第七十一話 水族館デート後編
二人はカフェを出て水族館を見て回るのを再開する。次のエリアに入ってまず目に入ってきたのはカエルだった。
「うひゃ〜、カエルだ。あたしカエルは苦手だなぁ」
「俺としてはカラフルで面白いと思うけど」
カエルが並んでいる水槽を眺めながら感想を言っていく。水色や黄色のカエルなど鮮やかな色をしているカエルが多い。
「ミロクガエルっていそうだよね」
「いねーわ! それ言うならアオガエルはほぼアオイガエルだろ」
「なにそれ! それは許されざる発言だよ!」
頬をぷくーっと膨らませてアオイは怒りを表現する。弥勒は指でその膨らみをつつく。するとプシュウと音がして空気が抜ける。
「もう、何するの! あたしは怒ってるんだよ
」
アオイは全然怒ってない顔でそう言う。表情はむしろ半笑いである。弥勒もそれに釣られて笑う。
「カエルみたいな顔になってたから」
「弥勒くんはレディの扱いがなってないね。減点四点だよ!」
「減点て……ちなみにゼロ点になったらどうなるんだ?」
「あたしの家で強制的に女性の扱いについて学んでもらいます。三泊五日です」
「一泊どこいった⁉︎」
海外旅行の様な仕様になっている事に弥勒は驚く。何点満点かは不明だがこれ以上減点にならない様に気をつけようとこっそり誓う。そしてカエルのたちがいたエリアを後にする。
「このエリアは何か工場みたいだね」
「ここは水族館の裏側とかも見れるエリアみたいだな」
新しいエリアを満喫する二人。
「水族館って設備凄いんだね」
「今まで気にした事無かったな。でもよく考えたら生物の住む地域によって水温とかも違うし設備が大変なのは当然なのか」
「なるほどー。動物園とかはもっとアナログだよね」
「そうかもなぁ」
そして最後のアマゾンの生物たちのいるエリアへと行く。すると派手な模様のエイが目に入ってくる。
「なにこれ! こんな柄のエイなんているの⁉︎」
黒い体に黄色っぽい斑点が付いている。それが水槽の中に四〜五匹いて迫力がある。
「ポルカドットスティングレイって書いてあるわ。名前かっこいいな」
「ポルカドットって水玉模様とかそんな感じの意味だったはずだから割とそのまんまの名前だね」
どうして生物がこんな模様になるのか不思議に思う二人。
「水玉模様の服とかは着ないの?」
「うーん、水玉模様って綺麗に着こなすの難しいんだよね。今のあたしたちくらいの年齢だと下手すると子供っぽく見えちゃうし」
「なるほどな。というかアオイって服装とかあんま気にしないタイプだと思ってたわ」
基本、ランニングを一緒にしているので弥勒としてはトレーニングウェアのイメージが強い。その次に制服なので、あまり私服のイメージが無いのだ。
「ありますぅー。バリバリありますー。クローゼットもパンパンだし。減点十二点だね!」
「しまった! 残りの持ち点はいくつだ?」
「二万」
「元点高すぎだろ!」
再びの減点に焦る弥勒だったが持ち点を聞いて安心する。むしろ元の点数が高すぎる事に逆に不安を覚えるくらいである。
「加点もあるからね」
「そうだったのか……ちなみにどうすれば加点になるんだ?」
「うーん……そう言えば今日は服装について何も言われてないな〜」
弥勒からの問いに対して分かりやすい反応をしてくれるアオイ。鈍感寄りの彼でも流石に意味がわかった。
「アオイの今日の服、すごい可愛いよ」
「はうっ! 三千点加点しました。ついでにドンペリも追加でお願いします!」
弥勒からストレートに褒められて照れるアオイ。照れ隠しなのか訳の分からない事を言って誤魔化している。
「ホストクラブか! というか加点が高すぎだろ」
「弥勒くんが女誑しなのが悪いんだよ。でもホストになったら人気出そう」
「出ないだろ」
「いいや人気でるね。むしろあたしが一番にしてみせる!」
「それホストに入れ込んでる人の台詞!」
どんどんエイとは関係のない話になっていく。そうしている内に館内の水槽を全て見終わる。最後に二人はお土産コーナーに立ち寄る。
