白黒の番26
「て言うか、カリアは何で人間になったの?」
結局ロードもラピスもアリウスも、歩いて旅をする魅力については理解できなかったらしく、考えることをやめたラピスがそう聞いてきた。
「ドラゴンとして生きて行くより、人間として生きた方が楽しそうだと思ったんだ。まだロードやラピスみたいにやりたいことは見つけれてないけど、思った通りだったよ。」
「人間になって良かった?」
「あぁ。かなり良かった。」
「おぉー。」
そう言って、ラピスは小さく拍手をしていた。
「セラフィには聞かないのか?」
「え?…セラフィにはまぁ…聞かなくても…。」
「…聞かなくても?」
「…何でもない!あはは…。」
聞く程の興味が無い…と言うわけではないだろう。
と言うことは、聞かなくてもわかるのか?
俺ですらわからないのに…。
「…もうじき着くぞ。」
「え、もう?」
アトラスからそう声が掛かり下の景色を見下ろすと、目的地である村の灯りが見えて来ていた。
「アトラス。今日は昨日の所に、そのまま降り立って大丈夫だ。」
「わかった。」
それを聞いたアトラスは速度を落とし、徐々に高度を下げながら村の入口前の広場に降り立った。
そして俺たちはそれぞれ礼を言って、アトラスの前足から降りた。
「では、ワシは帰るぞ。」
「あぁ、また明日。」
俺の言葉を聞き届けたアトラスは空へ飛んで行き、シャルとロゼの元へ戻って行った。
アトラスを見届けたのち村の入口へ向かうと、入口の前にはいつものようにイカロスが立っていた。
「…皆様。お帰りなさいませ。」
「イカロスさん。ただいま戻りました。…父様は、まだおばあ様のところに?」
「はい。まだ村長の家におられるかと。向かわれますか?」
「…良いんでしょうか。」
「えぇ。大丈夫だと思いますよ。先程、陛下が笑っておられたようなので。」
「笑ってた…?」
アリウスが疑問に思っていると、遠くから豪快な笑い声が微かに聞こえて来た。
イルミナスの家の方からだ。
「本当だ…。これ、ガイウスさんの笑い声?」
「うん…。」
ラピスの疑問に、アリウスが片手で頭を抱えながら応えた。
「…不穏な空気には、なって無いみたいだな。」
「はぁ…そうだね。私、迎えに行って来る。」
「私たちも行くよ。」
「…ありがとう。…いつもの父様とはちょっと違うかもしれないけど、気にしないでね。」
確かに、先程のような豪快な笑い方は、ガイウスからは想像できないな。
そうして俺たちはイルミナスの家へと向かった。
────────────────────────────────────
「おばあ様、アリウスです。ただいま戻りました。」
俺たちはイルミナスの家の前に辿り着き、アリウスがノックをしてそう声を掛けた。
「ん~?アリウス?戻って来たのか?」
「入っていいよ。」
家の中から二人の声が聞こえ、アリウスが扉を開けて中に入った。
俺たちもそれに続いて中に入ると、そこにはイルミナスとゾル爺とワーグ、そして顔を真っ赤にしたガイウスが机に突っ伏した状態でこちらを見ていた。
家の中は酒の匂いで充満しており、机の上には空になった飲料容器が置かれてあった。
「ガイウス…かなり酔ってるみたいだな。」
「酔ってなどおらん!…アリウスぅ~…会いたかったぞぉ~…。」
ガイウスはそう言ってその場に立ち上がったが、見ていて危ういと思う程ふらついている。
「ちょっと父様…!飲みすぎですよ…。すみません、ご迷惑をお掛けして…。」
アリウスが駆け寄ってガイウスを支え、そのまま椅子に座らせた。
「良いんだよ。私たちが飲ませ過ぎてしまったからねぇ。」
「皆で酒を飲んでたのか?」
「おうよ。やっぱ腹割って話すなら、酒を入れるのが一番だ。俺とワーグで酒を差し入れに来たついでに、一緒に飲むことになってな。」
酒を飲むと、自制が緩くなる効果があると聞く。本音で語り合いたいなら、確かに効果的かもしれない。
実際本音で話し合えたのか、イルミナスの表情は心做しか晴れやかだった。
「満足行くまで語り合えたみたいだな。」
「…えぇ。私もガイウスも、ミリィを失った悲しみを共有できる相手が必要だったんだろうねぇ。お互いに、十分語り合えたよ。」
「ん〜…グゥ…。アリウス…。」
「さっき立ち上がったせいで、酔いが回ったみたいだね。今日はもう休ませた方が良いね。…カリア、ガイウスを別室に運んでくれるかい?」
「…宿に運ぶこともできるぞ?」
「うちの客室が一部屋空いてるからね。そっちの方が近いよ。」
「…ありがとうございます。おばあ様。」
「いいんだよ。あぁ、その前に…そこの二人はあなたたちの友達かい?」
「あ、はい。紹介します。こっちがラピスで、こっちがロードです。」
「…あぁ、この子たちが。アリウスたちから話は聞いてるよ。私はこの村の村長のイルミナスだ。よく来たね、ゆっくりしてっておくれ。」
