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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
2章~白黒の番
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白黒の番31

文字数がいつもより少なく、申し訳ないです。

『ミリィ…もう少しの辛抱だよ。頑張るんだよ…。』

『ふっ…!う゛ぅ…!』

『頭が見えて来てるよ…もう少し…頑張って…。』

『っ…あ゛ぁ…!』


ミリィの苦しむ声が段々と大きくなってきており、遠目で見守っている俺たちにも鮮明に聞こえて来た。

人間の出産を見るのは初めてだが…あんなにも辛いものなのか。

ミリィの両隣にはアリウスとガイウスが寄り添って座っており、出産に奮闘するミリィを見守っていた。


「すまない…ミリィ。私が王の座など気にせず、ミリィと共にここへ来ていれば…こんなことには…。」

「…当時は前王ブライデ様の体調が芳しく無く、早急に準備を整える必要があったと言っていたではありませんか。…父様は何も悪くありません。」

「…そんなものは言い訳に過ぎない。」

「そんなことは──────」

「いや…私はミリィと共に行くべきだったのだ…。私は…こんなにも苦しんでいるミリィの傍で、手を握ることすら…っ!」


ガイウスは自分を責めながら、痛みに耐えるために布を握り締めているミリィの手を、両の手で包み込もうとした。

しかしミリィの手には、当然触れることはできない。


『あ゛ぁ…!ぐっ…!』

「母様!」

「ミリィ!」


その時、ミリィは大きく身を捩り、苦悶の声を上げた。

アリウスとガイウスは気が気でないようだが、イルミナスは差し迫った声色でミリィを励ました。


『もう少し…!ミリィ頑張って…!もう少しだよ…!』


ミリィは空気を吸っては吐き、必死に呼吸を整えようとしていたが、とても整いそうな様子では無い。そんな状態でも、ミリィは意を決したように呼吸を止めた。


『ふっ…!』


ミリィが息を止めて少しすると、イルミナスがミリィの下半身から何かを取り出すような動きを見せた。

遂にその時が来たのだと悟った頃には、人間の赤子の泣き声がこの草原中に響き渡っていた。


『はぁ…はぁ…はぁ…。』

『…よく頑張ったねぇ…ミリィ。元気な女の子だよ…。』

『っはぁ…はぁ…女の…子…?』

『もう少し待っておくれ…。』


イルミナスは緒を処理して赤子の身体を洗い、最後に布で包んだ赤子をミリィに渡した。

ミリィは村の女性に手伝ってもらいながら上体を起こし、赤子を受け取った。


『…ほら。ミリィの子だよ…。』

『私の…子…。アリウス…。』

「…っ母様…。」


ミリィが赤子の名前を呼びながら頬ずりする様子に感極まり、アリウスは頬を濡らした。


『…良かった。…アリウスをこの手で抱くことができて…。アリウスだけでも助けることができて…本当に…良かった。村長…白竜…本当にありがとう…。』

『…気にしないでちょうだい。それよりも…あなたに残された時間が、もうほとんど無いわ…。』

『それは…どういうことだい!』

『…大地との契約でミリィは生きながらえているけれど…出産が想定外の負担になったみたいなの。これ以上、ミリィとの契約は継続できないみたいで──────』

『そういうことを聞いてるんじゃあ無いよ!どうしてミリィがそんな状態に──────』

『…村長。ごめんなさい。』

『…ミリィ。』

『時間が無いみたいだから…ちょっと私から話をさせて欲しいの。』

『…。』


死期が近いミリィにそんなことを言われてしまっては、黙る他無い。

イルミナスだけでなく、周りに居るワーグや数人の女性も、ミリィの話に耳を傾けた。


『…白竜。お願いがあるの。』

『私にできることなら、何でもするわ。』

『私とアリウスを…ガイウスのところに連れて行って欲しいの。』