「わ〜! ぬいぐるみとかもいっぱいある! 見て見て、このアロワナ可愛い!」
アオイはそう言ってそんなに可愛く無いアロワナの人形を触る。弥勒はその隣のペンギンのぬいぐるみを触る。
「ペンギンいなかったけどぬいぐるみはあるのな……」
ショップで展開しているぬいぐるみの豊富さに驚く。館内にいない生き物たちのものも多い。もちろんぬいぐるみ以外にもお菓子なども豊富に揃えている。
「ねぇねぇ、お互いにぬいぐるみを一体ずつ選んでプレゼントしあわない? 変すぎるのは無しにして」
「面白そうだな、乗った」
アオイからの提案に弥勒は乗っかる。そして早速、別々になってぬいぐるみ探しに入る。弥勒はぬいぐるみを買った事がないので選ぶのに苦戦する。
「(果たしてどこまでが可愛いで、どこからが気持ち悪いになるのか……)」
そのまま十数分探してから再び合流する。アオイの方は自信ありげに笑っている。
「まずはあたしから! じゃじゃーん!」
アオイが背後から出したのはタツノオトシゴのぬいぐるみだった。顔は少しデフォルメされて可愛くなっている。その一方で色はグレーのため弥勒の部屋でも置きやすい。
「タツノオトシゴ! 選んだ理由は名前がカッコいいから! どう? 良くない⁉︎」
「理由が雑! でもまぁ可愛いかな」
「でしょー! さぁ次は弥勒くんの番だよ」
嬉しそうにアオイが笑う。そして弥勒も自らが選んだぬいぐるみをアオイにも見せる。
「俺のはナマズのぬいぐるみ。ポイントは少し抜けてそうな顔かな」
弥勒が選んだのはナマズのぬいぐるみだった。ただしかなりデフォルメされており、ゆるキャラのようになっている。そのためナマズ本来の気持ち悪さはなく万人受けしやすそうなものとなっている。
「おぉ! 確かにこの間抜け面が可愛い! 何かボーッとしてる時の弥勒くんに似てるし」
「いや似てないだろ」
「この子の名前はミロクにします!」
「聞けや」
アオイは弥勒が選んだナマズのぬいぐるみを嬉しそうに見ている。弥勒の話も聞かずに名前を決めている。
ぬいぐるみが決まった事で会計へと向かう。ついでに家族用に無難なクッキーを買う。そして二人で水族館を後にする。
「いや〜、楽しかったね!」
「思ったよりもオシャレだった」
二人は水族館に満足したようでその表情は楽しそうだ。お互いに感想を言い合いながら歩く。
「そのタツノオトシゴちゃんの名前は決めた?」
「いや俺はぬいぐるみに名前とか付けないし」
アオイが自分が選んだぬいぐるみの名前について聞いてくる。弥勒としては今までぬいぐるみに名前などつけた事ないので正直に答える。
「それはひどいよ! ならこの子の名前はアオイで!」
「なんでアオイの名前になるんだよ」
「あたしの方の間抜けナマズちゃんがミロクだから。きちんと毎日枕元に置いといてね」
「うーん、まぁいいか。でも枕元に置かない。流石に邪魔だし」
弥勒としては名前にこだわりが無いのでアオイの提案をそのまま受け入れる。ただし枕元に置くのは嫌だったようだ。恐らく枕元にぬいぐるみを置いておくのは恥ずかしいというのもあるのだろう。
「がーん⁉︎ そのぬいぐるみは弥勒くんと一緒に寝たいんだよ! 寂しがりやなんだから」
「いつの間にか性格まで作られてるし……」
「とにかく毎日枕元に置いておいて、寝る時と起きた時に挨拶をすること! これはもう必須事項だよ」
とにかく熱く語るアオイ。その熱意に弥勒も押され気味だ。
「わ、わかったよ……」
アオイからの圧が凄いため弥勒はとりあえずこの場では頷いておく。実際に枕元に置いているかはアオイには分からないため大丈夫だろうと考える。
「ジー……」
しかしそんな弥勒の考えを見透かしたのかアオイがジッと見つめてくる。それに彼は動揺しかけるが何とか誤魔化す。
「ほ、本当だって」
「分かったよ。弥勒くんがおはようのキスとおやすみのキスもしたいって言うなら特別に許します」
「何の話だよ⁉︎」
こうして最後まで賑やかなままアオイとの水族館デートは終わるのであった。




