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ヤンデレ魔法少女を回避せよ!  作者: 広瀬小鉄
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第四十七話 企画開発室


 弥勒は思わぬ人物の登場に固まってしまう。なぜ原作ヒロインである神楽月音がこの場にいるのか。


「聞こえなかったのかしら? 貴方、一年生でしょ。そのパンフレットを持ってウロウロしてるなら部活はまだ決まってないはず。なら企画開発室に入っても問題ないんじゃないかしら?」


 月音は弥勒が黙っているのを見て言葉を続ける。彼女は論理的に話を展開する。


「企画開発室は部員を募集してないって聞きましたけど……」


「私が良いと言ってるのだから良いのよ。とりあえずついてきなさい」


 そう言って月音は弥勒がついて来るのかを確かめもせず歩き出す。原作ヒロインとの予想外の遭遇に混乱していた弥勒も多少は落ち着きを取り戻す。


「(ある意味、月音と接点が持てたのは幸運かもしれないな)」


 弥勒の生活の範囲内に神楽月音との接点はほとんどない。強いて言えば同じ学校に通っているという点のみだろう。しかしそれだけでは接触するにも不自然だ。


 ましてや彼女は学内でもトップクラスの有名人である。それゆえ彼女と接点を持とうとする学生も多い。下手に接触しようとして彼らと同じように見られてしまったら大きなマイナスとなってしまう。


「そういえば貴方の名前を聞いてなかったわね」


「夜島弥勒です」


「そう。私は二年の神楽月音よ。知ってるとは思うけれど」


 月音はこちらを振り返りもせずに話を続けていく。そしてある部屋の前で止まった。上のプレートには「企画開発室」と書いてある。


「ここよ」


 彼女が扉の取手に指を付ける。すると鍵が外れる音がする。どうやら指紋認証の扉のようだ。


「(ゲームでも知ってはいるが、実際に見ると凄いな……)」


 弥勒は学校ではあまり見掛けない設備に関心する。それだけ企画開発室が特別な扱いになっているという事だろう。


「入ってちょうだい」


 部屋の中に入るとそこは学校の中とは思えないような場所だった。まず目に入るのは大きなモニターと複数のPCだ。そこから配線がさまざまな機械に繋がっており、完全に研究室といった感じだ。


