7ターン目
七ターン目
魔王はこちらの様子を窺っている。
きっと、これまでの私の行動を見て警戒しているのであろう。心なしか、彼女の私を見る目が変わったように思う。少なくとも、もはや私が勇者である事は忘れているに違いない。
「貴様は何者だ? 何が目的なのだ?」
私は一応勇者なのだが、今の目的は魔王を仲間にする事なのだ。
この戦闘が始まってから色々と試してきたが、いまだ魔王の心を動かす有効な手段が見つかっていない。ここは一度、小細工なしに心から訴えかけてみるのはどうであろうか。
私は魔王に自分の正直な気持ちを伝えてみた。
「……何、我を仲間にしたい? 我が、貴様の下に就くと?」
魔王は堪え切れないとばかりに笑い出す。
「有り得ぬ! 貴様が我に下るのであればともかく、我が貴様の、人間の仲間になるはずがないであろう、んん? だが、そうだな、貴様の強さは大体分かった故、我が番犬になる事は許してやっても良いぞ? 人間を飼い慣らすのは中々気分が良さそうだからな」
魔王様の番犬、それはそれでありかもしれない。
私は別に隷属的な気質を備えている訳ではないが、この可愛い魔王様になら色々と命令されても苦痛ではないし、実際さっき魔王様から見下された時も不快ではなかった。もし、私以外の勇者が魔王様に近付こうものなら追い払う事もできて好都合だ。
でも、やっぱり私は魔王様を仲間にしたい。
自分のものにしたい気持ちもありつつ、常識的に考えて仲間にできないはずの魔王を仲間にしてやったという達成感も欲しいのだ。私は自らの手でそれを勝ち取ってみせる。
魔王は私を嘲笑うように顎を上げる。
「まさか本気にしたか? それとも、ようやく真面目に我と戦う気になったか?」
私は改めて自分の気持ちを伝えてみた。
「そうか、それほどまでに我を仲間にしたいと。面白い、面白いぞ、ならば己が手でその望みを叶えてみるが良い。だが、我が真の姿を前にしても同じ事が言えるとは思えぬがな?」
魔王は自分の体を抱くように両手を後ろへと回して、その勢いのままに鋭い爪を背中に突き立てる。皮膚と肉を引き裂くような嫌な音と共に、彼女の両手はその背中から漆黒に染まった翼を引き抜き、それと同時に全身の肌から血の気が引いて、鈍く光る瞳の朱色が際立つ。
束の間の静寂を経て、突然周囲のありとあらゆる風景が崩れ去っていく。
八ターン目へ続く




