表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
80/315

第八十話 月音先生の仮設


 月曜日の放課後、弥勒は企画開発室へと顔を出していた。ロックを解除してもらい部室へと入る。


 すると月音は壁に掛けてある白衣に香水のようなものを振りかけていた。弥勒が部室に入ってきたのでその手を止めてこちらを振り返る。


「お疲れ様です。今日は何か実験する事があるんですか?」


「お疲れ様。今日は魔力を込める物体探しね」


 月音は鞄の中からいくつかの道具を取り出す。そしてそれらを机へと並べる。


「魔力を込める物体?」


「ええ。魔力をエネルギーとして活用するにはまず魔力を溜めておける物体が必要だわ」


 月音のその台詞に弥勒も考える。彼女は魔力をエネルギーとして活用するための物体を探そうとしている。しかし魔力タンクが実現できればそれだけでなく弥勒や魔法少女たちの戦闘時にも魔力を補給するのに使える可能性がある。


 机の上には数種類の金属、鉱物、電池が置いてある。そして月音は指輪にキスをして変身をする。


「メランコリーハートチャージ」


 服や髪型が変わり魔法女子少女になる。何だか段々と変身が雑になっていってるような気がする。


「刹那の閃きは未来への軌跡、メリーアンバー」


 いつも通りあまりやる気ない感じで変身後の台詞を言う。弥勒に変身するところを見られるのには何も抵抗がない様だ。


「まずは鉄からいくわよ」


 そういって月音は鉄を握る。そして鉄に魔力を込め始める。


「(魔力を他の物体に込める……)」


 その光景を見ていて思い出すのはダンジョンで魔物が落としていたアイテムの一つである魔核である。言うなれば魔物の心臓のようなものであり、異世界で使えるマジックアイテムなどにも使われていた素材だ。


 月音が作りたいものはイメージとしてはマジックアイテムに近いだろう。マジックアイテムや魔核もいくつかアイテムボックスに入っている。この姿では難しいがセイバーとして彼女に渡してみるのも手かもしれない。


「無理ね」


 月音は机の上に置いてあるものを次から次へと試していく。しかし魔力を溜められるような素材は見つからない。


「最後は電池ね」


 そして月音は最後に電池に魔力を込める。この電池は電気が抜けた空の電池である。


「ダメね。どれも魔力を溜めておけるようなものでは無かったわ。電気を基準に考えたのだけれど上手くいかなかったわね」


 持ってきた物が全て失敗に終わっても彼女は落ち込んだ様子は無い。実験した結果をPCに入力していく。


「ツキちゃん先輩、宝石はどうですか? 魔法少女になってる時って胸元に宝石みたいなのが付いてますよね」


 弥勒はふと思った事を月音へと提案する。


「宝石……? 確かに言われてみれば付いてるわね。魔法少女の姿なんて恥ずかしくてよく見てなかったから盲点だったわ」


 どうやら彼女にとって魔法少女の姿というのは恥ずかしいようだ。それも無理はないだろう。小学生ならともかく高校生にもなって魔法少女になるなど誰が望むだろう。その辺りの感性はまともなようだ。


 月音は机の中を漁ってアメジストが付いているネックレスを取り出す。


「前に貰ったネックレスをここにしまっておいたのよ。家に持って帰るのも面倒だし」


 そう言ってから彼女はアメジストに魔力を込め始める。するとキィィィンという甲高い音がして魔力がアメジストへと吸い込まれていく。


「成功した……? でもなぜ? さっき使った石英では魔力を注入できなかったわ……。いやもしかして……」


 石英もアメジストも共に二酸化ケイ素で出来ている。しかし先ほど月音が試した石英には魔力が溜まらず、アメジストには魔力が溜まるという結果になった。その事実に彼女は一つの仮説を立てる。


「何か分かったんですか?」


「あくまでも仮説の段階よ。これが私の仮説通りなら魔力を使ったモノ作りは格段と進歩する事になるわ」


 月音は現時点での仮説を弥勒へと話す。


「まず前回も言ったけれど魔力は通常時、私たちでは計測できない状態になっているわ。これをエネルギーとして変換する事でこちらでも確認できる状態になるの」


 そう言って実演する様に手に電気を纏う月音。バチバチと音が鳴っているが痛くは無いのだろう。無表情である。


「このエネルギーに変換するというのは私たちの意志で出来るのよ。今、私が魔力を電気に変えたように。つまり私たちの意思は機械で言うところの回路とスイッチの両方の役割を果たしているわ。ここまでは良いかしら?」


