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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第六十六話 アオイの怒り


 その日、アオイはいつも通り部活で公園をランニングしていた。陸上部でもアオイが専門にしているのは長距離のため校内のグラウンドではなく近くの公園で走る事が多いのだ。


 この公園は弥勒と一緒にいる時に天使に襲われた場所だ。ここを走るたびにそれをアオイは思い出してしまう。


「ハァ、ハァ……」


 呼吸の乱れに気をつけながら走り続けて行く。大切なのは力み過ぎない事だ。余計な力を抜いて走れば身体に掛かる負担は少ない。


 そうして無心になって走っていると何やら周りか騒がしい事に気付く。アオイと同じ大町田高校の制服を着ている生徒たちがこちらへ走ってくる。


「どうしたんですか?」


 アオイはそれが気になり、こちらへ向かってきた生徒の一人に声をかける。するとその生徒は半ばパニックになっている様子だった。


「ば、化け物が! サッカーゴールを斬って! 何かヤバいんだよ!」


 そう言ってその生徒は走って去って行った。化け物というフレーズを聞いてアオイが思い浮かべるのは一つだ。天使である。


「まさか学校に天使が出たの⁉︎」


 生徒の証言はパニックに陥っていたため信憑性に関しては何とも言えない。しかし学校に天使が出現していたとしたらアオイにとっても見過ごせない事態だ。


「行かなきゃ!」


 アオイは学校へと駆け出す。先ほどまでランニングをしていのにその疲れを感じさせない程のスピードだった。


 走りやすい道ではなく学校へ最短で向かえるルートを選ぶ。その途中の目立たない場所でメリーインディゴへと変身する。


「よし!」


 変身をすれば速度が更に上がる。アオイは魔力を足に込めて加速していく。これが弥勒ならばぴょんぴょん屋根を飛びながら進んでいくのだが、アオイは走る事に慣れているため道路を凄いスピードで駆けて行く。


