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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第八十九話 魚型の大天使


 土曜日のお昼時、弥勒はスマホゲームをしていた。異世界から帰還してから天使との騒動や魔法少女関連のイベントによりバタバタとした日々を過ごしていた。


 そのためゲームなどのサブカルからは遠ざかっていた。しかし最近は襲撃も少し落ち着いてきており、魔法少女も全員揃った事で彼の負担も減少した。そこで彼は友達に勧められたスマホゲームを試しにダウンロードしてみたのだ。そしてハマった。


「同じ冒険ならこういうのが良かったな〜」


 それは主人公が世界を冒険するという王道なゲームだった。仲間キャラと協力しながら未知の領域を開拓していくというストーリー。弥勒の異世界生活には無かった「友情」が多大に含まれている。


 朝からすでに三時間ほど夢中になってプレイしていた弥勒。気付くとスマホの電池が大きく減っていた。


「やっぱスマホゲームは電池食うな」


 ストーリーがひと段落した所で一旦ゲームを切り上げる。そしてスマホを充電する。手持ち無沙汰になった弥勒はアイテムボックスから天使コンパスを取り出す。


 ヒコが全員分作ったという事で、先日弥勒の家まで渡しに来たのだ。ついでに依頼していた槍も一緒に渡された。


 以前、ヒコが弥勒の家に泊まった際にオーガの角をベースに槍の作製を依頼したのだ。完成した槍は「オーガランス」という名前にしてアイテムボックスに収納してある。


 試しに軽く振るった感じとしてはパワー増強の類の力が働いていると弥勒は考えている。通常、異世界でオーガの角を工房で武器にしても効果付きの武器にはならない。そのあたりは妖精としての特別な力なのかもしれない。