「はい、大丈夫です」


 魔力の扱いは弥勒もできるため月音の言っている事は理解できる。


「そしてこの意思というのがポイントなのよ。この場合、魔力を変換する意思というのは脳から出ている電気信号の事ではないと私は考えているわ。もし電気信号だったら貴方や他の人にも出来ないと変だし、私ですら変身を解除してしまえば魔力を使えなくなるわ」


 弥勒は変身しなくても魔力を使って身体を強化するくらいは出来るのだが、それは言わずに黙っている。


「なら魔力を動かす意思とは何なのか。それは想いが近いと考えているわ。何故なら想いというのも現代の私たちでは計測できないモノだからよ」


「つまり計測できないモノ同士がお互いに干渉していると?」


「ええ。そしてそれが鉱物の二酸化ケイ素には魔力を込められなくて、宝石の二酸化ケイ素に魔力を込められる理由なのよ」


 鉱物の二酸化ケイ素とは石英の事である。そして宝石の二酸化ケイ素はアメジストの事である。


「宝石にはそれぞれ伝承や効能といったイメージが強く結びついているのよ。それは人々の想いが込められてるという事だわ」


「なるほど! 確かに宝石言葉とかもありますもんね。だから鉱物はダメで宝石はオッケーなんですね。何となく分かりました。それじゃあ花とかもいけるんですかね?」


 月音の説明に納得した弥勒は宝石以外でも魔力を込められるのか確認をする。花などは花言葉というものがあるくらい人々の想いと繋がっているものだ。


「いけるとは思うけど、そもそも花自体が弱いから大した魔力は込められないんじゃないかしら? まぁ後で実験しましょう。花壇を掘り返してきなさい」


「急に重労働⁉︎」


 月音の台詞にツッコミを入れる弥勒。そもそも学校にある花壇を掘り返すなど目立ってすぐにバレてしまうだろう。後で怒られるのが目に見えている。


「冗談よ。今回の実験結果で分かるのは今の私たちでは観測できない領域があるという事ね。名付けるなら精神領域かしらね」


 月音が仮説と言っているのは今言っていた内容が事実かどうか観測する術が無いからだ。あくまでこれらは実験結果から逆算した推論であり、それぞれの過程をきちんと観測できた訳ではない。


「それでもこの魔力を込めた宝石を使うのは意外と簡単そうだわ」


「というと?」


「先ほどの仮説でいけば大切なのは想いなのよ。仮にラジコンを作ったとして動力にこのアメジストを入れるわ。そうするとそれだけで動かせるのよ。何故なら魔力を動かすのに必要なのは意思なのだから。つまり電気のように回路が必要ないって訳ね」


 魔力は人の意思に反応する。魔力を雷へと変換するのも、魔力を植物へと変換するのもプロセスは一緒だ。そうなるように願うだけ。つまり魔力を動力として使用する際には複雑な回路は必要ないのだ。


「あ、だからツキちゃん先輩の出したドローンは外側だけで中身は無かったんですね」


「そうね。意思で動かせるなら中の構造は必要ではないわ。ただし外側は精巧でないと使う側の私たちが動くと思えなくなるからしっかりと作る必要があるわ」


 魔力を動力源として使用した場合、外側さえそれっぽく作っておけば使えるという訳である。


「けれど問題の部分はスイッチの方ね。どうすれば変身前の私や貴方でも魔力を動かせるようになるのかしら」


 魔力を動力源として何かを作っても今のところ動かせるのはヒコ、魔法少女、弥勒だけとなってしまう。一般的に普及させるにはそこのメカニズムを解明する必要があるだろう。


「まぁ慌てても仕方ないわ。今日は大きな成果があったんだし良しとしましょう」


「そうですね、月音先生」


 月音の仮説が素晴らしかったため弥勒は何となく先生呼びをする。


「その呼び方は微妙ね。ちょっと月音ママと言ってもらえるかしら?」


「月音ママ」


「……ありね」


「いや無しだろ!」


 こうして人類の新たな可能性と月音の新たな性癖の二つの扉が開いた一日となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 新たな性癖の開花!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