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婚約破棄系統

婚約破棄した王太子の戯言に、国王陛下は「甘やかし王妃」ごと見限ると決めた〜好んで王太子になった訳ではありません〜

作者: 美香

思い付いたので書いて見ました。何だかんだ悪役令嬢ってヒロインより圧倒的美人だけど、なんで惚れてしまうんでしょうか?

 その公爵令嬢は醜悪な相貌をしていた。

「公爵令嬢、いや、化物ジーン!!」

 故にその公爵令嬢は「化物聖女」と呼ばれていた。

「貴様との婚約を破棄する!!」

 しかし王太子インポスドーレは「化物」と呼び、あろう事か婚約を破棄すると怒鳴った。場は新たな成人貴族を祝う、学院の卒業式。その場には卒業を迎えた学生とその家族、会場を整える教師陣や在校生だけでなく、来賓として周辺国の貴族、そして何より祝辞を述べる、このシマラクイン王国の国王夫妻が居る。

「貴様は伝説の聖女等と騙り、あろう事か私の婚約者の座に納まった!! 有象無象は騙せても私の目は誤魔化せん!!!」

 ぽっかーんとしている周囲。「え、アンタ(王太子)の婚約って王命しょ? それだと命令した王様達が有象無象って言っちゃってるよ!?」と言う衝撃をポカン顔に収まっているのは、流石、感情抑制を厳しく躾けられる貴族達、と言った処だろうか。

「更にそれだけでなく、貴様はこのザクソン男爵令嬢トランに醜悪な嫌がらせをしたっ!!! トランの美しさに嫉妬してなっ!!!」

 漸くポカン顔をしていた周囲の思考が動き出す。「ああ、そう言う事か」と(嫌な)納得をして、王太子インポスドーレと彼に腰を抱かれている令嬢ーー恐らくトラン・ザクソン令嬢なのだろうーーを見遣る。

「醜い貴様が美しく愛らしいトランに嫉妬してしまうのは無理無いだろう!! だが!! それで嫌がらせとは!!! あまつさえ命まで狙おうとするとは!!! その性根、貴様の顔よりも醜い!!!」

 「いや、それはどうかな?」と目立たぬ様に首を傾げる人間がチラホラ。

「よって!!! 私はジーン・サンド公爵令嬢と婚約を破棄し、真実の愛の相手たるトラン・ザクソン男爵令嬢と!! 新たに婚約を結ぶ!!!」

 先程まではまだ冷静に事の成り行きを見ていた周囲は、ざわり、と静かな動揺を見せる。彼等の視線の向かう先は国王夫妻、サンド公爵夫妻、序にザクソン男爵夫妻だ。国王夫妻は「怒りを込めた無表情」と言う器用さを顕し、サンド公爵夫妻は「憮然とした無表情」と言う器用さを顕し、ザクソン男爵夫妻は「青白い顔色の無表情」と言う、高位に劣る器用さを顕していた。


 婚約者の居る王太子インポスドーレがトランと浮気をしているのは周知の事実であった。しかしこのシマラクイン王国の貴族社会では男性側の浮気はそこまで問題にならない。男性が義務を果たしている限り、女性が浮気を詰るのは淑女失格で、「性格が悪い」と女性側有責で婚約or婚姻破棄されるのだ。

 しかし逆を言えば、もし義務を果たさなくなったら男性側の浮気は認められなくなる。女性側からの仕置きが許可されるのだ。

 貴族社会に於ける婚姻は家によって状況に違いはあれど、政略の意味がある。謂わば仕事だ。婚姻約束である婚約も言わずもがな。

 他方、浮気は遊びである。王国はブラックではないので、仕事漬けにしたりはしない。休暇や休日くらい認める。当然、遊びにツベコベ言わない。但し、遊びで仕事をいい加減にするならば話は別だ。浮気で政略を蔑ろにするならば、話は別なのだ。