 他にも素材は大量にあるため弥勒としてはタイミングが合えばヒコに色々と頼みたい所だ。しかしヒコは最近、エリスの家が気に入ってる様であまりこちらには顔を出さない。


 弥勒はアイテムボックスから次に使えそうな素材をいくつかピックアップする。


「世界樹の根に、サンダーウルフの牙あたりは使えそうだな……」


 アイテムボックスのリストを見ていると戦ったモンスターたちの事を思い出し懐かしくなる。つい数ヶ月前までダンジョンにいたというのにもう何年も前の事のように思えた。


『天使でやんす! 天使でやんす!』


「ぬうぉっ⁉︎」


 そんな感慨に浸っていると天使コンパスのアラームが作動する。いきなりのアラームに弥勒は思わず驚きの声を上げる。


 彼は出していた素材を全てアイテムボックスに収納する。そして天使コンパスを手に取り、何の天使が出現したか確認する。そこには「魚」と記されている。


 弥勒が立ち上がり外へ出る準備をしているとスマホが鳴り始める。見てみるとみーこからの電話であった。


「もしもし?」


『アタシだけど! 何か大きい魔法陣が空に浮いてる! 大天使かな⁉︎』


 弥勒は着替えながら窓の外に目をやる。少し先の方に大きな魔法陣が空いているのが見える。


「天使コンパスの表示も考えると魚型の大天使っぽいな。とりあえず現場で合流しよう。他のメンバーも来るだろうし」


『おけー!』


 みーこは了承の返事をして通話を切る。弥勒も急いで玄関から外に出る。そして自宅の近くの目立たない場所で変身する。


「セイバーチェンジ」


 灰色の騎士へと変身した弥勒は飛び上がり、魔法陣が発生した場所へと向かう。しばらく進んでいくと同じように魔法陣へと向かっていたメリーインディゴと遭遇する。


「お前も気づいたか」


「さすがにあんな大きいアラームが鳴れば嫌でも気付くよ。それにしてもまた大天使だね」


 メリーインディゴは深刻そうな表情をして言う。彼女にとって鳥型の大天使も、人型の大天使も非常に手強い敵だった。そのため新たな大天使に警戒している様だった。


「でも今回は魔法少女も揃ってるし、戦力としてはこっちも負けてないだろう」


 弥勒は不安がっている彼女を勇気付けるように言う。それにメリーインディゴも小さく頷く。


「そうだよね。大丈夫だよね」


 その後は二人とも無言で進んでいく。するとようやく現場へと辿り着く。そこは大町田駅から少し西へ行った通りだった。


 車などもそれなりの数が通っており、中には路肩に車を止めて上空の写真を撮っている者もいる。歩道側にいる人たちの中には弥勒やメリーガーネットに注目している者もいる。


「「セイバー!」」


 地面へと着地するとすでにそこにはメリーガーネットとメリースプルースがいた。ついでにヒコも一緒にいる。今回は麗奈の所にいたのだろう。


「状況は?」


「魔法陣が光ってるけどまだ大天使は現れてないわね」


 弥勒の質問にメリーガーネットが答える。するとメリーインディゴが口を開く。


「今のうちに魔法陣を破壊する事って出来たりするのかな」


「お、それナイスアイデア! いけ、スプルーススター!」


 魔法陣を破壊できれば大天使の召喚は防げる。そう考えたメリーインディゴの提案にメリースプルースが乗っかる。そして星形の刃を生み出し魔法陣に向かって投げる。


 刃は回転しながら上空へと上がっていき魔法陣へとぶつかる。しかし刃は弾かれてしまい、あらぬ方向へと跳ねてから消滅する。


「無理かー」


 自分が出した技の結果を見てメリースプルースが残念そうな声を上げる。そんな事をしていると残りの魔法少女たちもやって来る。


「……遅れたわ」


「皆さん、遅れてすいません」


 やってきた二人も上空の魔法陣を見つめる。するとついに魔法陣から光が降りてくる。それを見ていた周りの人間たちが今さら慌てて逃げ始める。


「来るぞ!」


 光の中から大きな天使が姿を現す。それは巨大な青いクジラであった。見た目はシロナガスクジラにそっくりである。しかしその大天使は世界最大の生物と言われるシロナガスクジラよりも更に一回り大きかった。40mほどもあるだろう。


 それが顕現した事により場には緊張感が漂い始める。魔法少女たちの表情も固くなる。


 しかし弥勒は全く別の事が気になっていた。それはクジラの上部にあるものだった。最初はたてがみの様なものが生えているのかと思ったのだが、よくよく見ると違っていた。


 そこに付いていたのは女性の身体だった。へそより上がクジラから生えており、その身体の一部は鱗に覆われている。


「(なんだ……あれは⁉︎)」


 それは弥勒の記憶には無いものだった。魚型の大天使がクジラの姿をしているというのは原作通りである。しかし原作では女性の身体はクジラにくっついていない。見覚えのない状況に弥勒は戸惑いを隠せない。


「何あれ……女性……?」


 そして女性の姿に魔法少女たちも気付き始める。彼女たちも本能的に今までの大天使とは雰囲気が違う事を感じ取る。


 全員で呆然と大天使を見つめているとクジラから生えている女性が口を開いた。それはまるで歌うような綺麗な声であった。そして脳に直接語りかけてくるような不思議なものだった。


『人の子らよ、全ては海へと還るのです』


 そういって女性は両手を広げる。するとクジラの口が開きそこから大量の水が出てきて球体を作る。


「ペタルを出せ!」


「分かってるわ! ガーネットペタル!」


 弥勒の指示にメリーガーネットもすぐに応える。花弁で出来たシールドを展開して弥勒と魔法少女たちを包む。


 クジラは口から巨大な水球を弥勒たちにむかって飛ばしてくる。それは5mほどの大きさで凄まじい勢いで弥勒たちを守っている花弁へと衝突する。


「「きゃあ⁉︎」」


 あまりの衝撃に魔法少女の何人かが悲鳴を上げる。しかし何とか水球を防ぎきった様で弾かれた水が地面へと流れていく。恐らく相性的にも植物系の力であるガーネットペタルは水に強かったのだろう。


「ヒコ、あの上に乗っている女性について何か知ってるか?」


「し、知らないでやんす。そして逃げそびれたでやんす!」


 弥勒からの問いに絶望的な表情をして答えるヒコ。魔法少女が全員揃うのを待っていたため逃げ遅れたのだろう。


「分からないか……」


 弥勒としては詳しく観察してから戦いたい所だが、周りを見てそうもいかないだろうと考える。人々が突如、現れた化物に悲鳴を上げて逃げ出している。車も先ほどの水球の余波により流されるものなど出てきている。


 未知の状況に不安を覚えながらも弥勒は魚型の大天使と相対するのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういうアプリが入ってるとバッテリーの減りが早いらしいですよ
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