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闇から落ちしもの 2


 闇から落ちしもの 2



 青姫の頭上に朱姫の姿をした魍魎の踵落としが決まるかと思われた刹那、横から黒い影が飛び出し朱姫の姿をした魍魎に体当たりする。それは、今までタダユキの傍らにいたクロだった。朱姫の姿をした魍魎はクロに体当たりされ公園の芝生の上をごろごろと転がる。青姫が顔を上げて見ると、タダユキが起き上がり朱姫の姿をした魍魎を指差していた。


「クロ もう朱姫さんを休ませてやってくれ…… 」


 悲愴な表情をしたタダユキは、それでもしっかりした口調でクロに命令する。タダユキは、こんな姿になった朱姫を何時までもそのままにしておきたくなかった。少しでも早く安らかに眠らせてあげたい。そして、朱姫さんを眠らせてあげたら僕も……。

 

 タダユキの思いを知ってか知らずか、クロは吹き飛ばした朱姫の姿をした魍魎に鋭い爪で追撃をかける。


「待って その魍魎を傷つけないでっ 」


 青姫が叫ぶ。クロは、青姫を振り向くと分かったというように頷き、爪を引っ込めると、その代わりに強烈な猫パンチを浴びせた。朱姫の姿をした魍魎はクロのパンチを浴び再び地面に崩れ落ちる。


「姫 どうして 」


「あの体はおそらく(みお)本人の体 だから、なるべく傷付けず取り戻したいのです 」


「どうすれば 」


(みお)の体に魍魎が取り付いているのは間違いありません 私が真言で魍魎を追い払いますので、押さえ付けておいてください 」


「分かりました クロ、頼む 」


 クロは、倒れている朱姫の姿をした魍魎に飛び乗り地面に押さえ付け、その動きをがっしりと止める。そして、青姫は印契(いんげい)を結び真言(しんごん)を唱えた。


「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン 」


 朱姫の姿をした魍魎から、白い煙が上がり逃れようと苦しんでいたが、そのうちに動かなくなった。今までの魍魎は煙と共にその姿も消えていたが、この魍魎は動かなくなったが朱姫の体はそのまま残っている。


「やはり、この体は(みお)の本物の体…… 」


「朱姫さん…… ごめんなさい 僕が…… 」


 タダユキは公園の芝生の上に静かに横たわる朱姫の体の前に頭を垂れ跪き涙を流す。その後ろで青姫も朱姫の体を見つめ固い表情をしていた。

 その時、クロがいきなり咆哮し公園の奥を睨み付けた。


 公園の奥の暗闇が急に濃くなり、まるで生き物のように動いている。それは円を描くようにぐるぐると動き、巨大な渦巻きのようになり、その中心から手のようなものが出てきた。手のようなものは、しばらくその手を閉じたり開いたりしていたが、まるでタダユキたちを狙うように、にゅぅーっと伸びてくる。


「危ない、君は早く逃げてっ 」


 青姫の言葉に、今度はタダユキは素直に従い一目散に走り出す。闇から伸びてきた手は青姫とクロの前でゆらゆらとゆっくり動いていたが、突然動きが早くなると地面に横たわっている朱姫の体をがっしりと掴む。そして、朱姫の体を持ち上げると闇の中に引きずり込もうとした。


・・・朱姫の体が、目的だった? ・・・


 咄嗟に青姫は短い真言を唱え闇の一部を封印する。クロも伸びてきた手に素早く飛び付き、その伸びた腕に鋭い爪で斬撃を浴びせた。腕は一瞬、朱姫の体を落としそうになるが、ぎゅっと握り直しそのまま闇の中に消えていった。クロが悔しそうに唸り声を上げる。そして、朱姫の体が吸い込まれた闇は薄まっていき、やがて、周りの闇に同化していった。


「姫 どうして敵は朱姫さんの体を? 」


 遊具の陰に隠れていたタダユキが青姫に駆け寄る。


「今までは確証がありませんでしたが、これで確信が持てました 」


 青姫は、朱姫の体が消えていった闇を見つめながら言う。


「君 安心して下さい 朱姫は生きています 」


「えっ でも…… 」


「もし朱姫が殺されていたならば わざわざ死体を回収する理由がありません まだ、生きているからこそ強引に取り戻したのでしょう 」


 青姫はタダユキを見つめる。タダユキはしばらく青姫の言った言葉の意味を噛みしめているようだったが、その目から涙が溢れ出した。そして、青姫に抱きついた。


「朱姫さんが生きてる…… 」


 青姫もタダユキを優しく抱き返す。


「君 良かったね 」


 その二人の姿をクロも嬉しそうに見つめていた。


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