プロローグ、タイム・パトロール、時間犯罪者たち
プロローグ
新興国などを中心に全ての国が平等な世界連合が組織され世界中のほとんどの国がこの国際組織に参加していた。世界連合が作られるにあたって参加国全てから派遣された法学者によって議論が行われ、組織と新国際法が作られた。国際連合は参加国のほとんどが脱退し、世界連合が作られたために僅かな国だけが参加する過去の遺物の組織となっていた。
世界連合の下部組織として国家を超えて行われる犯罪を防ぐために多国籍警察組織が作られた。この組織の一部としてタイム・マシンによって行われる実歴史修正を防ぐためのタイム・パトロールが作られた。タイム・パトロールは新国際法の一種である時空間管理法に基づいて活動する時空警察組織だった。
1 タイム・パトロール
タイム・パトロールは日本の埼玉県さいたま市にあった。さいたま市にあるのは首都一極集中を防ぐために行われた地方分散の一環と環境配慮のためだった。
2042年4月4日、タイム・パトロールの一室で時空連続体スキャナーが一定時間ごとにスキャンを行っていた。時空間管理法違反のタイム・マシンを捉えるためだった。室内には隊長のチャールズ・エドワーズを始めとする5人の隊員と通訳アンドロイド一体がいた。
スキャナーの椅子に座っていた隊員の一人、メカニックのトム・コールマンがスキャンを見ているとセンサーが警告音を発した。センサーは現代から第1次世界大戦時代前のドイツ付近へ時空間移動するタイム・マシンを捉えていた。ディスプレイには「国籍・船名不明」と正規に登録されていないタイム・マシンである事が示されていた。大きさはおよそ15mと表示された。タイム・センサーはおおよその大きさなどを感知できるがそれ以上のことを知るには現場付近に時空移動してコンパクト・タイム・センサーでスキャンしなければならなかった。表示された情報を見た隊員の一人、黒野晴斗が「時間犯罪者だ」と、とつぶやいた。
しばらくの沈黙の後に隊長のチャールズ・エドワーズが言葉を発した。
「出動だ!」
隊員たちとアンドロイドは装備室の中へ歩いて移動し、パワー・ガンを身に着け、胸当てなどを着込み、装備の点検・確認をした後、タイム・クルーザーのある隣室に移動し、タイム・クルーザーに乗り込んだ。タイム・クルーザーのコクピットのディスプレイには室内のコンピュータから転送された情報が表示されていた。隊員の一人の23歳の白人アメリカ人の女性メアリー・スチュアートが時間犯罪者逮捕のために現場に向かって時空間移動を開始した。
タイム・クルーザーが時空間移動を開始すると船体は小さな鈍い振動音を発した。時空連続体に乗って移動しているためだった。
「気持ち悪いよな、いつも」隊員のアルベルト・ゲントナーが言葉を漏らすと、アンドロイドUT3が答えた。
「音を小さくするようにできるのですが、そうすると移動しているかどうか分かりづらくなるのでわざとそのままにしているんですよ」
「UT、そうなのか」驚いたゲントナーは言葉を返した。
「そうです」
「知らなかったよ」
しばらくすると、鈍い音が続く中コールマンはコンパクト・タイム・スキャナーに捉えられたタイム・マシンの情報をディスプレイを見ながら報告した。「船体は船長10メートル、幅5メートル、高さ3メートル程だ。良くある筒型のタイプだな」
タイム・マシンは時空間移動後に衝突で故障しにくいように全体が凹凸の無い筒型の金属でできていることが多かった。
「時空移動終了の衝突などに備えてTM(タイム・マシンの略)シールドをオンにします!」操縦していたメアリーが叫んだ。時空移動終了後に障害物に衝突する危険性があるので衝突を防ぐシールドが備わっているのだった。スチュアートの声を聞いた隊員たちは身構えた。障害物の他に時間犯罪者から攻撃を受けることがあるためだった。
「いよいよだな」隊長のエドワーズがつぶやいた。
メアリー以外の隊員はパワーガンを利き手で抜き、万一に備えた。
2 時間犯罪者たち
「時空移動を終了しました!」メアリーがそう叫ぶと、タイム・クルーザーは振動しなくなった。時空移動に成功したのだ。
タイム・クルーザーのドアから、まず隊長のエドワーズが出た。続いてゲントナー、晴斗が、そしてトムが外に出た。
エドワーズがドアを出ると時間犯罪者たちが10メートルほど離れたところにタイム・マシンと一緒に居た。時間犯罪者たちは三人だった。リーダーらしい中年のアジア人の男と中年の白人の男とアジア人の若い女一人だった。相手はこちらに気づきこちらの様子を見ながら相談し始めた。
エドワーズが警告し始めた。「タイム・パトロールだ! お前たちを時空間管理法違反の容疑で逮捕・・・」
言い終わらないうちに時間犯罪者たちは発砲し始めた。エドワーズとアルベルトと晴斗とトムは握っていたパワーガンを発砲し応戦し始めた。
中年のアジア人が発砲し、晴斗に命中し晴斗の胸当てが吹き飛び、晴斗は後ろに飛ばされた。
パワーガンを撃ちながらトムが晴斗に声をかけた。「大丈夫か、晴斗?」
伏せながら晴斗が答えた。
「大丈夫だ、胸当てが壊れただけだ。みんなは大丈夫か?」