 そしてあっという間に学校へと辿り着く。そこでアオイが目にしたのはトンボの姿をした天使が校庭にいる生徒たちを襲っている姿だった。


「ヒドイ……」


 アオイはその様子を見てショックを受ける。つい数時間前まで自分たちが平和に過ごしていた場所が天使たちに襲撃されていることに。


「……ッ」


 そして次に湧いてくるのが怒りだった。自分の大切な場所を傷つけられた怒りだ。アオイはその衝動に呑まれたまま校庭へと飛び込む。


「今すぐ学校から出て行け!」


 生徒の一人を襲おうとしていたトンボの顔面を全力で殴り付ける。グシャリと頭がひしゃげた音がして天使が消滅する。


「早く逃げて!」


 襲われていた生徒に声を掛けると次の天使を倒すためにアオイは再び加速する。声を掛けられた生徒は悲鳴を上げながら逃げて行く。


「(許せない……!)」


 壊されたサッカーゴールや窓ガラスなどがアオイの視界に入ってくる。その度にアオイの怒りが増して行く。


「(あたしの大切な場所を……!)」


 アオイにとって大町田高校は大切な場所だった。今まで走る事しかしてこなかった彼女が青春を手に入れた場所なのだ。それを壊される事は彼女にとって耐え難い苦痛だった。


「(もしかしたら弥勒くんもまだ校舎に残ってるかもしれない……!)」


 彼女にとって最も大切な人の一人である弥勒がまだ学校に残っていて危険な目にあっているかもしれない。そう考えると彼女の頭はより真っ赤な怒りに支配されていく。


 アオイは手当たり次第にトンボの天使を殴る。殴る、殴る、殴る。殴った天使が消滅しているかも確認せずにひたすら殴っていく。


「(絶対に天使たちを校舎に入れる訳にはいかない……!ここで何としても根絶やしにしなきゃ!)」


 しかし怒りに目が曇っているアオイは視野が狭くなっており、次第に劣勢へと追い込まれる。


「きゃあッ!」


 倒そうとしていたのとは別のトンボの天使から噛み付かれる。それにアオイは悲鳴を上げる。


「くっ……こ、この!」


 噛み付いてきたトンボを殴ろうとするものの距離が近過ぎて威力が出ない。その敵に手間取っているうちにもう一匹がアオイに噛み付こうとしてくる。


「スプルーススター!」


 その瞬間、星形の刃がトンボの天使を切り裂いた。それと同時に校庭に魔法少女がやってくる。


「レディ・セイバー……?」


 その魔法少女は仮面をしていなかったが、それ以外は以前に共闘したレディ・セイバーにそっくりだった。


「大丈夫⁉︎ 何がどうなってるの⁉︎」


「メリーインディゴ、大丈夫でやんすか⁉︎」


 レディ・セイバーと一緒にヒコも現れる。二人とも動揺している様だった。それを見て先ほどまでの怒りが嘘だったかの様にアオイは冷静さを取り戻す。


「ふぅ……ありがとう。トンボ型の天使が襲撃してきたみたい。まずは生徒たちを避難させなきゃ!」


「ならアタシがここに残ってトンボ型の天使を倒す。セイバーにも連絡しなきゃだし」


「あっしは急いでメリーガーネットを呼んでくるでやんす!」


 三人がそれぞれの動きを決めて動き出す。アオイは周りに残っている生徒たちを学校の外へと誘導する。


「みんな急いで逃げて! まずは学校から離れるの!」


 その声が聞こえた生徒たちは彼女の元へと集まってくる。


「あの化物は何なんだ⁉︎」「魔法少女って本物か⁉︎」「早く逃げなきゃ」「どこに逃げるんだ⁉︎」


 各々が好き勝手な事を言いながらも校庭に残ってる生徒たちが集まる。それを見てアオイは大声を出す。


「今から学校を脱出する! ついてきて!」


 そう言ってアオイが動き出すと生徒たちはそれについてくる。校舎の中に隠れていた生徒たちも一部それに混じり始める。


 そのまま速やかに学校を出る。数十人ほど引き連れているためまずは公園を目指す。そこには陸上部の遠距離チームと顧問もいるはずなので、合流させて逃そうと彼女は考える。


「まずは公園に逃げるよ!」


 振り返って全員に伝える。すると校庭からこちらへとトンボ型の天使が向かってくるのが目に入る。アオイはその場を飛び上がり近づいて来た天使を殴り飛ばす。


「ハァッ!」


 殴られた天使は吹き飛んで消滅する。その光景を見ていた生徒たちは呆然とする。そして彼女の言う事に従って公園を目指し走り出す。


「ッ⁉︎」


 嫌な予感ぎして咄嗟にアオイは横へとズレる。すると先ほどまでアオイがいた場所に針が突き刺さる。


「みんな止まって!」


 ブウウウンという不愉快な音がして上空からハチの姿をした天使が五匹現れる。


「次から次へと……!」


 再びアオイの怒りのボルテージが上がる。これ程の生徒を連れている以上、絶対に抜かれる訳にはいかない。アオイはいつでも動ける様に魔力を高める。


「jeeee!」


 ハチたちがアオイに突撃してくる。彼女は前に出て先頭にいた一匹が突き出して来た針を避けて頭部に拳を叩き込む。そしてそのまま後ろにいるハチへとぶつける。


「まだまだ!」


 前進した勢いを利用して身体を回転させて蹴りを繰り出す。天使に強烈な蹴りを入れてそのまま反対側にいる天使へとぶつける。これで残りは一匹である。


 最後の敵を倒すのは間に合わずギリギリで針を回避する。天使はそのまま生徒たちの方へと行こうとしたので、咄嗟に地面に落ちている小石を拾って翅に向かって投げる。


 貫通こそしなかったもののハチ型の天使の身体が揺れる。その隙に天使へと追いつき拳を腹部に叩き込む。


「jeeeee!」


 その天使は消滅する寸前に雄叫びを上げる。すると上空から再びハチ型の天使が五匹降りてくる。


「またっ⁉︎」


 同じ展開に驚きの声を上げるアオイ。そしてハチ型の天使たちは先ほどとは違い半円状に広がる。


「これじゃあ一気に倒せない……」


 敵の配置を見てアオイは悔しそうな表情をする。動き方を間違えれば後ろにいる生徒たちに被害が出るだろう。それを理解しているからアオイはその場を動けない。


「アンバーレーザー」


 膠着状態が続いてる中、上空から飛来したレーザーがハチ型の天使を一体焼き尽くす。それにアオイは驚く。


「刹那の閃きは未来への軌跡、メリーアンバーよ」


「……え?」


 見覚えのない魔法少女の姿にアオイは驚く。するとメリーアンバー側もそれを分かっていたのか簡潔に事情を話す。


「さっき闇の妖精とらやらに頼まれたのよ。自分はメリーガーネットを探しに行くから可能なら貴女を助けて欲しいって」


「そうなんだ……ありがとう」


「お礼を言うのはまだ早いわ。この天使とやらを倒すのでしょう?」


 そう言われて改めて残っている四匹のハチ型の天使へと向き合う。そして初戦闘のメリーアンバーをフォローしながら二人で天使を倒していくのであった。

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