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9ターン目

 

  九ターン目


 その時、私の手に持っている勇者の剣が眩い光を放ち始めた。

 その光は私の体を包み込み、やがてこれまでの旅で訪れた町や村などの風景を映し出す。

『勇者様、魔王の闇の力に飲み込まれないで!』

 それは以前、私が魔物の呪いを取り除いた村で出会った少女の声だった。

『おい、あんたにはまだあの時を返してねえ、そんなところでくたばるなよ!』

 これは確か、魔物の毒で苦しんでいるところを魔王の薬草で助けてあげた青年の声だ。

『勇者よ、そなたはまだ死ぬ運命ではない』

 ああ、この声は何度も聞いた、私に魔王を倒す使命を与えた王様だ。

 魔王の脅威に苦しめられてきた世界中の人々の声が次々と聞こえてきて、私の持つ勇者の剣に不思議な力を与えていく。世界平和を望んでいる彼らの想いが形となって、それは光と溶け合い、そうして生まれた光は一粒の雫となって勇者の剣へと宿る。

 私は一人の勇者として直感した。

 あっ、これ、剣を一振りしたら魔王を一撃で倒せちゃうやつだ、と。

「馬鹿な! この暗黒に満ちた異空間の狭間に、虫けら如き人間共の声が届くだと?」

 ここで本来なら、勇者である私は『虫けらなんかじゃない。この声は大切な人を失い、生きる希望を見失っても、それでも変わらない明日を迎えようとする、そんな人間の力強さと勇気を示す、魂の叫びなんだ!』とでも言い返しながら、勇んで立ち向かうべきなのであろう。

 それは私も理解している。分かってはいるのだが、残念ながらそれはできない。

 何故なら、倒すべき魔王が思いの外、私の好みだったからだ。

 みんなが私に期待しているところ悪いが、私は魔王を倒したくない。本当に申し訳ない。

「まさか、我が人間の、たかが貴様一人の力に……、ん?」

 私は光輝く勇者の剣をまったく見当違いの方向へ放り投げた。

「えっ、何をしておる? 貴様、正気か?」

 魔王は私の取った行動に驚いて、信じられないとばかりに首を横に振る。

「魔王である我がこう言うのも何だが、今のはとても勇者がする行動だとは思えぬぞ。言っておくが、この異空間で一度見失った物は二度と見つける事が出来ぬからな?」

 その怪訝そうな顔には隠し切れない動揺の色が表れている。

 訳も分からずに戸惑っている魔王様、可愛い。

 さて、魔王様を仲間にする方法を今一度よく考えてみよう。


                                十ターン目へ続く


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