6ターン目
六ターン目
魔王は私から距離を取り、こちらへ右手の平を向ける。
「そろそろ終わりだ。ここまで、貴様はよく戦ったが……」
そう喋っている途中で魔王は口を閉じて、しばし思考を巡らせるような間を空ける。
「いや、そんな事はなかったな。貴様はほとんど戦っていない。謎の肉を放り投げて、我をこれでもかと賛辞したかと思えば、低級な魔法を詠唱し、我の攻撃に一度だけ反撃をした。貴様の行動を真実口にしているにも関わらず、我ながら何を言っているのか分からぬぞ」
そう言われると、私も自分の事ながら何をしているのかよく分からなくなってくる。
「とにかく、貴様との戦いはこれで終わりだ」
魔王の伸ばした右手に邪悪で淀んだ空気が凝縮されていくように思った次の瞬間、視界が歪むような衝撃波を体に受けて、私は膝から崩れ落ちた。苦痛はないものの、体中のあらゆる力が抜けていき、恐ろしい勢いで体力が減っていくのを感じる。
これは魔法でも通常攻撃でもない、こちらの装備や耐性を無視する特殊技だ。
「貴様とは血湧き肉躍る戦いができると楽しみにしておったが、期待外れだったな、残念だ」
私とした事が油断してしまった。まさか、ここで特殊技を使ってくるなんて。
いくら魔王様よりも私の経験値の方が高いとはいえ、直接相手の体力を削ってくる耐性無視の特殊技を使われては防ぎようがない。普通、こういう技は戦闘が始まってすぐか、敵が追い詰められた状況で使ってくるものだから、まったく身構えていなかった。
ああ、魔王様が近付いてきて、地面に這いつくばっている私を見下ろしている。この角度から見る魔王様も可愛い。でも、段々と私の意識が遠く、視界も霞んできて……。
ふと、私は体が軽くなって、そのまま一息に立ち上がった。
「ば、馬鹿な! 我の闇の力を受けて、再び立ち上がる事などできぬ!」
魔王は誰の目にも明らかなほど狼狽えて後退った。
いや、私も今、自分でも何故生きているのかと不思議に思っているところだ。
そういえば、私は魔王との戦いに備えて、戦闘中に即死級の攻撃を受けた際に一度だけ身代わりとなってくれる宝石を衣服の内側に忍ばせていた。取り出してみると、その宝石は淡い光を放っており、間もなく跡形もなく崩れ去ってしまった。
「ぐぬぬ、貴様は一体何なのだ!」
魔王は歯軋りをしながら握り拳を作って、悔しそうに腹を立てている。
私は死なずに済んだ事よりも、腹を立てる魔王様を見れた事にとても満足していた。
七ターン目へ続く