「こっちよ」


 部屋の中には扉があり、月音はそこを開けて更に中へと入っていく。こちらには鍵など掛かっていないようだ。


 弥勒も彼女の後をついて中へ入ると、そこは休憩スペースとなっていた。ソファやテレビ、ティーポット、冷蔵庫などが揃っている。


「ここ、学校ですよね……?」


「ええ、秘密基地みたいで素敵でしょ?」


 ようやくこちらを向いてクスリと笑った月音。その表情には悪戯心が滲み出ている。


「ソファに座ってちょうだい」


 弥勒は言われるがままにソファへと座る。すると月音は冷蔵庫からコーラを二本取り出す。


「コーラでいいわよね。というかコーラしか置いてないわ」


 月音は弥勒にコーラの缶を手渡して隣に座ってくる。彼女はコーラを開けてごくごくと勢い良く飲んでいく。見た目と違って豪快な飲み方だ。


「ぷはぁ、やっぱり退屈な授業の後はコーラに限るわね」


 月音は仕事終わりのサラリーマンみたいな発言をする。弥勒もコーラを開けて缶に口を付ける。久しぶりに飲むコーラは冷えていて美味しく感じる。


「うまい」


「でしょ? 貴方、なかなか見どころがあるわね」


 随分と簡単な見どころだと弥勒は思ったが口には出さない。軽く頭を下げる。


 すると何を思ったか月音は顔を急に弥勒の腕に埋めてくる。そして再び匂いを嗅いでくる。


「臭いわね」


 そう言って顔を弥勒の腕から離してコーラを飲む。そしてまた腕に顔を埋めてくる。


「な、何してるんですか……?」


「コーラを美味しく飲んでるのよ。見たら分かるでしょ」


 彼女はなんて事ないような顔をして答える。見ても分からないから聞いているのだが、彼女には通用しないらしい。


「それよりも私の事は親しみを込めてツキちゃんと呼んでちょうだい」


「分かりました、ツキちゃん先輩」


 弥勒は素直に応じる。すると言われた側の月音が少し目を見開く。そしてクスリと笑う。


「貴方、なかなか順応性が高いわね。気に入ったわ。ちょっと待ってなさい」


 そう言って彼女はソファから立ち上がる。そして部屋から出ていく。その間に弥勒は彼女のことを考える。


「(なんだか良く分からないけど気に入られたっぽいのか……?)」


 神楽月音という存在はこの学校において特別な存在だ。彼女の家は神楽コーポレーションという会社を経営しており、ロボットを専門に開発している企業だ。


 身近なところだとお掃除ロボットなどを作っているが、その他にも医療系ロボットや宇宙空間で作業をするロボットなど多岐に渡って開発生産を行っている。


 世界でも各分野でトップクラスのシェアを誇っており、この国を代表する企業の一つと言える。


 神楽月音はそんな大企業の現社長の一人娘である。彼女は電気電子工学や機械工学などいわゆるロボット工学といわれているジャンルの知識をこの若さながら数多く習得している。


 そして実際に彼女が開発したロボットなどは神楽コーポレーションから販売されていたりする。まさに天才といえる存在だろう。


 この学校には彼女の親も彼女自身も多大な寄付金を納めている。そのため学校側から彼女に何か口を出すのは難しいのだ。また彼女の功績は学校側としてもありがたいもののため自由にさせているというのもある。


「天才……ね……」


 企画開発室というのは彼女のために作られた特別な部活である。そのため彼女以外に所属している部員はいないし、顧問も形式上ついているだけだ。


 ここにある機材や家具などは彼女自身のポケットマネーから購入したものである。ちなみにコーラに関しては部屋の隅にケースが積んである。買いだめしているのだろう。


「待たせたわね」


 そんな事を考えていると月音が部屋に戻って来る。手にはカードらしきものと白衣を持っている。


「これをあげるわ。部活中に使う白衣とここの所属という事を示すカードよ」


 弥勒は白衣とカードを受け取る。カードにはいつの間に撮ったのか弥勒の写真が付いており、身分証明書のようになっている。


「このカードは何に使うんですか?」


「これは特別なカードよ。購買で見せればコーラが10円安く買えるわ」


 弥勒はずっこける。


「冗談よ。それだけじゃなくて教職員にそれを見せれば授業中だろうと問題なく抜け出せるわ。コーラが急に飲みたくなった時にでも使うといいわ」


「サイダ———」


「追い出すわよ」


 弥勒がサイダーと言おうとした瞬間に睨みつけて来る月音。どうやら好きなのはコーラだけで他の炭酸飲料は御法度なのだろう。


「あ、ありがとうございます」


 彼女のコーラ愛はともかくとして授業を自由に抜け出せるというのは弥勒としてらありがたいアイテムだ。


 天使がこちらの事情を考慮して毎回放課後に来てくれる訳ではないのだ。今後、天使の襲来が増えてくれば必然的に授業を抜け出す機会も増えて来るだろう。


 そうなってくればこのカードが活きてくる。もちろん使いすぎると月音に迷惑が掛かるので多用しすぎるつもりは無いが。


「それと部室の鍵は指紋認証になっているのだけれど、こちらに関してはまだ貴方を自由に出入りさせる訳にはいかないわ。貴重なモノも多いから」


 つまりこの部屋に入るには月音が一緒にいる必要があるという事だ。精密機械が多いのは見て分かるので弥勒も特に異論はない。


「と言っても私は大概ここにいるからいつ来ても問題ないわ。それとチャットアプリはやってるかしら?」


「やってますよ」


 二人でチャットアプリのアドレスを交換する。


「これで良いわね。何か聞きたいことでもあるかしら?」


「俺はここに来て何をすれば良いんですか?」


 弥勒の質問に初めて月音が言い淀んだ。


「……そうね、考えて無かったわ。とりあえず貴方は匂い担当だから私が研究に煮詰まったら匂いをくれるかしら?」


 完全にフレグランス扱いをされている弥勒。匂い担当という言葉に複雑な顔になる。


「……分かりました」


「今日の要件はそれくらいね。私もそろそろ帰るから貴方も帰りなさい」


 その言葉に弥勒もソファから立ち上がる。そして部屋を出て行こうとすると月音から声が掛けられる。


「そうだ、最後に一つ良いかしら?」


「何ですか?」


 その言葉に扉に手を掛けたまま弥勒は振り返る。


「パンツだけ置いて行って貰えないかしら?」


「できるか!」


 こうして弥勒は企画開発室に入部する事となった。

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