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10ターン目


  十ターン目


 魔王は呆れたとばかりに大きな溜め息を吐く。

「数々の魔境を突破し、我の忠実なる僕達を下して、この世界の全ての人間共の希望を背負って、我の前に現れた唯一の勇者がこのような意味不明な奴だったとは。貴様が我に情けを掛けたのだとしても、我は仲間になどならぬし、手加減もせぬぞ。良いな?」

 まだ微かに戸惑いの色を残しつつも、魔王は気持ちを切り替えるように拳を構える。

 私は勇者の剣を失った今、魔王に対抗する術を持っていない。

 経験値的には私の方が強いから、まだしばらくの間は魔王の攻撃を耐える事ができるはずではあるけど、もし第二形態の時に放ってきた耐性無視の特殊技をもう一度使われたら、さすがの私も今度こそ本当に死んでしまう。

 それまでに何とかして、あの可愛い魔王様を仲間にする方法を見つけ出さないと。

「ふん、勇者の剣を持たぬ貴様など、もはやただの人間の女に過ぎぬ。武器を持たぬ貴様が我の攻撃をどこまで凌ぐ事ができるか見ものだな? では、ゆくぞ!」

 こちらへと向かってくる魔王に対して、私は防御の構えを取る。

「あっ!」

 その途中、ふと魔王の動きが止まった。

 一体何があったのかと魔王の様子を窺っていると、不意に私の肩に柔らかい物が触れる。

 見ると、それは熊のぬいぐるみであった。

 両腕で抱くのに丁度良いくらいの大きさをしており、毛はボロボロだが汚い感じはなく、とこどころ破けた箇所を裁縫で修復したような跡もあって、首のリボンだけは定期的に付け替えているのか真新しい色をしている。相当大切に扱われてきたのであろう事が見て取れた。

 その熊のぬいぐるみを、私は何気なく掴み取った。

「やめろ、貴様! 今すぐベアを離せ!」

 その魔王の言葉を聞いた私は瞬時に理解し、ある事を思い付く。

 このぬいぐるみが『お気に入りのぬいぐるみのベア』なのか。魔王の反応を見るにこれは使い道がある。あの時に使った『敵の情報を探る魔法』で得た知識がここで役に立つとは。

 私は改めて魔王を仲間にしたいのだと伝える――そのぬいぐるみの両腕を持って、何かあればすぐに左右へと引っ張る事ができるのだと見せつけながら。

 魔王は怯えるように慌てながらこう叫ぶ。

「分かった! 貴様の仲間になる! だから、ベアを傷付けないでくれ!」

 魔王が仲間に加わった。

                                    おしまい

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