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8ターン目


  八ターン目


 そこは異次元と言うべき空間であった。

 元々は魔王城の一部であった瓦礫や柱、その外に広がっていたであろう草木や岩、そういったものが断片的に周囲を漂っており、私もその浮遊物の一部として宙を浮いている。

 見上げると、そこには魔王の姿があった。

 月のように白い肌と血のように紅い瞳を持ち、顔から手足の先に至るまで禍々しい紋章を浮かび上がらせ、背中には大きな漆黒の翼を広げている。邪悪な闘気を纏うその佇まいには圧倒的な支配者としての風格が伴っており、今までとは明らかに雰囲気が異なっていた。

「貴様にこの姿を見せる事になろうとはな。……さあ、我を下してみよ!」

 これまでの長い旅の中で得た数々の経験から推察するに、これが最終形態であろう。

 いや、普通に可愛い。最終形態になっても女の子っぽい体型のままのところとか、八重歯の残っているところとか芸術点が高い。その上、第二形態よりも魔王感がぐっと増して、これぞまさしく魔物を統べる王という威厳があって恰好良い。

 ただ、こうなってしまっては魔王を仲間にするのは難しいだろう。

 第一形態や第二形態の時は魔王からしてみればお遊び感覚だったのだから、私が上手に彼女の心を動かす事さえできていれば、それは実現可能な望みだったかもしれない。だけど、最終形態となった今、魔王は私との戦いに本気を出してしまった。

 つまり、魔王は私を倒す事以外の考えをなくしてしまったのだ。

「どうした? 我を仲間にしたいのであろう? 生憎だが、我は我よりも強い相手にしか興味がない。せっかく、この空間の中で特別に貴様の体にだけ自由を与えてやっているのだ。我を唸らせる攻撃の一つや二つぐらいやってみせよ、んん?」

 魔王は手の甲を下向きにした手招きをして、こちらを挑発している。

 私は何が何でも魔王を仲間にしてやりたくなった。

 ここで魔王を倒す事は簡単だ。魔王を倒して、世界に平和を取り戻して、多くの人々の歓声と賛美を受けながらお城へ凱旋し、身に余る褒美を受けて故郷へと帰る事ができるだろう。

 だが、私はそんな富と名声よりも、目の前の魔王様が欲しくなったのだ。

 この世の中に人間は腐るほど多く存在しているが、この魔王様は世界に二人といない。

 私は手に持っている勇者の剣を固く握りしめる。

「ほう、ようやく来るか、勇者よ!」

 狂気に満ちた笑みを浮かべる魔王の瞳に一筋の光が差し込んだ。


                                九ターン目へ続く

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