 そして政略を蔑ろにしていると見做される事の中には、浮気相手を婚約者や妻よりも優先する事も入っている。政略相手には贈り物1つしないのに、浮気相手には高価な物を贈ったり、とか、政略相手よりも浮気相手の方を高いランクの家宅に居住させる、とか……、勿論、公式の場での態度差等も入って来る。


 では卒業式兼成人式で、公衆の面前で、現・婚約者に破棄を言い渡し、浮気相手との婚約を宣言する事は、政略を蔑ろにしている事になるのか。


 答えは「なる」、だ。


 もし本当に浮気された婚約者が、その浮気相手に嫌がらせ&殺人未遂を犯していれば、婚約破棄の理由にはなっただろう。だがしかし新たな婚約を結ぶとなると話は変わる。

 何故なら貴族の婚姻は政略だからだ。今ある婚約を破棄した処で、次の婚約を政略抜きで決められるものではそもそも無いからだ。

 況してや浮気相手が政略の旨味を齎さない家ならば、「浮気相手と婚約する」と宣言した時点で、現・婚約者へ申し付けた婚約破棄は、浮気相手と結婚する(遊ぶ)為のものとなる。「仕事放棄」、或いは「ニート」宣言と変わりない。

 勿論、事前に根回しをして了承を得ていたのであれば、此等は全て引っくり返るのだが………。


 場の空気が変わった。国王が沈黙していられなくなったからだ。

「馬鹿者っ!!!」

 ビリビリと空間に電撃が走る様な心地を味わった者は多かったろう。インポスドーレはビクリと肩を震わせた。

「見損なった。」

 インポスドーレが国王夫妻を有象無象扱いした事からも予想出来るが、「トランと結婚したい」等と両親に相談する事は無かった。まあ、相談していたとして、認められるかと言えば………、である。

 国王は壇上へ上がる。その歩き方は絨毯が無ければ、ドスドスと足音を鳴らせただろう。普段のマナーもかなぐり捨てる有様が、その怒りを物語っている。図らずとも学生にとって、感情抑制は感情恣意も含むと知る、最初の経験となったのだ。

「陛下!」

 その背中を追って、王妃も慌てながら壇上へ上がる。

「お待ちになって下さいっ!!! 私があの子を言い聞かせますっ!!!」

 怒りを顕にする国王が王太子に廃嫡を言い渡すのはもう見えていたからだ。だがそれは国王の怒りを更に煽った。

「クドい!!! お前がそうやって事有ることに甘やかすからこうなったのだっ!!! 子の教育は母親の役目ぞっ!!! そうお前は申した筈だっ!!! 」

 近くで怒鳴られ、王妃は固まる。

「……お前にも罰は受けて貰うぞ。お前のせいなのだからな。」

 無言で震える王妃が王太子に甘い事は、知る人ぞ知る事実であり、サンド公爵はその1人である。サンド公爵の目は軽蔑と怒りを称えていた。

「さて。インポスドーレ。」

「はっ、はいっ!!」

 威圧を滲ませる国王は王太子の名を呼んだ。

「お前はジーン・サンド公爵令嬢が、お前の浮気相手へ嫌がらせを行ったと言うのだな?」

「浮気相手では有りません!! 真実の愛の相手です。」

「そうか。真実の愛か。だがお前を王太子にする為の、サンド公爵家令嬢との婚約だ。それを知らぬでの暴挙ではないな?」

「好んで王太子になった訳ではありません。」

「そうか、ならばもう親でも子でも無い!!! 廃嫡する!!! 王族籍は疎か貴族籍からも名を抜く。平民となり、この場から出て行け!!!」

「恐れながら!!!!」

 怒りの国王に負けぬ声が響いたのはその時だ。

「発言のお許しを頂きたく存じます。」

 声の主はサンド公爵である。

「公爵……、許そう。」

 娘を侮辱された父親でもある。そして王家への影響も強い家の当主である。

「は、有難き。………此度の事は我が娘のみならず、公爵家への侮辱となりましょう。そこな元王太子と元男爵令嬢、及び男爵家への仕置き、我が家へお任せ頂きたく存じます。それさえ叶えて頂ければ、賠償も望みませぬ、これより先も王家への忠誠を誓いましょう。」

