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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
2章~白黒の番
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白黒の番27

「…カリア。ガイウスに何も言ってないのかしら?」

「ここに来る道中しか説明する時間が無かったから、詳しいところまで説明できてないんだ。シャルがガイウスに怒ってないことは伝えたけど、ガイウスは信じてないらしい。」

「そう…。ガイウス。カリアの言っていることは本当よ?むしろ感謝しているくらいだわ。何か気に入らないことがあるのかしら?」

「あなたも…!どうして私に感謝するのだ!どうして私の愚行を、誰も…咎めないのだ…!」

「…私はね、ガイウス。今とても幸せなの。アトラスと番になれて、子も産まれて、名前までもらった。時間は短いけれど、家族で過ごす時間を経験することができたの。そんな幸せの中で死ねるなら本望よ。そしてこの状況を作ったあなたを、私は憎めないし、恨めないわ。」

「…私がその状況を作った、だと?私があの時、もっと冷静になれていれば、あなたはまだ健在だったはずだ…その未来では、今よりも幸せになれただろう…!」

「…仮にそんな未来があったとして、カリアとセラフィとアリウスはここに来たかしら?この子たちが来なかったら、今の私たちは無いのよ?」

「それは…。」

「そんなありもしない未来を考えて、何になると言うの?今私は幸せで、あなたには感謝している…それが全てよ。何がそんなに気に食わないのかしら?」

「あなたがそれでは…私はどう償えば良いのだ…。」

「償う必要は無いと思うけれど?」

「…あなたが私を恨んでいないからと言って、はいそうですかと自らの愚行を許せる程、私は単純な人間では無い…。」

「私を傷つけたこと、後悔してるのね。」

「…後悔している。当時の私は正気でなかった…。あなたがミリィの仇だと思い込んでいたのだ。」

「今は違うのかしら?」

「…冷静に考えれば、あの時あなたがミリィの命を奪う理由が無い。それに…。」

「それに?」

「…あなたのことをよく知っている人から、竜の巫女の本当の契約内容を聞いた。寿命を奪う契約というのは偽りなのだろう?」

「えぇ、そうよ。…でも、その話はアトラスと青竜にしか話してないけれど…あぁ…そういうことね。セラフィに聞いたのかしら?」

「それは…!」


そのシャルの発言は、俺やセラフィの正体を知らない者に…具体的にはアリウスやロード、ラピスに勘ぐられる可能性がある。

ガイウスはそう思ったのか、焦った様子でセラフィの方を見た。


「あ、ガイウス。私とカリアのことは昨日アリウスたちに話したから、隠さなくても大丈夫。」

「…本当か?」

「あぁ、本当だ。あと昨日の夜、話の流れでガイウスの生い立ちをロードとラピスに軽く話してしまった。勝手に話してすまない。」


二人にもガイウスの過去を教えておかないと、イルミナスたちと歓談する時に会話に入れなかったからな。


「それは構わんが…そうか。受け入れられたのか…。それにしては…変わらないのだな。」


ガイウスは、俺たちの絡みがいつもの調子だったことを不思議に思っているようだ。


「3人ともすんなり受け入れたみたいだ。正直、拍子抜けした。」

「まァ、それはこッちの台詞でもあるがな。」

「あはは…確かに。」

「…父様には色々話してるんだ。ふ〜ん…。私、竜の巫女の話なんて聞いてないんだけどな〜…。」


アリウスは、自分が知らない話を、ガイウスに色々と話していたことが気に食わない様子だ。


「…アリウスたちにも後で話すから、いじけないでくれ。」

「…約束よ?」

「あぁ、約束する。…すまない、話が逸れた。」

「…いや、それなら気にせず話すことができる。…シャルよ。」

「あら、ようやく名前を呼んでくれたわね。」


ガイウスはシャルの方へ向き直り、話を続けた。


「私が犯した愚行の結果がどうであれ、私の中では間違いなく過ちなのだ。…あなたを手に掛けてしまったことを、謝罪させてほしい。」

「…私にはそれくらいしかできなさそうね。良いわよ。」

「…あなたがミリィの命を奪ったと勘違いしてしまい、逆上してあなたを手に掛けてしまったこと。本当に申し訳なかった。ここに深く謝罪する…。」


ガイウスは深く頭を下げ、シャルに誠心誠意謝罪した。


「謝罪を受け入れるわ。」

「…ありがとう。」


シャルに礼を言ったガイウスは顔を上げ、次はアトラスの方を向き、そのまま話しかけた。


「…黒竜よ。」

「アトラスと呼べ。」

「…アトラス。あなたは私を恨んでいるはずだ。」

「恨んでいて欲しい、と言わんばかりだな。」

「…そうでなくては困る。」

「余程咎められたいようだが…お主の期待には沿えんな。」

「恨んでないと言うのか…?私はあなたの番を手に掛けたのだぞ?」

「…はぁ。シャルは満足して逝くと言っておるのだぞ?お主を恨んでしまっては、シャルの死を否定することになるだろう。」