『…っ。そんな…ミリィ…。』

『…わかったわ。』

『白竜…。』

『…村長。アリウスはガイウスの元で…父親の元で育って欲しいの。…私がこんな風になってなかったら…この村の自然に触れさせて、たくましく育てかったんだけどね…。』

『…それなら…私がここで育てるさ。あの男に任せるより、余っ程良いだろう…?』


アリウスを引き取ろうとするイルミナスに、ミリィは首を左右に振って応えた。


『…村長、私の話を聞いて欲しいの。実は私ね…私を産んでくれた両親に、感謝してるの。』

『…あんたの両親は…あんたを捨てたのにかい?』

『うん。…確かに、私を置いてどこかに行っちゃったみたいだけど…私ね、生まれてきて良かったなぁって思うことがたくさんあったの。』

『…。』

『もちろん、村長にもすごく感謝してるよ。本当のお母さんみたいだった。でも…たまにね、夢を見たの。私を産んでくれた顔もわからない両親に、甘えたり、怒られたり、撫でられたり…。あぁ…私ってすごく愛されてるなぁ…って感じる夢だった。その夢から醒めた朝は…すごく寂くなったし…すごく両親に会いたくなっちゃったの。だから私は…両親のことを知りたくて、ガイウスと一緒に色々調べてたの。…結局両親のことは何もわからなかったけど…アリウスには、そんな思いをさせたくないの。』

『…だから、せめて父親の元で育って欲しい…ってことかい。』

『うん。あ…でも、ミリィが大きくなったら…私のことを知りたくなって、そのうちこの村に来ちゃうかもね。その時が来たら…私のことを教えてあげてね。』

『…。』


イルミナスは何も言葉を返すことができず、そのまま俯いてしまった。


『…村長。ごめんね。…白竜、もう一つお願いがあるの。』

『何でも言ってちょうだい。…もう時間がないわ。』

『…ガイウスに、伝えて欲しいの。私は本当に幸せだったこと…。あなたと結婚したことを後悔なんてしてないこと…。アリウスをちゃんと育てて欲しいこと…。そして…あなたのことを、愛してること…。』

『…えぇ。ちゃんと伝えるわ。』

「…くっ!」


ミリィの言葉を聞いたガイウスは声こそ押し殺しているが、溢れ出る涙を堪えることができずに泣きじゃくっていた。


『ありがとう。…もう、時間が無いんだよね?』

『…えぇ。』

『じゃあ…契約が終わるまで、アリウスと一緒に居させて欲しいな。』

『…えぇ。』


ミリィは赤子のアリウスを抱え直し、その頭を優しく撫でながら話しかけた。


『アリウス…。ごめんね…こんな母親で。』

「…そんなことはありません。私を産んでくれて…ありがとうございます。」

『あなたが成長した姿を見れないことは…心残りだね。』

「…あまり身体は丈夫ではないですが…母様に似て、行動力はあると自負しています。」

『良いお婿さんを見つけてね。』

「…今はまだ居ませんが、いつか必ず紹介します。」

『アリウス…愛してるわ。』

「…っ。」


アリウスが言葉の代わりに涙を流して応えると、ミリィは仰向けに寝転び、赤子のアリウスをしっかりと抱きかかえた。


『ミリィ…?』


そのまま動かなくなったミリィにイルミナスが呼びかけるも、ミリィから反応が返ってこない。

異変に気が付いたのか、イルミナスはシャルを見上げて目で問いかけた。


『…契約が終わったわ。』

『…っ!』


シャルは目を瞑ってミリィの死を悼み、イルミナスや周りの人間も、ミリィの最期に涙を流していた。

その中で、先に動きを見せたのはシャルだった。


『…この子を、送って来るわ。』

『…白竜!待っておくれ!』

『ごめんなさい、イルミナス。…この子の願いを違えたくないの。』


シャルはそう言いながら、ミリィとアリウスを前足に乗せて翼を広げた。

シャルはそのまま風魔法を使って空へ飛び、ガイウスの居るナイト王国の方角へと向かった。

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