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斯くてドラゴンは人になる  作者: 冫メ况。
プロローグ
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プロローグ2

俺は青竜に先導され、黒竜の元へ向かっていた。


「黒竜の居る位置は分かるか?」

「うん。多分東の大国の方に居る。」

「そうか。」


青竜がなぜ案内をしてくれるのか、そもそもなぜ黒竜の事を知らせてくれたのか。

黒竜の元に辿り着いたらどうするのか。

聞きたいことは様々あるが...。


「黒竜の元に辿り着いたら、お前は離れていろ。」

「…私も手伝う。」

「お前も死ぬかもしれんぞ。」

「死んでも構わない。」

「…なぜだ。そこまでする理由があるのか?」

「ある。でも理由は秘密。」

「…そうか。」


そこまで言うなら、もう口出しはしないでおこう。


「そう言えば、昨日黒竜と話したと言っていたな。」

「...うん。黒竜の魔力がすごく荒れてたのを感じたから、様子を見に行って話した。黒竜の魔力には気が付かなかった?」

「全く。それで、なぜ人間を滅ぼそうとしているのか聞いたか?」

「聞いたけど…『人間を滅ぼす』としか答えてくれなかった。」

「…人間が黒竜の怒りに触れることができたか。」


人間に無関心だった黒竜を激怒させるとは。


「急いだ方がよさそうだな。」

「うん。」


それからしばらく青竜に付いて行くと、人間が開拓し造り上げた居住区域が見えてきた。

この人間の居住区域は他のそれと比べて大きく、立派に造り込まれている。


「東の大国が見えて来たな。」

「うん。…あそこに黒竜が居る。」

「あぁ、俺も見えた。」


東の大国を囲う城壁の外側には広大な土地が広がっている。

黒竜はその大地に降り立ち、人間たちと対峙していた。

この人間たちはおそらく東の大国の人間だろう。


「黒竜、片翼が削がれている。」


確かに、黒竜の片翼が半分ほど消失している。

翼は風魔法で空を飛ぶための補助に過ぎないが、あれでは飛ぶことはできても、空中での正確な移動は難しいだろう。

ドラゴンにあの傷を負わせることができるとすれば…。


「あぁ、おそらく対竜魔法を受けたのだろう。」

「対竜魔法?」


城壁の上から数十人がかりで魔法を組み立てている。

恐らくあれがそうだろう。

俺はそれを指差しながら説明する。


「最近人間が作った魔法だそうだ。あれは魔法障壁を貫通し、ドラゴンの身体だけを傷つける光線だ。莫大な魔力と精巧な技術が必要で、連発はできない。」

「どう防ぐの?」

「土魔法で壁を作れ。物理的な壁は貫通できん。光線の速さも大したことは無い。あの距離であれば、視認してからでも対応できるだろう。」

「わかった。」

「行くぞ。」

「うん。」


俺は黒竜の真上から急降下して降り立ち、黒竜を人間と分断させた。

青竜は城壁からの攻撃に備えている。


「ここに割って入るという事は、どういう事かわかっておるのだろうな?赤竜。」

「お前こそ、人間を滅ぼすとはどういう事だ?それ程人間を嫌っていたわけではないだろう。」

「そこの青竜に聞いたか。お主には関係ない。」


関係ない、か。

俺が人間に転生する前に滅ぼされては困る。

だが、それを説明したところで黒竜は理解できないだろう。

今の俺には、説明する時間も言葉も足りない。人間を滅ぼすことを断念させる他無い。


「お主らが相手ならば、ワシは手加減せん。というかできん。」

「それは俺のセリフだ。」


2対1で、しかも片翼が無くても黒竜には勝てないだろう。

だが、戦意を削ぐことならばできるかもしれない。

対竜魔法がある今、黒竜を手負いにすれば人間もそう簡単には滅ぼされはしないだろう。


「聞け!人間!黒竜は我らが引き受ける!お前たちは下がれ!」

「…っ!ドラゴンの言葉に耳を貸すな!このまま攻撃を続けろ!ドラゴン共を撃退するのだ!」


人間たちの指揮を執っているらしい人間が、俺の言葉を叩き落とした。

そうだった。人間とドラゴンの関係は本来このようなものだった。


「私が人間を抑えながら戦う。あなたは黒竜に集中して。」


黒竜と戦いながら人間を守り、対竜魔法にまで気を配るのは至難だ。

青竜はできるだけ人間を殺さないよう立ち回り、対竜魔法にも対処してくれるようだ。


「…わかった。ありがとう。」


だが、ほとんど俺だけで黒竜の相手をすることになった。

人間が片翼を削いでくれていて助かったが、できればもう片翼も削いでおきたい。

機動力を無くせば、対竜魔法を避けるのが困難になる。

土魔法でも防ぐことは出来るが、視界が遮られて戦いには向かない。

それが分からない黒竜でもないだろう。

つまり、もう片翼を削ぐことができれば、俺の目的は果たせるはずだ。


あの黒竜に通用する攻撃は、純粋な物理攻撃しかないだろう。

幸いにも、俺は自分の身体の硬さを活かした身体強化魔法での肉弾戦を得意としている。

黒竜に接近できれば勝機はあったのだが…。


「ハァ!」

「くっ…!」


黒竜から放たれる咆哮魔法が予想を遥かに超えた威力だった。

黒竜の咆哮魔法は圧縮された魔力の塊を放ち、圧倒的な射速度と貫通力を併せ持つ。その上精度も高い。

俺が身体強化魔法を防御に集中させ、全力で防いだとしても傷ができる。

空に飛ぶことができれば機動力を駆使して避けることができるかもしれないが、飛ぼうとした一瞬の隙を黒竜は見逃さないだろう。

このままでは近づけない。

どうしようか考えていると、後方から───青竜の方から爆発音が聞こえてきた。


(何が…いや、黒竜に集中しろ。よそ見をすると一瞬でやられる。)


黒竜が咆哮魔法の体勢に入った。


(来る…っ!)


