第八十一話 最後の魔法少女
その日の放課後、弥勒たちは天使と戦っていた。現れたのはダツの天使である。敵は群れで出現しており面倒な相手だった。
「ひゃあっ⁉︎」
メリーガーネットが特攻してきたダツを慌てて避ける。ダツは光の力により自らの体を強化している。そのため尖った口が非常に危険となっている。
特攻してきた時の威力は弥勒の出したシールドを貫通する程だ。それを見ていたためメリーガーネットも迂闊に花弁のシールドを出す事が出来ないのだ。
「こっちにも飛んで来たんだけど!」
メリースプルースも飛んで来たダツを避ける。そして反撃する。
「スプルースロケット〜!」
魔力で作られたロケットが群れへと着弾する。派手な爆音がその場に響き渡る。そして煙が立ち上がる。
しかし煙が晴れて現れた天使たちには傷一つない。
「がーん! 無傷じゃん!」
「なら今度はあたしがいくよ! はぁっ!」
今度は飛んで来たダツに対して横からメリーインディゴが殴り掛かる。金属音を殴った時のような鈍い音がしてダツの軌道が逸れる。そして地面へと突き刺さる。しかしダメージを受けた様子はない。
「あたしのでもダメなの……⁉︎」
単純な攻撃力で言えばメリーインディゴの魔力パンチはかなり強力だ。魔法少女たちの攻撃の中でも上位に入る。それでも無傷という事が敵の頑丈さを表している。
「なかなか手強い敵ね。ドローンよ、行きなさい」
それを見ていたメリーアンバーはドローンを飛ばす。上空から敵の動向を観察するつもりのようだ。
「真紅の破壊者」
弥勒は最も火力が高いフォームへと姿を変える。そして剣を振るってダツを焼き払う。すると天使の消滅に成功する。
「おぉ! さすがセイバーじゃん!」
「とは言ってもこのペースじゃあの群れを消滅させるのは無理じゃないかしら?」
メリースプルースは「さすセイ」状態となっている。しかし冷静に状況を見ていたメリーアンバーが問題を指摘する。それに弥勒も同意する。
「好き勝手動き回ってるから必殺技で一気に消滅させるのも難しいしな……」
真紅の破壊者の必殺技は炎の龍を出すという超火力攻撃だ。この前の人型の大天使との戦いのように敵が上空にいれば使いやすい。しかし今回は敵が複数いて位置がバラけている上に上空にいる訳ではない。つまり弥勒の必殺技は繰り出せない状況である。
「けどこの大剣でちまちま敵を斬ってくってのもなッ!」
そう言いながらも弥勒はまた一体天使を消滅させる。
「セイバーにばっか良いカッコはさせてらんないし! メリーガーネット、魔力補給をよろしく!」
「あたしも天使に負けたく無い! メリーガーネット、あたしにも魔力ちょうだい!」
弥勒の奮闘を見ていた魔法少女二人がやる気を出す。メリーガーネットに魔力供給を求める。
「ワタシは魔力タンクじゃ無いんだけど! ああもう仕方ないわね! ガーネットサプライ!」
文句を言いながらもメリーガーネットはメリースプルースとメリーインディゴに魔力の供給を行う。
「ありがと! それじゃあドカンと一発! スプルース大スター!」
ドカンと言いながらもロケットではなく大きな星形の刃を飛ばすメリースプルース。刃は近くにいたダツの天使をまとめて切断する。
「ありがとう! はぁぁぁ! インディゴスーパーキック!」
そして相変わらずネーミングセンスの無い技名でダツに蹴りを入れる。すると今度はダメージが通り、吹き飛んだ天使は消滅する。
「二人ともやるじゃない! 半分くらいはワタシのお陰だけど!」
二人の活躍にテンションを上げるメリーガーネットだった。そんな彼女の背後からダツの天使が特攻してくる。
「メリーガーネット、危ない!」
メリーインディゴは咄嗟に声を上げるもののメリーガーネットは振り返るので精一杯だった。そして目の前に迫った天使に彼女は思わず目を瞑る。
その瞬間だった。彼女の前に何か影が降りてきてダツの天使を食い止める。衝撃がやってこない事に気付いたメリーガーネットは恐る恐る目を開ける。
「へ?」
そこにいたのはクマのぬいぐるみ、つまりはテディベアだった。テディベアはダツの口を短い両手で白刃どりのように受け止めていた。この絵だけを見ると非常にシュールな感じなのだが。
