5ターン目
五ターン目
いわゆる、これは第二形態というやつだろうか。
魔王は温存していた力を解放して、その姿形を変化させて、これまで以上に激しい攻撃や魔法を連続で畳み掛けるようになった。しかも、新たな特性を得て浮遊状態にあるのか、離れた位置から遠距離系の攻撃を仕掛けてくる。
「我がこの姿になったのは久方振りである。せいぜい、長く我を楽しませてくれよ?」
私はちっとも楽しくない。
だって、魔王様が宙に浮いているせいで、その愛くるしいお顔を全然堪能できないもの。もっと近くに寄ってくれないと、体を動かした時に横髪や袖口の隙間からちらっと覗く邪悪な模様も楽しむ事ができないじゃない。
どうにかして、魔王様との距離を縮める事はできないものか――ついでに心の距離も。
つと、私はある方法を思い付く。そうだ、こちらから相手に近付くのではなく、相手からこちらに近付いてきてもらえば良いのだ、と。
「フハハハッ、所詮は非力な人間よ。本気を出した我を前に手も足も出まい。……ん?」
私は魔王に背を向けて、一目散に逃げ出した。
しかし、魔王に回り込まれてしまった。
「おい、何をしておるのだ! 貴様、勇者のくせに知らぬのか? 魔王との戦いから逃げる事はできぬのだぞ? まったく、本当に呆れた奴だな」
こちらの思惑通りに魔王は地上に下り立ち、私の目の前に立ち塞がってくれた。
ああ、こうして間近で見ると、ますます仲間にしたくなってしまう。
幼気な輪郭をしていながら凛々しい目鼻立ちしているところとか、可愛いお顔をしているけど冷たくて鋭い目付きをしているところとか、そして第二形態で追加された禍々しい紋章のような模様が頬や首元にも浮き上がっているところとか、好きな点を挙げれば切りがない。
私の視線に気付いたらしく、魔王は怪訝そうに顔をしかめる。
「もしや、貴様は我と戦う気がないのか?」
まさしく、私は魔王様を仲間にしたいだけなのだ。
「まあ、そんな事はないとは思うが、仮にそうだとしても、この戦いは我か貴様か、どちらかの敗北でしか終わる事はない。当然、我が勝つに決まっておるがな?」
魔王は私を挑発するようにこちらの顔を覗き込んでくる。
戦闘には関係のない能力値だが、私の『理性』が激しく低下していくのを感じる。
六ターン目へ続く