防御体勢に入ろうとした瞬間、背後から何かに突き飛ばされた。



───────────────────────────


「…あれが対竜魔法。」


私は城壁の上から放たれる対竜魔法を、土魔法で壁を作って防ぎながら分析していた。


(私も対竜魔法を使うことができれば赤竜をアシストできたかもしれないけど…。)


この魔法は確かに複雑だ。

時間をかければ使えるようになるけれど、人間を抑えながらだと分析するのがやっとだ。


それにしても…人間たちの指揮を執っている人間がさっきから魔力を溜めているのが気になる。

何の魔法を繰り出す準備しているのか、その魔法が放たれる瞬間までわからない。

人間が個人で放てる魔法がドラゴンの脅威になるとは思わないけど、一応注意しておこう。

空に飛び、全体の状況を確認する。

まだ城壁からの対竜魔法は来そうにないと思ったその時、土魔法で作った壁が爆発した。

その爆発と同時に、1人の人間が爆風に乗り、赤竜と黒竜の方へ飛んで行った。


(さっき魔力を溜めていた人間…!)


私もその人間の後を追いながら、魔法障壁を展開する準備をする。

人間の進行方向は赤竜の背後。

どんな魔法を放つのか分からないが、私は魔法障壁で赤竜を守れる範囲まで来ていた。これで守れる。

人間が魔法を放つ体勢に入った。狙いはやはり赤竜。

私は人間と赤竜の間に魔法障壁を展開した。

しかし人間は構わず魔法を展開する。


(あれは…対竜魔法…っ!)


単独でその魔法が使える人間がいることを考えていなかった。


(土魔法…間に合わない!それなら!)


私は人間を追っていた速度から更に加速し、人間を追い越した。


「喰らえぇぇぇぇ!!!」


その瞬間、対竜魔法が放たれた。


私は赤竜に突進し、紙一重のところで赤竜を射線から外すことができた。


──────────────────────────────


背後からの衝撃は青竜が起こしたものだった。


「あ゛ぁぁぁっ!」


直後、青竜の苦悶の声が聞こえてきた。


「青竜!」


俺が反射的に青竜へ視線を向けると、人間が放った直径約5m程の光線が青竜を穿っている光景が目に入った。

ひと目で致命傷だと悟った。


(人間が単独であの魔法を…!まずい!)


青竜に視線を向けたのはほんの数秒だったが、黒竜はその隙を見逃さなかった。

黒竜から放たれた咆哮魔法が、俺のすぐ目の前まで来ていたのだ。


「がァァァァ!!!」


身体強化の防御も間に合わず、俺の身体にも風穴が空いた。青竜と同様、致命傷だ。

ここまでかと思われたが、対竜魔法の光線が黒竜に接近しているのが見えた。

人間が俺と黒竜を同時に捉えた角度で放ったのだろう。

しかし、あの速度では避けられる。


「その魔法の防ぎ方はさっき見たぞ。」


黒竜は土魔法を使い、土壁を生成する。


失敗だ。

黒竜を止めることはできなかった。


俺と青竜はじきに死ぬだろう。


死に際まで連れてきてしまった事を謝ろうと、青竜を見た。


「青竜…?」


俺の思いとは裏腹に、隣で倒れている青竜の目は諦めていなかった。

光線を見つめながら何かをしている。


(何を…。!?)


青竜の視線を追うと、人間が放った対竜魔法が軌道を大きく変えたのが見えた。


(対竜魔法に干渉して軌道を操っている…のか?)


なんという芸当だ…信じられん。

軌道を変えた光線は、黒竜が生成した土壁を回り込み、黒竜を捉えた。


「なっ!グアアアアァァァ!」


光線は黒竜の本体ではなく、無傷の片翼の根元を捉えていた。


「おのれぇ…!」


黒竜は怒りを顕にしながら、風魔法を使い空を飛ぶ。

しかし冷静に判断したのか、そのまま去って行った。


「両翼を削られても…飛べるとは…。流石だな…。」


青竜に話しかけたつもりだったが、もう虫の息で話すことはできなさそうだった。

俺ももう長くはない。


「…すまない、青竜。結局…俺は何もできなかった…その上…お前も…巻き込んで…しまった。」


青竜に許して貰おうとは思っていない。

青竜が居なければ目的を果たすことはできなかった。

そう考えると、感謝を伝えるのが道理か。

そういえば、青竜の目的は果たせたのだろうか?

今となっては聞くことはできないか。


「ありがとう、青竜。」


最後に礼を言い、俺は人間に教えてもらった転生魔法を展開する。

ここに来て失敗してしまうと笑えない。

俺は集中し、青竜に見守られながら魔法を発動させた。

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