表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

闇から落ちしもの 9


 闇から落ちしもの 9



 朱姫たち三人は自分たちの命もこれまでだと確信した。九尾だけでも生き残れる可能性はゼロに近かったのに、さらに最凶の鬼・大嶽丸まで加わっては人間如きが何人いようと太刀打ちできるわけがなかった。


朱姫の頭の中に、バイクに乗った男の姿が浮かんだ。


•••何で、あんな奴の姿が •••


白姫の頭には幼い頃の記憶が蘇る。


•••ふんふん 月夜お兄さん、私、お兄さんみたいに強くなれなかったみたい •••


玄姫は、叔父に言われた事を思い出す。


•••叔父さんに言われた通り、他の道に進んでも良かったかな •••


三人共、後悔はしていないが、他の道もあったなと考える。せめて、凄まじい拷問を受け泣きながら死の恐怖と戦っている青姫には申し訳ないが、殺されるなら一瞬で殺してほしいと願わずにはいられなかった。


「このぶら下げている人間はなんだ? 」


 大嶽丸が、九尾が頭を掴みぶら下げている青姫を興味深そうに見る。


「これは、人間でんでん太鼓という玩具ですよ 」


 九尾はそう言うと、青姫の頭をくるくる回した。すると、粉々に骨を砕かれた青姫の手足が、まるででんでん太鼓のように青姫自身の体を叩き、激痛で青姫が泣きながら絶叫する。


「ほお 面白そうだ 俺にも貸せ 」


 大嶽丸は、九尾から青姫を奪い取ると回転させ、涙を流し絶叫する青姫の姿を見て楽しそうに大笑いした。


「やめろ、やめろぉーーっ 殺すなら僕を先に殺せっ 」


 タダユキが堪らず、大嶽丸に向かって怒鳴った。大嶽丸は、はぁという顔でタダユキを見ると、蚊を潰すように巨大な手でタダユキを潰そうとした。


「待て、大嶽丸 その者は殺すな 」


 九尾が、大嶽丸を止めるが、大嶽丸は構わずタダユキを潰そうとする。タダユキは、九尾の思い通りにならなかった事で多少気分がスッとした。これでいい、タダユキは最後に瀕死の青姫を見つめると目を閉じた。


・・・姫 先にいってるよ ・・・


 目を閉じたタダユキは、すぐ自分の最後がくるものだと思っていたが、それは何時まで待っても訪れなかった。タダユキは、恐る恐る目を開けると腹這いになっている自分の上にクロが庇うように立っていた。


「クロ…… 大丈夫なのか?…… 」


 クロも、九尾の闇の波動で大きなダメージを受けた筈だった。クロは、タダユキと目が合うとタダユキの顔をぺろぺろと舐めた。そういえば最近色々な事がありすぎて、クロとこんな風にするのは久しぶりの感じがする。以前の平和だった日常が戻って来たようでタダユキは心が安らいだ。が、何故、僕は生きているんだ?とタダユキは疑問に思う。それとも、もうここは死後の世界なのか、タダユキが不思議に思い、よく目を凝らして見ると、大嶽丸がクロを嬉しそうに撫でていた。


「クロ、しばらく見なかったが何処にいたんだ 」


 大嶽丸は、つい先刻までと一変し穏やかな表情でクロに話しかけている。クロも大嶽丸に撫でられ、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしていた。


「クロ この人間と仲がいいのか? 」


 大嶽丸がクロに言うとクロは、そうだというようにニャーと鳴き、さらに大嶽丸がぶら下げている青姫を見つめニャーと鳴く。そして、好敵手•朱姫や白姫、玄姫の方も向きニャンと鳴いた。


「んっ…… この人間たちとも仲いいのか 」


 大嶽丸は、ぶら下げていた青姫をクロの横に置くと、なんとタダユキと青姫に向かって頭を下げた。


「クロの友人に失礼な事をした 申し訳ない 」


 二人に深々と頭を下げた大嶽丸は、クロの方を向くとそれにしても人間嫌いのクロがなあと感慨深げに呟いた。


「あの、大嶽丸さん 僕たち自分の世界に帰りたいんですけど…… 」


 タダユキが恐る恐る図々しい事を言うと大嶽丸は、ああそうかと拳をグッと握り力を込める。すると闇の一部がパリンと割れ、そこに異界とは違う世界がのぞいていた。それは懐かしい人間の世界だった。


「ここから帰ればいい 」


 大嶽丸が、あっさりと帰り道を示すが九尾が激高する。


「大嶽丸 横から出て来て何勝手な事をやっているのですか その人間はわたくしのものです 」


 九尾の妖気が爆発的に大きくなっていく。タダユキたちは、その妖気だけで魂を持っていかれるのではとガクガク震え声も出せなかった。が、大嶽丸の穏やかな表情も一変し、九尾以上の妖気に包まれその圧倒的な存在感を示す。全ての物を破壊する黒いそれ、ブラックイットは青ざめた九尾の頭をガシッと掴むと、そのまま振り回し地面に叩き付けた。それを、九尾の戦意がなくなるまで大嶽丸は何度も繰り返す。あの九尾を子供扱いにする大嶽丸に、タダユキたちは衝撃を受けていた。そして、大嶽丸に何度も地面に叩きつけられていた九尾は、口からダランと舌を出したまま、ぐったりと横たわりピクピクと痙攣する。それはまるで、青姫が玉藻の前にやられた事を、そのまま自分がやり返された感じだった。


「九尾 貴様、誰にものを言ってる このまま頭を潰して魂を喰らい永久に消滅させてやろうか 」


 九尾は許しを乞うように大嶽丸を見上げるが、大嶽丸は気が収まらないのか九尾の頭を足で何度も踏みつけトドメをさそうとする。が、九尾は頭を潰される寸前、隙を見つけ横に転がり大嶽丸の攻撃から逃れると悲鳴を上げながら走り去り闇の中に逃げていった。


「ふん、まったく狐風情が…… 今度会ったら殺してやる 」


 大嶽丸は残念そうに舌打ちするが、クロの方に向き直るとニコリと穏やかな表情になる。


「クロ 人間の世界が気に入ったのか 」


 大嶽丸がクロを撫でながら言うと、クロはその通りと云うようにニャーと答えた。


「俺も今度、人間の世界に会いにいってもいいかな? 」


 クロは、もちろんというように大嶽丸に顔を擦り付けた。


「あの…… 大嶽丸さん ありがとうございました 」


 タダユキや朱姫たちが揃って頭を下げる。


「クロの友人は、俺の友人だ 何かあったら遠慮せずに言え 」


「ありがとうございます 心強いです 」


 タダユキたちは、また頭を下げ、青姫をクロの背中に乗せる。クロは満身創痍の青姫に刺激を与えないようにゆっくりと歩き出した。そして、闇の裂け目から元の世界に戻る。タダユキたちが元の世界に戻ると、闇の裂け目はゆっくりと閉じ始めた。そして、完全に閉じきる前に大嶽丸の、また会おうという声が聞こえてきた。


お読みくださり有難う御座います。

少し長くなってしまいましたが、これで無事完結です。

そして、最終章「ブラックイット5」まで、しばらくお待ち下さいませ。


ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