「ありがとうございます!」
「俺はワーグだ。この村の建築担当をしている。」
「俺はゾルだ。よろしくな。…お前さんがロードか。料理が得意だと聞いとるが…本当か?」
「…さァな。こいつらが大袈裟なだけ──────」
「ロードの料理はとっても美味しいわよ!」
「おい。」
「はっはっは!ちょうど飯の時間だ。どうだ?何か作ってみてはくれんか?」
「まァ…構わねェよ。」
「よし来た!調理場に案内してやるから付いて来い!」
ゾル爺は酒が入っていることもあり、気分が上がっているようだ。
「すまないねぇ。今日この村に来たばかりなのに…疲れてないかい?無理しなくてもいいんだよ?」
「問題ねェよ。気にすんな。」
ロードはそう言い、ゾル爺に連れられて調理場へ向かって行った。
「ふふふ。ありがとう。じゃあカリア。ガイウスをお願いするよ。」
イルミナスは立上り、家の奥へと続く廊下にガイウスを連れて来るよう、俺を催促した。
「ほら、ガイウス。」
俺はアリウスに手伝ってもらいながらガイウスを背負い、イルミナスに先導され客室へ運んだ。
その後は俺たち5人でロードの料理を手伝い、完成した料理を皆で美味しくいただきながら歓談して、その日を終えた。
────────────────────────────────────
「うぉぉ…頭が…。」
次の日の朝。
俺たちは宿の外で集まり、イルミナスの家へガイウスを迎えに行った。
家の中に入ると、ガイウスが昨日と同じように長机に突っ伏していた。
今日は昨日と違い、顔を青くしている。
「…二日酔いですか?」
「そうみたいだね。朝からずっとこんな感じさ。」
「おぉ…アリウス…。ぐぉぉ…。」
自分の声が二日酔いの頭に響いているのか、かなり苦しそうにしている。
「…ロード。」
「ッたく…。親子揃ッて何やッてんだ。」
「あはは…。ごめんね?」
アリウスは今日も今日とて足が筋肉痛になったため、宿を出る前にロードに治癒してもらっていた。
ロードは呆れながらガイウスに近付き、声を掛けた。
「ガイウスさん。ちョッと触れさせてもらうぞ。」
「あぁ…。」
ロードがガイウスの手に触れると、その部分から暖かな光が発したが、その光はものの数秒で収まっていった。
「どうだ?」
「ん?…おぉ!治ったぞ!ありがとうロード君!」
「わかッたッつの…。」
ガイウスはロードの手を両手で握り、感謝の意を示した。
「…あなた。美味しい料理を作れる上に、治癒魔法も達者なのかい?すごいねぇ…。」
「んなことねェよ…ッて、ガイウスさんもう良いだろ。早く行かねェと、時間がねェんじャねェのか?」
なかなか手を離さないガイウスだったが、ロードの言葉を聞いて我に返り、握っていた手を離した。
「…そうだな。ロード君の言う通りだ。急いで向かうとしよう。」
ロードの治癒魔法で回復したガイウスが立ち上がり、イルミナスに改めて向き合った。
「村長。行って参ります。」
「…しっかり決着をつけて来るんだよ。」
「…はい。」
二人は短く言葉を交わし、俺たちは白竜の村へと向かった。
────────────────────────────────────
「…あれが黒竜…アトラスか。」
「そうです。」
「白竜は…シャルと言う名前だったな。」
「…そうです。」
俺たちは結界の中に入り、シャルとアトラスを視認した。
しかし、シャルとアトラスを視認して以降、ガイウスの表情が曇り、足取りが重くなった。
「…ガイウス、歩くのが遅いぞ。筋肉痛にでもなったか?」
「…はァ。治すか?」
「…ねぇ、それ私をからかってるの?それとも父様に発破を掛けてるの?」
「どっちもだと思う。」
「あはは!」
俺は後者のつもりだったが、セラフィが余計なことを言ったせいでアリウスに横腹を小突かれてしまった。
「いや…はは。情けないな。…ちょっと怖気づいてしまいそうだったけど、君たちに元気付られたよ。ありがとう。」
そう言ってガイウスは歩みを早め気丈に振舞っていたが、曇った顔を隠すことができていなかった。
しかし今のガイウスには、その強がりが必要なのだ。
そのまま俺たちとドラゴンたちの距離は徐々に縮まり、適度な距離をとって相対した。
「…久しぶりね、ガイウス。よく来てくれたわ。」
「…っ。白竜。」
ガイウスは俯き、シャルを正面から見ることができない様子だ。
「…ガイウス。その子たちから聞いてるかもしれないけれど、今の私たちにはちゃんとした名前があるの。私はシャル。黒竜はアトラス。…そして、私たちの子どものロゼよ。今後はそう呼んでちょうだい。」
「…っ!どうしてそんなに平然と話すことができるのだ!私は…あなたを殺したも同然の人間だ!そんな人間を前にして、憎くは無いのか!」
ガイウスは溜め込んでいた感情を表に出し、その勢いで顔を上げ、シャルに向かって声を荒らげた。