「…。」

「それと、ワシに謝罪は不要だ。」

「…っ。どうしてだ。」

「…お主を恨みはしない。だが、今はお主の謝罪を受け入れることはできん。」

「それは…やはり私に思うところがあるのではないか?」

「いや…そうではない。単にワシの中で、お主の処遇を決めかねておるのだ。もう少し、お主を見定める時間が欲しい。」

「…わかった。」


一通り話はできたが、ガイウスは不完全燃焼といった様子だ。

ガイウスはまだ、過ちを犯した自分を許すことができていないのだ。

自分の過ちを誰にも咎められず、償いもできない。

わかりやすく、他者から罰を与えられれば自分を許すきっかけになったかもしれないが…その望みは薄そうだ。


「ガイウス。」

「…何だ。」

「あなたの期待に沿えなくてごめんなさい。私では、あなたの心のわだかまりを解消することはできない。」

「いや…あなたが謝ることでは無い。自分で蒔いた種だ…自分で刈り取るしかないだろう。」

「…そうね。あぁ、私にできることがもう1つあったわ。後でセラフィに見せてもらってちょうだい。」

「セラフィ君に…?」

「えぇ。でも、その前に…セラフィ。」

「…何?」

「そろそろ契約魔法を使っても良いかしら?」

「私は良いけど…アトラス、良いの?」

「…あぁ。限られた時間の中で、十分言葉を交わすことができた。お主らが気を遣ってくれたおかげだ…感謝する。」

「…わかった。」

「それじゃあ…セラフィ。私の身体に触れて?」


セラフィはシャルに近付いて行き、シャルの前足を手で触れた。


「行くわよ。目を閉じて…魔力を私に。」

「うん。」


セラフィは目を閉じ、その魔力がシャルの体内へ流れて行っているのがわかる。

それと同時に、シャルとセラフィの身体が僅かに発光し始めた。


「契約内容は…私の生命活動が終わるまで、契約者であるセラフィの視覚を共有すること。」

「承諾する。」

「契約の構築は私が行い、契約魔法の発動はセラフィの魔力で行うこと。」

「承諾する。」


そのセラフィの承諾とともに、セラフィとシャルの発光が収まった。


「…ありがとう。目を開けてみて?」

「うん。」


セラフィが目を開け俺たちを見ると、シャルが息を飲んだ。


「…っ!まぁ!あなたがアリウスね!」

「はい。そうです。」

「髪の色はミリィ譲りね…!とても綺麗だわ…。」

「ありがとうごさいます!」


どうやら契約魔法は成功しているようだ。


「…ガイウス。あなた老けたわね。」

「…20年近く経っているのだ。当たり前だろう。」

「まぁ、それもそうね。カリアは中々男前ね?」

「シャルは人間の造形に理解があるのか?」

「当たり前でしょう?今までたくさんの人に会って話してきたもの。」

「…そうか。じゃあその褒め言葉は受け取っておこう。」

「素直でよろしい。…あなたたちがラピスとロードね?」

「はい!」

「おう。」

「ふふふ。二人とも、末永くお幸せにしてちょうだい。」

「はい!もちろんです!」

「…おう。」

「セラフィの顔も見たいのだけれど…。」

「あぁ…それじゃあ光魔法で私を写す。」


そう言って、セラフィは自分の目の前に鏡を置いたかのように自分を写した。


「まぁ!あなたも綺麗ね…。召し物もとっても可愛いわ。」

「ふふん、ありがとう。」


シャルに褒められたセラフィは満足そうにしていた。


「そして…アトラス。」


セラフィはアトラスの方を向き、顔を上げてアトラスを見た。


「…シャル。」

「…翼が無くなったとは聞いていたけれど、あなたはあまり変わらないわね。」

「…20年程しか経っておらんのだ。風貌が変わらんのは当たり前だろう。」

「ふふふ。それもそうね。でも、ちょっと顔つきが柔らかくなった気がするわ。」

「…お主が言うならそうなのだろう。ほれ。下を見ろ。」


セラフィはアトラスに促され、そのまま視線を下げた。


「まぁ…!まぁ…!ロゼ!」

「ガァウ。」

「なんて可愛いのかしら…!鱗がアリウスの髪色と同じね!」

「グア!」

「ロゼ…ロゼ!あぁ…アトラス!ロゼって本当に良い名前だわ!」

「…そうか。名を考えた甲斐があったというものだ。」

「えぇ…。私、本当に幸せよ。…ねぇアトラス。」

「何だ。」

「愛してるわ。」

「…ワシも、愛している。」

「…ロゼも、愛してるわ。」

「ガァウ?」

「…こんな親でごめんなさい。まだ産まれたばかりなのに…。」

「…安心しろ、シャル。この子はワシがしっかり育てる。」

「えぇ…ありがとう。…もう時間みたい。」

「…もうか。」

「えぇ…。でも、最期にあなたたちの姿が見れて本当に良かったわ。」

「…それは良かった。」


アトラスはそう言いながらシャルへと近付いて行き、シャルの額に自分の額をあてがった。


「…ゆっくり休め。」

「…うん。愛してる。」


シャルはその言葉を最期に一雫の涙を流し、永遠の眠りに就いた。

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