闇から落ちしもの 7
闇から落ちしもの 7
青姫、朱姫、白姫、玄姫。四人の魍魎討伐者から放たれた「エターナル・イクスティンクション」は玉藻の前を逃さず滅しようとしていた。玉藻の前に逃げ道はなく、このまま魂まで永遠に消滅するのは時間の問題と思われた。タダユキは改めて彼女たちの強さ、そして凄さを認識する。
「ごあぁぁーーーっ 」
玉藻の前が絶叫し救いを求めるように天空に手を伸ばすが、そのまま四芒星に押し潰されていく。
「馬鹿な、このわたくしがこんな小娘たちに…… 」
玉藻の前が、四芒星に押し潰され、やったとタダユキが勝利を確信した時、押し潰されていた玉藻の前に黒い闇が纏わりついていく。が、ついに四芒星がピタリと閉じた。タダユキは玉藻の前が押し潰され勝ったと喜んだが、何故か玉藻の前を拘束していた断罪の鎖が千切れ、四人は仰向けに倒れていた。そして、パーンと四芒星も砕け散り闇が再び広がっていく。
「そんな…… こんな事在り得ない…… 」
玄姫が起き上がる事もできず震える声で呟く。他の三人も息を呑んで闇を見つめている。その全員が見つめる広がる闇の中心に異様なモノが動いていた。九本の尾を持つ巨大な黒い獣、ブラックイットが禍々しい気配を辺り一面に撒き散らし立ち上がる。
「よもや、わたくしがこの姿を晒すとは…… 」
それを見た瞬間、タダユキもその圧倒的な恐怖に心臓が鷲掴みにされた。こんなのどうすればいいんだ。タダユキは押さえようとしても体が震えて止まらず、倒れている青姫の手を握った。青姫の手も震えている。
「九尾…… 玉藻の前の正体です でも、白面金毛の筈…… 何故、黒く? 」
青姫は震えながら目の前の黒い獣を見つめる。そして、タダユキに立ち上がらせて下さいと言うと、酷いダメージのある足に力を入れ起き上がろうとした。タダユキが後ろから抱きかかえ立ち上がらせる。
「君、これを 」
青姫はタダユキに呪符を渡した。そして、私たちがなんとか九尾の注意を逸らします。九尾の意識が君から離れて私たちに向かった時、その呪符を使い逃げて下さい。おそらく異界からは抜け出せる筈です。いいですか、チャンスは一回切り一人しか使えませんのでクロちゃんは……。青姫は言葉を濁すと、タダユキに”さよなら”と小さく告げ、震える足で九尾に向かってヨロヨロと歩き出す。呆然と見送るタダユキは、その青姫の後ろ姿が遠目にもわかる程ぶるぶると震え、スカートが濡れているのに気付いた。
「待って下さい、姫 」
タダユキは後ろから青姫を抱きしめて無理やり引き戻す。
「姫だって怖いんじゃないですか もう無理しないで下さい 姫はこんなになるまで僕を守ってくれた 僕もやれる事はやってみます 死ぬ時は一緒に死にましょう 」
タダユキは青姫を優しく座らせると、また青姫に口付けた。そして、クロの頭を撫でる。
「なあ、クロ 僕の最後のお願いだと思って聞いてくれないか 」
クロはタダユキの目を見つめると、言いたい事は分っているというようにニャンと鳴いた。タダユキはクロの頭を優しく撫でると、じゃあ行くかクロと言い立ち上がった。
「いけませんっ 駄目ですっ 」
青姫が叫ぶがタダユキはクロと九尾に向かって歩いていく。青姫が立ち上がり追かけようとするが、立ち上がることが出来ず地面に転がった。
「君、行かないで下さい…… お願い、私を一人にしないで…… 怖い…… 」
今まで気丈に振る舞ってきた青姫は地面に転がり泣きながら、つい本音が口をついて出ていた。それを聞いたタダユキは、くるりと振り返るとニコリと笑った。
「姫、べつに漏らしても恥ずかしくないですよ 」
えっと青姫は慌てて自分のスカートを触ってみると、確かに濡れてしまっていた。
「ちょ…… 君はこんな時に何を言っているんですか それに、私も別に恥ずかしいとは思っていません 」
それは何時もの青姫だった。良かった、それでこそ姫だ。タダユキはホッと安心して青姫に手を振ると九尾に向かう。だが他の三人は、気持ちではタダユキを助けようと思っていたが、体が硬直したように強張り動けずにいた。圧倒的な恐怖に声を出す事も出来ず、ただ涙を流しながら震えている。そんな中、タダユキが動けていたのは古の大陰陽師の力がどこかで作用していたのかもしれない。
「わたくしのこの姿を前にして恐れず向かって来るとは…… 」
九尾は口元に笑みを浮かべる。
「さすが”カモノタダユキ” お前が闇に堕ちた時が楽しみです まず、その死にぞこないの娘を殺し、残りの娘も残酷に殺していきましょう ”カモノタダユキ”、お前が絶望で心が砕ける姿が待ち遠しい 」
九尾は、邪悪な笑いを振り撒く。そして、青姫に向かって巨大な手を伸ばしていく。動く事が出来ない青姫は覚悟を決めたように、グシャグシャの顔を九尾に向け毅然とした態度をとっていた。九尾は口元に笑みを浮かべ人差し指と親指の鋭い爪で青姫の頭を摘まもうとする。他の三人も、青姫がまた残酷な仕打ちを受け今度こそ確実に殺されると思いながらも、まだ恐怖から抜け出せず体を動かす事が出来なかった。