「クマの人形……?」
「もしかしたら新しい妖精とか?」
「激かわ!」
「また新たな研究対象が現れたわね……」
四者四様のリアクションをする魔法少女たち。その中で弥勒は冷静だった。
「(あのテディベアはまさか……)」
全員の動きが止まっていた時、上の方から何やら声が聞こえてきた。
「ハーハッハッハッ! ピンチの時にあっしが参上したでやんす!」
何かが弥勒たちの前へと降りてくる。
「清らかな愛は人々の夢、メリーパンジー!」
「そして皆の心の中の妖精、ヒコでやんす!」
降りてきた二人はバッチリと決めポーズをしながら名乗りを上げる。メリーパンジーと名乗った魔法少女は紫と黒をベースにした格好をしている。紫色の艶のある髪はウェーブのかかったロングヘアだ。
「ヒコ⁉︎ それに新しい魔法少女!」
「お前、最近姿を見ないと思ったら……」
「驚くのも無理はないでやんす! しかしあっしが来たからにはもう安心でやんす!」
自信満々にそう言い切るヒコ。心なしかいつもよりサングラスが輝いている気がする。
「あの皆様、初めまして。わたくし、エリス・ルーホンと申します。この度、魔法少女の末席に加わらせていただく事になりました。よろしくお願い致します」
そして変身後なのにあっさりと自らの正体をバラしながら挨拶をしてくるメリーパンジー。それにヒコが慌てる。
「そんな丁寧な挨拶しなくて良いでやんす! しかもいきなり正体をバラしてるでやんすよ⁉︎」
「エリス・ルーホンってまさか美術部の女神の⁉︎」
エリス・ルーホンという名前にメリースプルースが反応する。
「まぁ! わたくしの事をご存知なんですのね。ですがそのあだ名は恥ずかしいのであまり言わないでいただけると嬉しいですわ」
「あ、そうなんですね。わっかりました! アタシはメリースプルースです!」
メリースプルースは相手が同じ学校の上級生という事が分かったので敬語を使う。
「ワタシはメリーガーネットよ」
「あたしはメリーインディゴ!」
「メリーアンバー」
「セイバーだ」
しかし他のメンバーは敬語は使わずに名前だけを言う。戦闘中のためあまりそう言った事に時間を掛けている余裕は無いのだ。
「という訳でこっからメリーパンジーの見せ場でやんすよ!」
ヒコが嬉しそうにそう言う。この妖精は相当メリーパンジーを気に入っている様だ。完全に餌付けされたのだろう。弥勒たちの元を離れて数日。夢のぐーたらを生活を満喫していたに違いない。
「無理ですわ」
「へ……?」
しかし当のメリーパンジーはヒコの発言をあっさりと拒絶する。それにヒコも口を開けて固まる。
「だってわたくしに出来るのはクマちゃんたちを操るくらいですもの。あんなにいっぱいいるお魚さんたちを何とかするのは難しいですわ」
そう言ってポコポコとテディベアを召喚して飛んでくるダツの天使を捕まえるメリーパンジー。彼女は天使の特攻を防ぐ力はあっても滅ぼす力は無いのだろう。
「な、ななななならどうするでやんすか⁉︎」
勝手に出てきて勝手に慌てているヒコ。てっきりメリーパンジーが天使たちを一網打尽にできると思っていたのだろう。しかし彼女の方は冷静で今の自分に出来る事を理解している様だった。
「倒す算段ならあるわ。貴方たちが時間を稼いでくれたお陰でね」
そこで声を上げたのはメリーアンバーだった。その言葉に全員が彼女に注目する。
「メランコリーアナライズ」
メリーアンバーは魔力を高めてから必殺技を開放する。彼女の周りにいくつものディスプレイが浮かび上がる。
「なるほどね、音が弱点という訳ね」
画面を見てそう呟いてからキーボードを出現させて何やら高速で入力していく。そして最後にエンターキーを勢いよく押す。
「これで終わりよ」
するとダツの天使たちを取り囲むように四角い箱が大量に出現する。そしてそこから大音量が出る。
「「「「Toooooo⁉︎」」」」
あれほど頑丈だったダツの天使たちがその音の影響であっという間に消滅していく。そして全ての天使たちがメリーアンバーの必殺技により消滅するのであった。




