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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第七十五話 ヒコとエリス


「ここがわたくしのお家です」


 高級外車に乗ってヒコが辿り着いたのは豪邸だった。月音の家も大きかったがこちらは庭付きだ。建物も洋館といった雰囲気で現代建築だった月音の家とはまた違う趣きがある。


「大きいでやんすね〜」


「ありがとうございます。ヒコちゃんのお菓子もたくさん準備してありますからね。ゆっくりしていって下さい」


 嬉しそうに笑ってエリスはヒコを案内する。玄関を入ると何人かのお手伝いさんが頭を下げてくる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ただいま帰りました。皆さん、お疲れ様です」


 エリスは軽く頭を下げて挨拶する。エリスの立場はあくまでもお手伝いさんよりも上のため深く頭を下げる事はない。それは上流階級としての振る舞いだった。


「エリスらお金持ちなんでやんすね!」


「わたくしでは無くお父様やお祖父様のお陰ですわ」


 エリスはヒコからの感想にそう答える。彼女の家は資産家のため普通の人たちよりも優雅な暮らしをしている。


「さぁそれではわたしくの部屋に向かいましょう」


 エリスの案内にヒコもついていく。その間、ヒコはキョロキョロしながら周りを観察している。壁には高級そうな絵画や壺が置かれている。


「こちらがわたくしの部屋です」


 扉を開けてヒコを中へと入れる。彼女の部屋はまさにお姫様といった雰囲気だった。キングサイズの天蓋付きベッド。アンティークなテーブルとチェアー。部屋自体は薄紫色を基調にしており、派手ではあるが下品ではない。手入れの行き届いている綺麗な部屋だった。


「ふぉぉー! すごいでやんす!」


「ふふ、ありがとうございます。ヒコちゃんも寛いで下さいね」


 エリスがそう言った所でお手伝いさんが入ってきて大量のお菓子と飲み物を置いていく。お菓子はエリスが事前にリクエストしていた様で高級な洋菓子以外にもスーパーで売られているお菓子も多くある。飲み物は紅茶と緑茶が用意してある。


「たくさん、お菓子、やんす」


 思っていたよりも大量のお菓子にヒコの言葉遣いが変になる。


「これで足りるかは分かりませんが、是非お食べ下さい」


「ありがとうでやんす!」


 ヒコはピューンとテーブルへと飛んでいきお菓子の群れにダイブする。そしてその中からひょっこり顔だけ出す。


「まぁ可愛らしいですわ!」


 その光景を見てエリスは嬉しそうに微笑む。ヒコは早速お菓子をばくばくと食べ始める。まず最初に選んだのはショートケーキだ。


「ヒコちゃん、魔法少女になったらわたくしは何をすれば良いんですか?」


 エリスはヒコが食べ始めたのを見て質問を始める。まず最初に聞くのは魔法少女についてだ。契約する以上、詳細を知りたいと思うのは当然だろう。


「もぐもぐ、天使と戦うでやんす」


「戦うなんて怖いですわ……わたくしに務まるでしょうか……?」


 戦うと聞いてエリスは不安そうな表情をする。それに対してヒコの方はお気楽そうに答える。


「他にも魔法少女がいるから大丈夫でやんす! 最悪はセイバーが何とかするでやんすし」


「まぁセイバーさんはお強いのですね。わたくしを助けて下さった時も凄かったですし。あの時、お名前をお聞きしたのにパニックになっていたせいで忘れてしまっていたのは申し訳ないです……」


