帰って来ると…約束してくれ。』


ガイウスは、その言葉に応えたのかどうかもわからない程小さく頷いた。

それを見届けた賢者ヒスイは、ミリィと赤子を軽々と抱え上げ、そのまま瞬間移動魔法を使って消えていった。


『…ガイウス。ミリィから──────』

『なぜだ…なぜ!どうして!ミリィの命を奪った!』

『なっ…!』

『これがお前と巫女の契約か!ミリィの寿命を!奪ったのか!』

『…っ。』


表向きの契約内容として、それは合っている。

しかし、実際の契約内容は違うことを説明する余裕が、シャルには無かったようだ。

シャルはバツが悪そうに、ガイウスから目を背けた。

事情を知らないガイウスであれば、それを肯定と捉えても仕方がないだろう。


『どうしてっ…!どうして私から!大切なものを…!』


ガイウスは頭を抱え、自らの呪われた人生を嘆きながら、魔法を構築していた。


『…違うの。話を聞いて──────』

『黙れええぇぇぇ!!!!』


ガイウスは右手を前に突き出し、構築していた魔法──────対竜魔法を放った。

その光線はシャルの胴体を穿ち、それを見届けたガイウスはその場に倒れ伏した。


「…なるほど。わざと受けたということか。」

「そうみたいだな。」


俺とセラフィは頷き、アトラスの言葉に同意した。

あのシャルが、目の前で魔法を構築している相手に後れを取ることは無い。

ガイウスの放った光線に穿たれるその瞬間まで、シャルは避ける素振りを一切見せなかったし、魔法障壁も使わなかった。敢えて攻撃を受けたのは確実だ。


「…普通、人間が一人で放つ魔法など、ドラゴンにとっては恐れる必要が無い。それで、避ける必要も無かったということか。」

「ううん…ガイウス。シャルはそんな気持ちで攻撃を受けたわけじゃないと思う。」

「…どういうことだ。」


ガイウスに聞き返されたセラフィは何も答えず、ただシャルを見つめるばかりだった。


『…ガイウス。ごめんなさい…。ミリィを…守れなくて…。』


光線に穿たれたシャルは血反吐を吐きながらそう呟き、ガイウスに謝罪した。

そして続けざまに、ミリィにも謝罪の言葉を呟いた。


『ミリィ…ごめんなさい。あなたの伝言を…伝えることができなかった…。ここで私も死ぬから…あなたたちへの罪滅ぼしを…させてちょうだい…。どうか…許して…。』


その口ぶりは、最初から死を以て償おうとしていたようなものだった。


「…ガイウス。あなたはシャルの前で魔法を構築してたから…対竜魔法のことは知らなくても、シャルならそれが自分を死に至らしめる魔法だということはわかるはずなの。」

「…それをわかっていて、敢えて受けた…?私とミリィへの償いとして…?」

「…うん。そう言うことだと思う。」

「…道理で、私を責めなかったわけだ。それどころか…私を置いて死に逝き、私にこれを見せて自分だけ償いを果たした…と。…ずるいお方だ。私はそれを知っても、あなたを殺した罪悪感や後悔の念は消えないというのに…。」


ガイウスは拳を握り締め、やるせない表情を浮かべながらそう言った。


「…ガイウス。」


今まで沈黙していたアトラスがガイウスを呼んだ。

呼ばれたガイウスは身体をビクリとさせて、アトラスに顔を向けた。


「…私という人間を、見定めることはできただろうか。愚かな私は勘違いをして…あなたの番に八つ当たりをして手に掛けた…度し難い人間だ。…あなたが望むのであれば、どんな罰でも甘んじて受け入れよう…。」

「お主が自らを貶めるのは勝手だがな…それでワシから罰を欲するのは、我儘と言うものだ。」

「…我儘、か。」


アトラスは深くため息を吐き、セラフィに話しかけた。


「気は進まんが…仕方あるまい。セラフィ。」

「…何?」

「この先の記憶をガイウスに見せることにした。すまんが、もう少しだけ頼めるか。」

「…うん。わかった。」


アトラスがどういうつもりなのかはわからないが、この記憶の再現は、もうすぐ終局を迎えることだろう。

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