「あい、分かった。許す。」

 ーーこうして一連の婚約破棄劇は終わりを告げたのである。






 シマラクイン王国の平民には、ある民話が伝わっている。「化物の様に醜いが心美しい少女は、その優しさで神から聖女と認められ、婚姻した王子と王国に幸福を齎した」、と言うものだ。

 お伽噺であるそれはされど、事実であった。

「但し美化されている。」

「そうなのですか?」

「ああ。聖女は優しい心の持ち主なんかではない。伴侶以外の人間からは只の不気味な、動く人形としか見えない。」

「人形……。」

「聖女は感情がない、聖女は話さない、聖女は命令通りには動くが自発的行動をしない。命令しなければ、食事も取らない、眠らない、排泄もしない。それでも問題はない。病気にならない。どんな毒を盛られても、どんな怪我を負っても、その異常な回復力で治癒される。そして害されても害さない。」 

「……………………。」

「民話の聖女は、その化物の様な醜さから親に捨てられたと言う。孤児院で育てられていたが、余りの醜さに恐れた周囲は見せ物小屋へ売り飛ばしたらしい。見せ物小屋は各地を周り、彼女の姿は晒された。怖いもの見たさで集まった客も多く、随分と貢献したと言う。けれどその間の扱いは酷いものだったそうだ。

 しかしある国でお忍び中の幼い王子が彼女を見初めた。曰く一目惚れだと言う。当然、周りは認めない。あんな化物、例え下働きでも有り得ない、とね。

 しかしその後、王子は倒れた。余命幾ばくか、と言う状況に、少しでも元気になれば、と見せ物小屋から少女を買い取り、王子に付かせた。すると王子は瞬く間に回復した。

 王子が望む為、少女は王子から離せなかった。その内に王子が教えた礼儀作法を完璧にマスターし、仕草だけならば何処に出しても恥ずかしくない令嬢となった。

 また王子は少女と過ごす様になってから、随分と成績が上がった。歴代最高の王子と呼ばれる程に。そして王子は幼いながらも政務に貢献する様になり、その成果を以て、化物聖女と婚姻し、王となった。」

「王子に婚約者は?」

「決める前に化物聖女と出会ったせいで、令嬢の誰もを婚約者に出来る状況に無かったらしい。………そして即位後も王の素晴らしさは益々上がり、国は発展し、富んだ。化物聖女は子を産めたらしく、次代も問題無かった。容姿は王、能力も王……、いや、もしかしたら能力は化物聖女からかもしれない。王は能力は彼女だと言ったらしいのだ。

 ……王は長生きした。そして亡くなるまで若々しかったそうだ。彼は死期を悟ると遺言書を認めていた。内容は『この先も何代かに1度、この国に聖女が生まれる。そして必ず国の王なる者は彼女を愛する。相思相愛の2人を結婚させる様に。さすれば国全体で幸福になるだろう』、と言うものだった。その遺言を残し、王は亡くなり、聖女は亡くなった王の隣で眠っていた時に、着用していた衣類だけを残し、消えていたそうだ。」

 荒唐無稽、と聞こえるかもしれない。しかしこの遺言通りに、聖女は生まれた。身分は様々で、やがて低い身分に生まれた場合は、高位貴族の養女にする様になった。今代の聖女ージーンーもそれに当たる。

「今代の聖女は、私の兄上が娶る筈だった。しかし自身の髪色にコンプレックスを抱く母上は、その髪色を受け継いだ兄上を冷遇し、私の婚約者として定めてしまった。父上もそれを認めてしまった。私はこの歪みを正したいのだ。兄上は聖女を私に奪われたせいで、今も眠り続けている。聖女の加護のお陰か生きてはいるが………。」