 エリスは弥勒に助けられた際に名前を聞いたのだが、ヒコと会う頃にはすっかり忘れていたのだ。それを反省している。しかしそれも仕方ない事だろう。命の危機だったのだ。


「セイバーは良い奴だから気にしなくて良いでやんすよ! それにしてもこれで魔法少女が全員揃うでやんす!」


 ついに魔法少女が全員揃う事にヒコは喜ぶ。それにエリスは反応する。


「わたくしで最後なのですか?」


「そうでやんすよ〜。魔法少女の数は五人って決まってるでやんす!」


「何故でしょうか? 人数がたくさんいた方が有利だと思うのですが?」


「そもそも貰った力が五つ分しか無いんでやんすよ。だから魔法少女は五人でやんす」


「そうなのですか……それならば仕方ないですね」


 エリスは魔法少女の人数が増えれば天使との戦いも有利になると考えたが無理だったようだ。自分の案が通らずにがっかりする。


 ヒコはチョコレートを食べていた手を止めて空中からレモンジュースを取り出す。何も無い所から飲み物が出て来たのを見てエリスが驚く。


「まぁ! そのジュースはどこから出されたのですか?」


「ん? 妖精の妙技でやんす」


「凄いですね! 妖精さんはそんな事もできるんですか」


「あっしは特別な妖精でやんすからね! 他の妖精とは違うでやんす!」


 エリスに褒められてドヤ顔をするヒコ。変なポーズをしてカッコつけている。妖精だからヒコは気まぐれな上に調子に乗りやすい。


「他にも妖精さんがいらっしゃるんですか?」


「ん〜、ここには居ないでやんす。遠い所にいるでやんす」


「そうなんですか……」


 他の妖精にも会えるかもしれないと思ったエリスはヒコの答えを聞いて落胆する。彼女は昔からお伽話や童話といったものが好きだったため妖精に憧れがあるのだ。高校生になり妖精など居ないと思っていた所に本物と出会えたのだ。希望を抱くのは当然だろう。


「そういえばさっき契約はしといたでやんす! 指を見るでやんす」


 ヒコに言われてエリスは自分の指を見る。するとそこには紫色に指輪が付いていた。宝石は付いていないが、花のレリーフが非常に可愛らしい。


「可愛らしい指輪です!」


「他の魔法少女には内緒でやんすよ! エリスはいっぱいお菓子くれたから指輪のデザインをサービスしておいたでやんす」


 実は今までの指輪もデザインや質感などはヒコが決めていた。ただそういったデザインに関しては疎いため雑に作っていたのだ。しかし契約前に歓待を受けた事で今回は気合いを入れて指輪を作ったのである。


「ありがとうございます。これを使えばわたくしも変身できるという事ですよね?」


「そうでやんす。詳しくは天使が出現してから覚えれば良いでやんすよ」


「わたくしドキドキしてきました。他の魔法少女さん達はどういった方たちなんでしょうか?」


 胸に手を当ててそう言うエリス。


「……もぐもぐ」


 目を逸らして食べ続けるヒコ。今はザッハトルテをホールのまま食べている。人間だったら体調を崩す程の量を一匹で食べている。


「ふふ、それは会ってからのお楽しみという事なんですね」


 ヒコの沈黙を良いように捉えたエリス。それにヒコは内心で安堵する。詳しく話せば話すほど他の魔法少女たちのイメージがマイナスになりかねない。変な印象を与えないためにも喋らないことが吉だと考えたのだ。


「ヒコちゃんはお洋服は着ないんですか? サングラスはしているのに」


「あっしはクールな漢でやんすからね! 洋服なんてものは着ないでやんす! 裸一貫で世界に挑むでやんす!」


「カッコ良いです!」


 ヒコの宣言を聞いてエリスはパチパチと小さく拍手する。


「いずれあっしはドラゴンになる男でやんす」


「あの……ヒコちゃんはイタチなので成長してもイタチのままですよ……?」


 ヒコの夢に悲しそうな表情をするエリス。彼女は躊躇いながらもヒコに現実を教える。それにヒコはショックを受ける。


「ガーン⁉︎ 細長い生物はみんな成長したらドラゴンになると思ってたでやんす!」


「でもヒコちゃんは今のままの方が可愛いからそのままで良いと思いますよ?」


「そう言うことならそれで良いでやんす!」


 エリスのフォローによりヒコは秒で立ち直る。可愛いと言われて嬉しそうにしている。先ほどまで漢とか言っていたのに凄い変わり身だ。


「夕食はどうなさいますか? 甘いものが良ければ新しいものをご用意しましょうか?」


「ステーキが食べたいでやんす」


 ヒコはエリスからの提案に何の躊躇いもなく夕飯を要求する。その遠慮の無さにエリスは頼られている様で嬉しくなる。


「ではステーキをご用意しますね」


「わーい!」


 こうしてヒコは心ゆくまで大量の食べ物を食べて満腹になって寝るのであった。ヒコはすっかり弥勒の家よりエリスの家の方が気に入ってしまった。

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