2ターン目
二ターン目
さっきは魔物用の肉で駄目だった。さて、どうするべきかしら。
魔王の攻撃を一回受けてみたけど、そこまで痛くなかったし、戦闘を長引かせる事はできるから時間もたっぷりと作れる。きっと魔王よりも私の経験値の方が高いのね。
「どうだ、勇者よ、苦しくて声も出まい。だが、今のは通常攻撃だぞ?」
道具で仲間にできないのなら、何か特技で魔王を振り向かせる事はできないものかしら。
私は今まで経験してきた戦闘や極めてきた職業の数々を振り返る。
そうだ、敵を仲間にする特技の中に『口説く』というものがあったわ。自分よりも経験値が低い魔物にしか効かない上に、もし魔物以外を対象する場合には性別の異なる相手にしか使えない特技だけれど、はたして魔王には通用するかしら。
私は一歩前に進み出て、魔王の顔を見つめる。
「おお? 反撃をするつもりか? 良かろう、受けてやろうぞ!」
私は特技『口説く』を使った。
私の知り尽くしているありとあらゆる言葉を用いて、魔王の容姿や立ち居振る舞いをこれでもかと褒めちぎり、これまでに彼女が行ったであろう残虐な悪行も強引に曲解して美化し、私自身がいかに魔王の全てに魅了されているかを伝えていく。まさに言葉を尽くして、いよいよ伝える事もなくなった最後には気取った台詞の一つで締め括ったのだった。
それを聞いた魔王は頭の上に今にも疑問符が浮かび上がってきそうな表情をしていた。
「ああ、貴様はあれか? もしや、我の熱狂的な信者で、我が傘下に加わりたいのか?」
厳密に言うと、それは違う。私は魔王を仲間にして独り占めにしたいのだが、結果的にこの戦闘で魔王を倒さずに済むのであれば、そういう解釈も致し方なしだ。
顎に指を添えて、魔王は慎重さを窺わせる面持ちで考え込んでいる。
「いや、我は騙されんぞ!」
魔王はこちらをぎろりと睨み付ける。
「そうやって我を油断させ、懐に入り、その剣で我が首を斬り裂く魂胆だな? なんと狡猾な奴だ、貴様は勇者のくせに卑怯な手を使おうとは。まあ、我に敵わぬと悟って、苦し紛れに思い付いた策なのであろう。その気付きは賢明であったが、策がお粗末であったな」
なんかすごい勘違いをしている。勘違い魔王様、可愛い。
それにしても、魔物用の肉よりは多少効果があったようだ。ちょっと惜しかったな。
手応えはあるし、魔王を仲間にするのは不可能ではないはずだ。
三ターン目へ続く