 そこで1度、言葉を止めて、続ける。

「サンド公爵家には話を通す。君には、私が廃嫡される為の手伝いをして欲しい。報酬は出す。それにーー、ザクソン男爵家に嫌がらせが出来るぞ。」

 そう言って、望んでもいない王太子の座を兄から簒わされた弟、インポスドーレはトランを見詰めた。





 

 トランは平民の母から産まれた。男爵の浮気が原因だ。男爵は身分も婚姻している事を隠し、母を騙し、母が妊娠したら、浮気(遊び)相手の母を捨てたのだ。

 しかし美しい母に似たトランの前に、男爵は突然、姿を現した。夫人と子を成す前に夫人に死なれ、再婚相手が遂に見付からなかったのだ。トランは半ば無理矢理男爵家に引き取られた。この時、トランの母もまた既に亡くなり、コブ付きの母と結婚した血の繋がらない父と暮していたが、その父も病に倒れていた。父の治療費を出すと約束したのに、それは嘘であった。そうと気付いた時には父も亡くなっていた。

 おまけに再婚相手がその後に見付かり、トランは邪魔扱いされた。容姿が美しかったから、高位貴族から援助を引き出せると追い出される事は無かったから、学院に入学出来たのだ。


 ーーどうせならば、男爵家に復讐してやる。


 そう思っていた処に、何処で調べたのか、全て知っていた王太子が取り引きを申し出てくれたのだ。頷かない訳は無かった。







 そして話は冒頭へ。伴侶以外からは、その生理的嫌悪から憎まれる不可思議な聖女の養育(さしてする事は無いが)を押し付けられた公爵家は、そりゃあ本心では嫌だった。国の為に引き受けたが、家にあの醜い聖女が娘として居ると言う苦痛は大きい。

 聖女の醜さは、化物にしか見えないのだ。首から上がナメクジの集合体になっていると想像して貰うと良いだろう。そう、本当に人間の姿ではない。


 そんなのを娘として育てさせられるのだ。


 公爵家がこの様な状態となったにも関わらず、王家は「毒親王妃」と「王妃を甘やかす王」により、立太子する者を挿げ替えると言う、私欲で執政を曲げる体たらく。そして真実、次期国王となる者に置かれた状況……。インポスドーレの申し出を受け入れない理由は無かった。







 インポスドーレの胸中に「絶対に化物聖女と結婚したくない」想いが無かったとは言わない。結婚すれば、「化物聖女と子作り出来ない」と泣き言を言う訳には行かないのだから。それをしてしまえば、王家が公爵家との政略を蔑ろにした事になる。それは許されない。

 結果的にあの国王夫妻は自分達の尻拭いをインポスドーレにさせようとしただけだ。溺愛、と言うより虐待である。そして国王に王妃を責める資格は無い。

 とにかくその報いは受ける事になるまで、最早秒読み段階であると、インポスドーレを追放した国王は予想もしていなかった。






 シマラクイン王国は、聖女ジーンを一途に愛する王の治世は、大いに栄えた。歴史書にはその執政を支えた王弟インポスドーレの名が残り、その時代に生まれた童話には、「平民と王弟が身分違いを乗り越え、真実の愛で結ばれる」と言った内容のものがあり、ずっと受け継がれていると言う――。








名前の由来

インポスドーレ

耳で聞いたイタリア語。偽物。


ジーン・サンド

どっちも聖女の外国語を耳で聞いたものです。何語にしたか忘れました。


トラン・ザクソン

耳で聞いたイタリア語。取り引き。


シマラクイン

英語。類似+王妃を変形。国王様も王妃様も同類です。

お読み頂きありがとうございます。大感謝です!

前作への評価、ブグマ、イイネ、大変嬉しく思います。重ね重ねありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 意外な展開でした。 善良な兄想いで正当王位の引継ぎを思う国想いの王弟が、 母を悪い詐欺師男にないがしろにされた平民令嬢が、 毒親に立場を奪われ愛する人(聖女)を奪われ弟に押し付けられてい…
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